8.野菜スープ
季節の移り変わり、早朝は冷えてベッドから出るのが辛くなる時期。
今日は学校が休みのため、私は朝から魔王城観光二課に出勤していた。
「おはよー。リゼットちゃん、最近冷えるねー。」
「おはよう。フィオ、寒くなってきたよねー。新しく暖かい服買っちゃったよー。」
「リゼットちゃんは引っ越してきてから初めての冬だっけ?」
「そうなの。アンブルナ領って王都よりも結構と寒い土地なのね。あっちだとまだコートは要らないのに。」
「ふーん。そうなんだ。これからもっと寒くなるぞー。」
「ひえー! なんちゃって。」
「さすがにその洒落は寒いって。」
「ぐう、辛辣ー。」
「よー! おはよう! フィオ、リゼット!」
ベルナデットが部屋に入ってきた。寒さのわりに薄着だ。
「ベルさん、その服寒くないんですか?」
リゼットが驚いた表情で質問する。
「ああ、さっきまで剣の訓練をしていたからな。出勤前に毎日やっているんだ。」
「なるほど、これくらいの寒さなら運動にちょうどいいくらいかもですね。」
「いや、言われてみると汗が引いてきて寒い……! くしゅんっ!」
ベルナデットは体をガタガタし始めた。
「ベルちゃん、これ飲みなー。」
フィオは温かい野菜スープを差し出す。
「おー、助かるぜー。温まるー。スープなんてどうしたんだ?」
「寒くなってきたから、グレゴリーさんに頼んでコンロの魔道具を設置してもらったんだよ。それを使って試しにね。」
フィオは事務所一角に用意された簡易的な台所を指さす。
「フィオは料理出来て偉いねー。私はさっぱりだよ……。」
リゼットもスープを鍋から移しつつ呟く。
「味付け結構好みだな。野菜も食べやすい大きさで本当に料理手慣れてるな。」
「まあ、昔は結構料理手伝いしてたし、今は一人暮らしだからね。」
頭を掻きながらフィオは答える。
「それにしたって野菜はどこから持ってきたんだ? わざわざ買ってきたのか?」
「いや、事務所の裏で私が育ててたやつだけど? ちょうど収穫時期だったし。」
「マジかよ?! いや、事務所裏の奥そういや畑みたいになってたな?!」
「フィオ、そんなことやってたの?!」
「あ、いっけない。マルちゃんにバレると面倒そうだから秘密なんだった。」
「よーし、リゼット今のは忘れるぞ。面倒事は避けよう。」
「そうですね、ベルさん……。」
野菜スープは3人で早々に飲み干した。
「なあ、二人ともそういや、温泉入ったことあるか?」
「あるわけないでしょ。魔王城の温泉スパ高いんだよ?」
「私も無いよ。地底湖温泉スパだっけ?高いよねー。」
「だよなー。寒いときには温泉に限るんだけどなー。」
ベルナデットは腕を組みながら話す。
「ベルちゃん入ったことあるの?」
「ああ、昔な。実家は火山の近くにあって温泉が湧いてたんだよ。冬に入る温泉は格別だったなー。」
「うわ、羨ましい! 私も温泉入りたいなー。」
「じゃあ、事務所裏で掘ってみます?」
リゼットが眼鏡を光らせる。
「実は最近、この本で井戸掘りのことを読んだんです。温泉でも使えるんじゃないかなって!」
リゼットは笑顔で本を取り出した。
「魔王城で温泉やっているんだから、外れの二課の事務所裏でも温泉出る可能性あるのか?!」
「ベルさんそういうことですよ!」
ベルナデットも目を輝かせ乗り気である。
「温泉掘り起こせば、温泉入り放題、温泉卵も作れるか……?」
フィオも温泉について思案を始める。
「フィオ、いいねそれ! やろう!温泉堀り!」
こうして突発温泉堀りが始まった。