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第2章 ビジネスパートナー

共犯者 第2章 ビジネスパートナー


Nとのつきあいはまだ続く。その日は珍しく4時間目の授業にもでて家に帰る。途中で駅前のパチンコ店でボーっとパチンコに興じていたときのこと。その日のバイトはない。最後の小銭も底をつきあとは帰るしかなくなったとき、

「そこは出ないよ。」と後ろから声をかけてきたのがNだった。

「ここならまだましかな…やってみ」そう言って持っていたパチンコ玉の箱をじゃらじゃらと惜しげもなくながしてくれた。私の顔を見てニコッと笑うとどこかにいってしまった。

ここなら出る?半信半疑だがせっかく玉を入れてくれたのでやりはじめた。するとおもしろいように出始めた。私の学生のころは10分でフィーバーなんてことはない。30分もやっただろうか、箱一杯くらいにはなった。換金すると2000円。まあそれでも充分かせいだ。

Nにお礼がしたかったがすでに影も形もない。

「共犯者か・・・」

 

あれからまだ私は共犯者という言葉が頭を離れない。不正をしているという自責の念が消えることはない。だからといってNとはずっと友達でいたい。

でも・・・考えてみたらひとつわからないことがある。完全犯罪のからくりをなぜ私に話したのだろう?まさか私以外の友達にもペラペラとこのことを話しているのだろうか?いやそんな危険なことをする必要性はない。そう私にだってすべてを告白する理由もないのだ。偽造のからくりを私に話してNになんのメリットがあるのだろうか?私が彼にとって無二の親友だから?私の方は頭がよく大人びた彼にあこがれのようなものを持っている。しかし彼にとって私に魅力があるとは思えない。


最初に話したが、定期的に待ち合わせることもなくたまたまパチンコ店で会うくらい、月に一度彼の部屋を訪ねる程度の仲なのだ。例えば私がまじめに授業に出ているとか成績がいいというのなら私を親友にする価値がある。また私にガールフレンドがたくさんいて女の子を紹介してもらえそうとか、私にそんな要素は全くない。よっぽどイケメンの彼に彼女を紹介してほしいくらいだ。


だったらなんで私に完全犯罪のからくりを告白したのだろうか、また彼は私を「共犯者」といった。私を共犯者にするメリットとは何だろう?それからというものそのことばかりを考えるようになってきた。同じ学校なのだからさぼりが多くてもたまにすれ違うことがある。目があえば「よう!」と言葉を交わす。その時よっぽど聞きたいと思うのだがわざわざ話があると呼びとめて聞くようなタイミングもない。今度彼の部屋に行ってゆっくり聞いてみるか?そんなことを考えていた。


そんなある日、めったに出ない退屈な講義になんとなく出席していた。少し遅れて教室に入ってきたのがN、私の隣に座った。「よう、久しぶりだな。」

久しぶりなどというあいさつは、よっぽどお互い授業をさぼっているということだ。

「今日、うちに来ないか?」

「いいよ。バイトないから時間あるし。」

私は二つ返事でOKした。

するとNは、教室に入ったと思ったらそそくさと出て行った。つまりは私を誘うためだけに教室に入ってきたということになる。午後のたいくつな授業をうけるのはやめて、ぶらぶらと歩いて駅前のパチンコ店で遊んで夕方近くになると、また牛丼大盛りを二つ買ってNの部屋に行った。

「いつも悪いな。」

そういって二人で牛丼を食べる。

「パチンコはでたかい?」Nは突然私にパチンコの話題をふってきた。

「いや・・・1000円すった・・・」

Nもパチンコをしていたのか?私はNがいたことに気づかなかった。

「なんだよ・・おれに気づいたのなら声をかけてくれればいいのに・・・」

「いや、おれはパチンコ屋にはいっていないよ。」

そして私の目を凝視して意味ありげに笑う。どうしたのだろうか?

今日のNはなにか私を試しているかのようだ。

「じゃあ、なんでおれがパチンコ屋にいたのを知っていたのさ?」

「知っていたわけじゃない。君の今日一日の行動を予想していた。それが見事に的中しただけ・・・」

私はNがいったい何が言いたいのかわからない。


「おれの行動を予想するっていったいどういうこと?」

私はNの言っている意味が分からない。

「ここのところ君の行動を一部始終観察していたよ。どの授業に出たかまたさぼったか、週に何回パチンコ屋に行くか、バイトは週何回入っているかとかね。するとこんなことがわかる。統計的に君はバイトのない日は、授業に出てそれからパチンコをやりに行く。バイトがなければ君は時間がある。うちに来いと誘えば来る。そして必ず牛丼大盛りを買ってくる。そう推理した。それが見事にその通りになった。」


私は少しむっとして

「おれのこと観察する??それって何のためにそんなことするのさ?」

「悪い・・悪い・・そう怒るなって。」

「いや、怒っていないよ。」

「それと、もうひとつあててやろう。君はおれになにか聞きたいことがあるな?最近たまに目があるとなにか俺に話したそうなそぶりを見せる。その聞きたいことが何かも想像がつく。」

なにもかも見透かされている?

なんだかNがすごく怖いやつに感じる。

「あの食券の偽造のからくりをなんでおれが君に一部始終をはなしたのか気になるのだろう?えっ??どうだ?」

その通りだ。ずっと気になっていたことだ。しかしあまりのするどさに何も言えない。

「ハハハ、図星のようだな。」


そこまでいうとNはセブンスターに火をつけてゆっくりと煙を吐いた。

「おれも一本もらっていいかな?」

「おお、もちろんいいよ、タバコ吸うようになったか?」

「いや、これ1本きりでいい。」

そう初めて吸うたばこ。そうこれからNが話す話は、初めて耳にするようなすごい話のような気がして、生まれて初めてのタバコに火をつけた。どういうわけか手が震えた。

次の瞬間おもわずむせてしまい、ゴホンゴホンせき込んでしまった。


するとNはニコニコ笑いながら

「君のそういうところが私の共犯者にふさわしい。」

「ええ?」

「とりあえず、何も言わずに私と同じことをしてみようとするだろう。吸いたくもないタバコを吸おうとした。」

「何を言っているかわからないよな。」

妙な空気が流れた。

「それじゃあ順を追ってはなしをしよう。実は『食券の偽造のからくり』は、もちろん君だけにしか話していないよ。わざわざ犯罪のてびきを君に話をする必要はなかった。でもおれは君につつみかくさず話した。それがなぜかを君は知りたいのだろう?」

「そう・・・・」

わたしはうなずいた。


「つまりね、共犯者が欲しかったのさ。そう君が考えるように『食券の偽造』にはYとHとSに手伝ってもらった。

しかし彼らは共犯者じゃない。やつらだってバカじゃないから普通に出回っている食券ではないことはわかっている。でもどうやって手に入れたかはやつらには言わない。聞かれても『ちょっとな』と言って、ごまかした。つまりやつらは共犯者というよりか利用したにすぎない。」

少し間をとって話は続く…

「しかし君は違うすべてを知っている。しかし『食券の偽造』に君は特に特別なことをしたわけではない。まわりのみんなと同じように食券を安く買っただけだ。」


Nはいったい何が言いたいのだろうか?

またNはあたらしいタバコに火をつける。そして私に

「吸うかい?」と聞く。

「いや、もういい。」

「なあ?おれがこれで終わると思うかい?」

「またやるの?」

「まさか・・・もう食券の偽造はやらない。いくらの儲けにもならないしね。まだ食券はやつら3人の手元に1年分くらい残っているはずだ。だから同じことをやったら今度はばれる。生協も偽造に気づくだろう。おれの計算ではこの辺が限界だ。例えば君がおれとそっくり同じことをしたら来年の今頃君は、学校にはいないだろう。」

いくらのもうけにもならない?でもまちがえなく100万は儲けているはずだ。


「じゃあいったい次は何を考えているのさ。」

「そんなにあせるなって。まだおれの考えは打ち明けられない。今言えるのは今おれにとって、君という男が一番大切な友達なのだ。おれが考えている仕事のバートナーにふさわしいやつなのだ。」今までNは私を犯罪の共犯者といってきたが、はじめて「仕事のパートナー」という言葉になった。


「でもさ、俺は頭がいいわけでもないし、体力が人並み以上とかでもない。カッコいい男でもない。人脈もないし、金もない。もっとパートナーにふさわしいやつはいるだろう?俺は君の頭のよさ、かっこよさに憧れをいだいている。もしおれが起業するならパートナーに君を選びたい。でも君がおれのようなものをパートナーに選ぶ理由がわからない。


「ずいぶん君は自分のことを悲観的に考えているのだね。君にはおれが持っていないすばらしいものがあるのだよ。それはここ数ヶ月君を観察して確信した。」

「何を言っているのかわからない。私が特別に持っているものなんてあるのか?」

私が乗り出して来ると制止するように

 「わかった、わかったそういきりたつな。君のおれがもっていない優れた点はね・・・君は敵がいないことだ。みんなに好かれているってことさ。いつも笑顔だし君を悪く思っているやつはいない。ねっからの善人だ。そこはおれが全く持ち合わせていない所だ。そうさっきだってタバコ一本を吸うのに震えていたじゃないか?」


「それは、初めてタバコを吸ったのだからそんなものでしょ?残念だが君はおれをかいかぶりすぎている。おれだって嫌いなやつもいるし、おれを嫌っているのもいるさ。学校もさぼればパチンコもやる、決して模範的な学生ではない。君は頭がいい。しかしそこは見当違いさ。」

「ハッハッハ・・・・」Nは突然笑いだした。

「いやあ、失敬、失敬、じつは私がこういえば、君は買いかぶりすぎだって言うだろう。そう思った。全く予想通りだったから笑っちゃった。つまり君はまちがえなくおれの思い通りなのさ。」

Nはタバコを消してはつけを繰り返す。


「まずね、模範的な学生と善人とは違う。学校の成績がいいやつは天狗になって、いやな奴に成り下がることがある。失礼だが君はまず、成績はさほど良くない。だから善人の要素がある。それと善人は自分が善人とは言わないのだ。つまりね、野球部のエースに君の投げるボールは誰よりも速く、いいたまを投げるね。といって、その投手がその通りとうなずいたらそれまでの投手さ。しかしその上を狙う一流選手は今のスピードに満足していない。『それは買いかぶりすぎてすよ、まだまだだめです。』と答えるのさ。それがこれからまだ伸びしろのある一流投手の条件さ。」

「じゃあ私は一流の善人なのか?」

「自分で言ったらだめさ」

とNが笑うので私も一緒にわらった。


それから冷静になり一番気になるところの質問を聞いていく。

「結局、何をするのさ?その一流の善人である私に何をさせたい?」

「もう少し待ってくれ。」

「待つのはいいが、こっちだって協力するかどうかはわからないよ。善人に見える私を君が必要ってことは、なんとなくさっしがつく。法にふれるようなことをするのだろ。犯行がばれても善人そうに見える私に疑いはかからない。疑わしくなければ私が絡んでいるとは気づかない。君と私の因果関係がわからなければ君は守られるということになる。君が私を必要というのはそんなところだろう?」

私はNのお株をとって彼の考えを推理した。


「おいおい、そりゃあ考えすぎってもんだ。どうも食券偽造のことがあるから、悪いイメージが消えないようだな。それなら少しだけ話しておこう。心配するなって違法ではない。合法的な会社設立だ。だから君は共犯者じゃないビジネスパートナーだ。」

「じゃあ、君の起こす会社の社員になるということか?」

「株式会社ではないから社員というほどのことでもない。君がいつもしているアルバイ


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