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9.温泉発掘

「えーと、必要なものは魔力石と、短い木の棒と糸で、これで揃ってかな?」

 リゼットが広げた本を見ながら聞く。水脈探知の魔道具の作り方が記載されていた。

「私はこの魔法陣を書くね。」

「全部物置にあって良かったぜ!」

 魔力石を糸で括り付け、木の棒で組んだ卓上サイズのブランコのような形になった。

「こっちは出来た。というか、 よくこんな魔道具の作り方が書いてあるんだな、その本。」

「この本はね、『月刊 生活に役立つ魔法・魔道具』って言って、その名の通り生活に役立つ魔法と魔道具の作り方と使い方が紹介されているんだよ。」

 リゼットが魔法陣を書き上げてながら答えた。

「ねえ、リゼットちゃん。魔法陣って紙に書いて、魔力を通せば発動するんでしょ? その本そのまま使ったらいいんじゃない?」

 リゼットが書き上げた魔方陣は大きさも本にあるものと同じだ。というか薄紙を本にあてて上からなぞったものだ。

「あ、実はこれ学校の図書館から借りたものだから、あんまり勝手なことはしたくなくて。」

「そうだったんだ。その本、月刊ってことは毎月出てるの……?」

 表紙に大きく月刊と記載されている。さらにこの刊で乗っているであろう内容の紹介まで書かれている。

「そうだよ! 王立魔法研究所が魔法の発展と普及のために毎月出してるの! 初回にはあの着火魔法が乗っていて、この本のおかげでソルテラ王国の魔法の普及にも大きく貢献しているのよ!」

 早口でリゼットがまくしたてる。

「そ、そうか……。出来上がったんだから、さっそく使ってみようぜ。」

 そうして三人で事務所の裏へ出た。


 事務所の裏はメインとなる城の外にあるため魔王城の敷地内ではあるが、何も無く原っぱが広がっているだけだ。

 城壁よりも外のため、境界線もただの木の柵しかない。そのおかげで、畑も作れたわけだが。

「ねえ、この魔法陣の起動、私がやっていい? 魔法使えないけど、魔力通すくらいなら出来るし。」

「大丈夫よー。後で地面掘る時の土魔法用の魔力の温存になるし。」

「それならオレも魔法は、からっきしだ!」

「なんで、自信満々なの……?」

 板に魔法陣の紙を載せて、その上にブランコの形になっている魔法石の台を載せる。

 私は魔法陣に魔力を通すと、魔法石が引っ張られるように動く。

「お、成功した?」

「この魔法石が向いているところに地下水脈があるんだよ! 温泉を掘り当てよう!」


 魔法石が指す方向へ進んでいくとそこには……。

「あれ? 私の畑に着いたんだけど……?」

 事務所の裏の私がせっせと耕した畑にたどり着いた。

「本当にこんなところに畑を作っていたのか……。」

「フィオー。ちょうどこの畑の真ん中を指しているのだけどー?」

 畑の大きさはそこまで大きくないが、ここで掘り始めるとなると、畑を結構潰すことになり……。

「私、畑を耕すの結構頑張ったんだけどな……。ここの部分は収穫終わっているのが救いか……。」

「フィオ、掘った分の畑はオレも別で耕すの手伝うよ……。」

「私も畑手伝うね……!」

 これは止められない流れ……。

「ええい、ままよ! 掘るぞー!」

 そうして二人のシャベルと一人の土魔法が畑に穴をあけ始めた。


 ――


「結構掘ったけど、まだ出ないの……?」

 すでに3mは掘ったであろうか。一向に温泉は湧き出ない。

「探知機の反応はまだ下から続いているし、もっと掘らないといけないのかな?」

 二人が掘った穴をリゼットが土魔法で補強する。そうしないと穴が崩れてしまう。

「それにしても魔法って便利だね。土いじりも楽になりそう。」

「この土魔法も結構簡単な部類なんだけど、フィオってこれも使えないの?」

「そうだよー。魔力は別にある方なんだけどねー。才能が無いみたい。」

「でも、土魔法って土を生み出すことは出来ないんだよ。土を操作するだけなの。」

「そうかー。じゃあ、畑を耕すのには使えるくらいか。」

「確か、それが目的で生み出されたみたいだよ。前に本で読んだよ。」

「どうせ、あの『月刊 生活に役立つ魔法・魔道具』でしょー。」

「正解ー。でも、固めるのは簡単でも耕すのは、ちょっと難しいんだよね。」

「ふーん。よくわかんないけど、魔法も万能じゃないんだね。」

 リゼットが穴の周りや、穴の壁面を魔法で補強しているが、魔力で土を押して固めているだけらしい。

 それなら私でもシャベルを使って出来るが、魔力さえあれば体力を使わないのは便利だろうと思う。

 魔力と体力両方使えれば2倍作業ができるってことだ。

「ん? 二人とも、なんか地面がぬかるみ始めたぞ!」

 ベルナデットが言う。

「おお! このまま掘ろう!」

 ラストスパートをかけ全力で掘り進めた。


 地面から水しぶきが上がり、穴掘りで私の火照った体を冷やす。

「あれ、冷たい?」


 ――


「あれー、3人とも何してるのー?」

 寝起きのような声が井戸の上から聞こえた。

 シエルが3人を覗き込んでいる。

「シエルちゃんー。温泉を掘ろうとしたら、普通の水が出ちゃってー。」

「私たちも地底湖温泉みたいに温泉を掘ろうとしてたのー。」

 穴を出ようとしたら、シエルちゃんが浮遊魔法で一気に引き上げてくれた。


「そうだったのー。温泉は掘れないよー。なにせ地底湖温泉は湯沸かし温泉だからねー。」

「えー! じゃあ、魔王城の周りを掘っても温泉は出ないってこと?!」

 思わず膝をつく。

「地底湖温泉の湯沸かし魔道具のメンテナンスもボクの仕事だからねー。魔王城の周りで暖かいお湯は出たこと無いはずだよー。」

「そんなー。私たちは本当にただ井戸を掘っていたってことになるのね。」

「フィオ、ほら畑の近くに井戸が出来て良かったってことにしよう。畑を耕すの私もちゃんと手伝うからね!」

「ああ、オレもやるからさ、気を落とすなよ!」

 二人が励ましてくれる。

「あー。ボクの薬草畑の部分も掘っているじゃんー。」

「シエルもこの畑使っていたの?」

「ボクとフィオで作ったんだよー。半分はボクの薬草畑。」

 そういえば、井戸は真ん中で少しシエルの畑も入ってしまっている。

「でも最近収穫したところだったし、井戸は確かに嬉しいからいいかなー。」


「汗かいたから、お風呂入りたくなってきたね。」

「温泉が湧けば良かったのに……。」

「いやー、いい運動になったぜ! 温泉は残念だったな!」

「蒸しタオル作ったから、これで汗を拭きなよー。」


 観光二課の裏の畑に新たに井戸が出来上がったのだった……。

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