第4章 燃え上がる恋心
共犯者 第4章 燃え上がる恋心
翌日オフィスにいつものように出勤すると、珍しくNがいた。そしてTさんもすでに来ていた。
「いやー契約おめでとう。早かったな。もう少し時間かかるかと思っていた。一本取れればこれからどんどんとれていくよ。ところで歩合のことだが、クーリングオフがあるから、1週間は見てほしい。1週間経ったら必ず歩合を渡すから。」
今日もいつものように出勤をして、 またTさんと向かい合わせに 仕事を始める。就業と同時に彼女は電話をかけはじめる。まあスタートはコーヒーでも飲みながら始めればいいと思うのだが、彼女は見向きもせずに受話器を取る。
ここで私たちが顧客に売っているものを話すことにしよう。 実は私たちが売っているのはダイヤモンドなどの宝石だ。ターゲットは男性、好きな人へのプレゼントを売り込む。なかなか契約は取れないと思っていたが1件契約が取れると楽しくなった。
考えてみたら彼女とは仕事の話以外、たがいを一切話さなかったが、1件の契約をきっかけに急に親近感がわいてきた。仕事をはなれれば若い二人だ。話すことはたくさんある。
私が聞きたかったのは彼女とNとの間のことだ。
「ところでNとは、どういう知り合いなの?」
「アルバイト先で知り合いました。私は喫茶店の接客係です。Nさんは厨房で調理を担当していました。ウエイトレスとコックです。仕事ができてほとんどお店を彼が任されるのです。特に仲がいいというわけではなかったのですが、最初の会話がこんな感じです。
『今日のお昼はマクドナルド行ったでしょ?』って私に言ってきたのです。『Nさんもマクドナルドにいたのですか?気づいたら声かけてくださいよ。』って返すと
『俺はマクドナルドに行っていない。Tさんの行動を分析すると今日はマクドナルドに行くと想像できる。』ですって・・・『はあ??』って感じですよね。」
Tさんの話は続く・・・
「私のことずっと観察していたっていいだしました。・・・これってストーカーですよ。でね、ニコニコ笑っておれは、君に興味あるっていいだしました。私を口説いてくるのかな・・・Nさんってかっこいいし、頼りがいがあるし私もまんざらじゃなかったのですが、『勘違いするな・・・女性としてのあなたには全く興味ない。』と言われました。・・・すごくがっかりしました。そうしたら逆に失礼ですよね。ちょっと怒って『じゃあ私の何に興味あるんですか?』って聞いたら、『君をビジネスのパートナーにしたい今度会社を立ち上げるからそこの社員として迎えたいと・・・』と真面目な顔で言われました。
「『Nさんにとって私のどこが最高のパートナーなのですか?』って聞きました。そうしたら『Tさんほど単純でわかりやすい女性はいない』「???」どういう意味でしょうか?褒めていませんよね。」と話しながら大笑いをした。
ここから先はあとからNから聞いた話を書く・・・
「Tさんは君の彼女なのか?」と聞くと「まさか?」即答で答えが出る。
「女性としては興味がない。かりにあったとしても恋人にするのはもったいない。恋人にしたら3日で飽きる。ビジネスパートナーならば一生大事にできる。だからTさんを彼女にする必要はない。」Nとそんな会話をした。彼女にするなら3日で飽きるが仕事なら一生つきあえる?Nにとって恋人と仕事のパートナーでは、仕事のパートナーの方が大事ということのようだ。私にとっての仕事は飽きたら変えればいい。でも好きな女性は一生大事にしたいと考える。
そして次にはTさんに私とNとの関係の話をした。1か月に1度会う程度の仲、さすがに食券偽造の話はしなかったが、授業に出ていないのに私よりもはるかに成績が良いこと、パチンコはプロ級で釘の目を見てNが「ここは出る」という台は必ず出ること。私と年が一つしか違わないのに大人びているなどなど・・・そしてTさんと同じように 見込まれて 仕事のパートナーになってくれと言われた。『君は、成績もよくないし、体力もない、女にももてないが善人だ。』そんなことを言われたよ。ひどいと思わない?」
と言って二人で笑う。
そうして契約も2件目、3件目、4件目と順調に取れてかなりの報酬をもらった。そして私とTさんの間もかなり親しい間柄になっていく。そして5件目の契約は私自身の契約になる。営業の世界では営業成績が悪いので自分で加入することはある。でも私にはノルマはない。自分で契約する理由は目の前にいる「Tさんにプレゼントしたい」という気持ちからだ。
それを知ったTさんが「どなたかプレゼントをする彼女がいらっしゃるのですか?」と言われてあわてた。
「 自分で 売っている商品を一つ買っておくのも悪くないかなと思って。」
まさか あなたへのプレゼントにしたいなどとは言えない。 自分で契約書にサインをする。
そんな私を彼女は不思議そうに見る。
そして次の日 Nが笑いながら来る。
「どうしたのだよ、おまえも買うの?」
「あー自分の会社の商品の価値を認めて一つ買ってみようかなーって思ってさ。」
「君も物好きだな。 ありがとうインセンティブの方は いつもの倍出すから、同じ値段で買ってくれ。」
「T さんにもインセンティブつけてくれよな。俺だけじゃなくて。」
「わかった 同じように2倍のインセンティブつけるから。まあこっちは儲けなしだな。」Nもうれしそうだった。
「ところで前から思っていたんだけど、インセンティブは私よりも彼女の方を多くしてくれよ。」
そういうと口を出してきたのはTさんのほうだった。
「とんでもない!あなたがいてくれるから契約が順調なのです。私が少なくしていただいても文句は言えないくらいですよ。」
「いや、実際に売っているのは・・・」
するとNが遮った。
「まあまあそれぐらいにしてつまり君たちはお互いを認め合っているってことだ。だから契約が取れる。その報酬は 俺が考えて渡すから、それでいいだろ。」
誰が見ても商品を売っているのはTさん・・・私はそれを見ているだけで契約書にサインしてもらう。それだけのことはっきり言えばNとTさんが運営しているようなもの。私はなにも貢献していない。しかし二人とも私を認めてくれる。そもそもNが私をビジネスパートナーにする理由はどこにあるのだろう?そんなことを考えているとそNは私に近づき、Tさんには聞こえないように「君はTさんが本気で好きなったようだな?」とささやいた。
私は、あわてて首を横にふると・・・
「まあいい、そのほうが売れるかもしれない。」
「それじゃあよろしく頼む。」そう言ってNは出ていった。
それからも契約は確実に増えていく。お金は入る。こんな上手くお金儲けができるだろうか? Nはそんなにすごい起業家なのだろうか?20歳前の若造にこんなにお金を動かすことができるものだろうか?私は少しずつこの会社を疑いの目を見るようになる。Tさんのセールスが良いのはよくわかる。しかしどこかうまくできすぎてはいないだろうか?
それから私は偽装食券のこともあるのでNを疑い始めた。扱い商品の宝石の入手先を調べるようになった。もちろん仕事中ではなく大学の図書館に行ったりして 調べてみた。取引先の会社について徹底的に調べた。 調べれば調べるほど 疑念が浮かんでくる。 私たちが扱っているものは、本物の宝石なのだろうか?
そんな疑念さえ浮かんできた。もちろんNが信用できないわけではない。でもどう考えてお話がうますぎる。しかしそんなことをTさんには言えない。彼女はあれからもずっと 顧客に電話をし続けている。
どうも商品の入手経路が怪しい。 私たちにあれだけの給与を払っている。当然それ以上の利益をもたらさなければ成り立たない。
会社を立ち上げて半年が過ぎる。これだけたくさんの契約が取れると、どう考えても3人で稼働するのは難しいはずだ。私たち以外の従業員がいるのでは?しかしそんな様子はない。この仕事は謎が多すぎる。
そんなある日Tさんが、私に恥じらいながら話しかけてきた。
「あの、ご相談したいことがあるので、仕事が終わってからどこかでお食事ができたらと思って。」と誘いを受けた。仕事が終わってから?それって仕事を離れたプライベートの話?私はドキドキ胸の高まりを隠せない。彼女を思う気持ちはあれからどんどんエスカレートしていた。そんな矢先の食事の誘いだ。飛び上がりたくなるような喜びだ。
「もちろんいいよ。それじゃあ明日仕事終わったら食事をしましょう。」
「どこに食べに行きます?」
「近くに「A」というイタリアンのレストランがあったよね。あそこどうかなあ?」
「わかりました。」
私はずっと彼女が好きだしかしそれ以上は何も求めなかった。ひょっとしたら彼女の方も私に好意を寄せているのではないだろうか?彼女からの食事の誘いが私を有頂天にさせ自分の都合のいいように自分の気持ちを高ぶらせた。後から考えればこの瞬間が私にとって一番幸せだったのかもしれない。