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5.シエル

「シエルちゃん、いつの間に来てたの?」

「ベルが音読しているときくらい。」


 この子は、シエルちゃん。シエル・ルフェーブル。

 綺麗な青みのある銀髪のエルフ族の女の子で、掴みどころの無い性格。

 魔法の天才で魔王城の魔道具の管理をしているが、観光二課所属の正規職員。

 私よりも倍くらいの年齢だが、エルフ的にはまだまだ子供とのこと。


「そうだ。シエルちゃんには劇を魔法を使って演出してほしいんだけど、頼めるかな?」

「いいよー。ボクにまかせてー。」

 シエルは頼もしいサムズアップと自信に満ちた表情で了承した。

「シエルちゃん、頼もしいけど少しウザったい顔だね……。」

「なっ!?」


「フィオ、台本もいい感じにかけてるし、ちゃんと他の配役も考えないといけないね。」

「リゼットちゃんはどの役がいい?」

「私は司会がいいかなー。お姫様はちょっと柄じゃないし。」

 リゼットの雰囲気と司会は合っていると思われる。

「うーん。そうなると私が悪の大王ファブニール役やるかなー。」

「え、フィオが悪の大王やるの?! 確かに適役なのかも?」

「諸悪の根源ー。」

 シエルが茶々を入れる。

「誰が諸悪の根源だー!」

「ちょ、私はそこまで言ってないって。」


「みんなー。お疲れー。仲良くやっているかい?」

 台本を書きながら喋っているとグレゴリーさんが事務所に戻ってきた。


「おおー。劇に台本ねー。流石、フィオちゃん面白そうなイベントになってきたじゃないか。おじさんが提案した輪投げゲームより全然良さそうだね。」

 グレゴリーさんが頭をかきながら話す。

「あ、あれ、グレゴリーさんが提案したんですね……。」

「地味なのは僕も思ってはいたからね。劇なら舞台の設置の準備とかなら手伝えるから、何かあったら言ってね。流石に劇には出られないからね。」

「えー、オレ的にはグレゴリーさんが悪の大王やるのが良いと思ってたのに。」

「年頃の女の子たちでやっている劇におじさんが入ると絶対に浮いちゃうし、他にもやることがあるからね。」

 観光二課の職員は私たちアルバイトを含めてもグレゴリーさん以外は若い女の子だけである。

「ざんねんー。ボクもグレゴリーさんの演技みたかった。」

「じゃあ、僕は荷物取ったからもう行くからね。仲良くやるんだよー。」

 グレゴリーさんは荷物を担いで出て行ってしまった。

「ということで、やっぱり悪の大王ファブニール役は私ね。シエルちゃんは魔法の演出もあるから、舞台裏での他のあれこれもお願いしていい?」

「わかった。あれこれもやる。」

「あとは、お姫様の役だな。 消去法でマルグリットになるな。」

 ベルナデットが提案する。

「異議ナーシ。」「私もいいと思います!」


 ――


「フィオーレ、時間だから窓口たたんできたわよー。」

 マルグリットが事務所に戻ってきた。

「あ、リットお疲れ様ー。」

「台本もいい感じにできたよ!」

「へー、結構早いわね。」

「軽く合わせてみよう!」

 ちょうど、グレゴリーさんを除く観光二課の全員が揃っている。

「ここら辺が舞台で、入口が客席ってことで。」

 ベルナデットが椅子を移動させ、舞台の配置を作った。

「まずは、配役の確認ね。」

 マルグリットが台本をめくりながら話す。

「勇者ジークフリート役はオレ、ベルナデットがやるぜ!」

「いいんじゃない?」

「異論なーし! 似合うと思うよ。」

「おう! 任せなって!」

 ベルナデットが決め顔で答える。

「次に、お姫様役はマルちゃん!」

「……え?」

 沈黙。

「え、マルちゃん、嫌なの?」

「いや、別に嫌じゃないけど……私がお姫様役……?」

「大丈夫だって! マルちゃんってポート商会の超お嬢様で、超庶民感無いから完璧にお姫様役できるよ!」

「あんた遠回しに貶めてるでしょ!」

「ソンナコトナイヨー。」

 

「司会役はこの私、リゼットがやります!」

「オッケー。よろしくね。」

「司会は舞台より前で客席近くからの進行ね。」

「それで、えーと、フィオーレが悪の大王ファブニール役ね。お似合いなんじゃない?」

「誰が諸悪の根源だー!」

「そこまでは言ってないけど、自覚ありね。」

「くっ……」


「あとは、シエルが魔法の演出担当なのね。よろしくね。」

「まかされた。演出、頑張るー。」

 シエルがゆるく頷く。

「ということで、軽くやってみよう!」

 事務所内に椅子で場所を区切っただけの仮設舞台に上がった。


 ――


「じゃあ、まずはオープニングね。リゼットよろしく!」

 リゼットが台本を持って、舞台前に立つ。

『昔々、王国で皆が平和に暮らしてると、何処からともなく悪の大王ファブニールが現れ、お姫様をさらってしまいました。』

 リゼットの司会には熱が入っている。この物語を好きなことが伝わってくる。

『フハハハハハ!この姫は我がいただこう!』

『キャー! タスケテクダサイマシー!』

「ちょっと待てーい! めっちゃ棒じゃん!」

 すかさず突っ込む。

「は? 何言っているの? 私の演技は完璧よ。」

 認識の齟齬があるようだ。

「どこをどう聞いてもセリフ棒読みじゃん!」

「はぁ、フィオーレは分かってないのね。これが優雅さってものよ。」

「いや、今は拐われた時のセリフだよ! もっとこう感情をこめて!泣き叫んで!リアルに悲しんで!」

「貴族ってのは、そんなに感情をむき出しにして叫ばないわ。」

「お芝居なんだから、感情が伝わるようにして!」

「全くしょうがないわね。フィオーレのセリフからやり直しましょう。」

「お願いね!」

 

『フハハハハハ!この姫は我がいただこう!』

『キャー! タスケテクダサイマシー!』

 先ほどよりも大きな声でマルグリットはセリフを叫んだ。


「うーん! 棒じゃん!」

「は? 何言っているの? 私の演技は完璧よ。今度はきちんと感情が込められているわ。」

 やはり、認識の齟齬があるようだ。

 

「気を取り直して、次のシーンに行こう!」

 マルグリットが不服そうな顔をしているが無視する。

「リゼットちゃんお願い。」

『お姫様がさらわれとても悲しんだ王様は、「姫がさらわれてしまった……! 勇者ジークフリートよ! 悪の大王を倒し、お姫様を救うのだ!。」と勇者に命じました。』

 リゼットのナレーションが続く。


『わかりました!この勇者ジークフリートが必ず、姫を助け出してきます!』

 ベルナデットが勇者の剣を構える。服装はいつもの仕事服のままだが、構えが様になっている。

 ちなみに勇者の剣は木製で、魔王城のお土産品店で安く売っている。


「いいねー。じゃあ、勇者が道中で魔物を追い払うシーンやってみよう!」

「了解! 腕がなるぜ!」


 ――


「そこで、勇者の剣技が炸裂!」

 ト書きを読みながら、ベルナデットにシーン説明をする。

『くらえ! クロスブレイド!』

 ベルナデットが剣をふるうと、その先にあった木箱が粉砕した。

「あ、やべ力入れ過ぎた。」

「え、なんで木箱が壊れるの……?」

「ごめん、ごめん。本番までには威力調整しておくよ。」

「いや、木刀で木箱が壊れるんものなの?」

「まあ、修行の成果かな。」

 ベルナデットが照れながら答えた。

「剣士って凄いんだね……。」

 

 ――


「次は魔法の演出の確認をするよ! 勇者と悪の大王の対決のシーンね。私の悪の大王のセリフから入るね!」

「うん、わかった。ちょっと雷、落とすね~。」


『フハハハハハ! 勇者ジークフリート、地獄の雷を食らうがよい! イビルサンダー』

 シエルが私のセリフに合わせて、魔法を発動させる。

 バリバリッ!と、私の目の前に青白い稲妻が炸裂した。

「わあああ! 近い! 近い! 近い!」

「えへへ、すごいでしょ~」

「いや凄いけど! 危ないって!」

「大丈夫、手加減してる~。死なないって~」

「どこが!? なんか髪の毛焦げ臭いんですけど!?」

 

 ――


 軽い台本合わせは終わった。

「お芝居は楽しいけど、なんかこう思ってないところで大変なんだけど……。」

「本番では、もっと魔法すごくするね~!」

 シエルがテンションをあげている。

「安全にお願いね!?」

「オレも負けてられないな! 朝の鍛錬の時間増やすか……。」

「剣技すごかったけど、お芝居の範疇で大丈夫だよ!?」

「フィオーレ、あなたもセリフきちんと覚えなさいよね。」

「マルちゃん、なんでそんなに上から目線なの!?」

「フィオ、本番目指して頑張ろうね!」

「リゼットちゃんが救いだよ……。」

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