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1.魔王城観光二課とフィオーレ

『魔王は勇者に倒され、世界は平和になりました。めでたし、めでたし。』

 全然めでたくなかった。少なくとも私にとっては……。


 ――


「いらっしゃいませ、こちら魔王城総合受付窓口です!本日はどうかされましたか?」

 私は営業スマイルを浮かべ、窓口の接客業務をしていた。

「すみません。展望レストランはどちらになります?」

 家族連れの観光客が道を尋ねてきた。

「ああ、展望レストランですね。こちらの通路を真っ直ぐ行って右手の階段になります!」

「ありがとうございますー。」

「お姉ちゃんの頭の角、あたしも欲しい! ママ買ってー!」

 訪ねてきた女性の娘が私の頭の角を指さして母親にねだり始めた。

「ダメよ! お姉さんの角は売り物じゃないのよ!」

「えー! 買って! 買って! 買ってー!」

「もう、すみませんねぇ。」

「いえ、私の角の形とは違いますが、魔族なりきりセットがお土産コーナーの方に置いておりますよ。」

「まあ、そうでしたの。ほら、あっちのお店にあるみたいよ。あとで、一緒に行きましょうね。」

「わーい! ママ大好き!」

「そういえば、この『魔王城』って本当に魔王が居たんですか?」

「そうなんですよ~。元々はアンブルナ王国のお城だったんですけど、魔王が勇者に倒されてからはポート商会が買取、観光地に再開発されたんですよ。」

 私は今日、5回目の同じ質問に答えた。

「へえー。本当にお城だったんですね。ありがとうございます。」

「はい。それでは楽しんでくださいませ!」


 私はフィオーレ。周りからはフィオと呼ばれている。

 この魔王城の観光二課でアルバイトをしている黒巻角がチャーミングな魔族のうら若き乙女である。

 魔族とはその昔、神々が人族と異界の悪魔を混ぜ合わせて作ったと言われている種族のことで、頭に角と尻尾があるくらいで見た目はそんなに人族との違いはない。

 

 「今日もお客さん多いなー。サボれなさそう……。」

 

 私は顔が良いため、よく受付窓口の接客に回される。

 しかし、受付窓口の接客はもう飽きてしまっているので、正直に言うと面白くない。ワクワク感が足りない……。


「お疲れー。フィオちゃん、またサボってないだろうねー。」

「(ちっ)いえ、今さっきも展望レストランの場所のお問い合わせ対応をしていましたよ!」

 この小太りのおじさんは、観光二課の課長で人族のグレゴリーさん。

「いま舌打ちしなかった?!まあいいや、フィオちゃんも魔王城の仕事に慣れてきたことだし別の仕事も任せてみようかと思ってね。」

 接客に飽きてきた私には朗報である。

「やりまーす!」

 何だっていい、私が面白い仕事に移れるチャンスだ!

「妙にやる気があるねー。おじさん嬉しいよー。」

「で、どんな仕事なんですか?」

「うん、仕事の内容聞いてから答えた方がいいよー。社会人からのアドバイス。」

 気持ちが先走ってしまった。

「実は、魔王城でもこれからは色んなイベントを企画しようという方針になってね。今回は観光二課が主導して企画、運営することになったんだ。観光一課だけじゃなくて二課もちゃんとできるんだぞってアピールするチャンスだね。」

 面白い仕事に移れるチャンスでもある。

 観光二課は一課と違って、実体はなんでもやる雑用係。数合わせの課というのが、この商会内での認識である。

「へー、イベントの企画って面白そう! でもなんで急にそんな事になったんです?」

「ああ、それはねぇ魔王城に新しい客層を呼び込む為だね。今の魔王城はソルテラ王国や諸外国の富裕層をメインターゲットにしてるんだけど、ここアンブルナの城下町の普通の人たちにも利用しやすいように計画を立て始めてるんだ。」

 城下町の暮らしは終戦後よりも安定してきている。新しい客層としても城下町の住民も足を延ばす可能性も増える。

「確かに、ここの町の人たちからしたら、魔王城の価格設定は厳しいところありますよね。展望レストラン、宝物殿ショッピングモール、地底湖温泉リゾート、貴賓室ホテルって基本的にお金持ちしか利用できない値段設定ですし。」

「そうなんだよー。ポート商会長もそれを気にし始めてね。せっかく地元の雇用を盛り上げたのに、肝心のアンブルナの民が利用できないのは、良くないよねって。」

「魔族は従業員として相当人数が居ますけど、実際にここの商品を買っていくのはソルテラ王国の人たちですからね……。」

 私も実際に魔王城の商品やサービスをほとんど利用したことはない。無料開放されている玉座の間とか、宝物殿ショッピングモールで商品を見るだけだ。

 学生アルバイトの給与では、城下町の商店街の良いお店でも買い物は難しい。

「そんなわけで、アンブルナの住民向けの施設も作ろうってことで城門前広場を工事してるんだよ。」

「あの工事ってそれだったのかー。」

「そう。そして、イベント企画の1回目は城門前広場のオープニングイベントってことなんだよ。」

「ポートのおじさん、結構ちゃんとアンブルナのこと考えて商売してたんだなー。」

 がめつい商人だと思っていた。人相が悪徳商人のそれであるのも拍車をかけていると思われる。

「ポート商会長、ここ数年で結構考え変わったみたいだよ。昔は結構阿漕な商売もやってたけどね。」

 実際、がめつかったようだ。


 ――

 

「ちなみにイベントってどんなことをするんですか?」

「この前の会議で出た内容だと、ガラガラするくじとか、輪投げコーナー出たね。」

「地味ですねー! 地味ですよ! 城下町の商店街と同じことやってもダメですよ!」

 想像以上に面白くない案だった。

「お、フィオちゃんがイベント案考えてるのかい? いやー、助かるなー。」

「うっ、まあ商店街レベルのイベントよりはマシなもの考えてきますよっ!」


 ハードルが上がってしまったようだが、グレゴリーさんの言った案は確実に面白くない。

 私が運営の仕事をしても楽しいイベント企画にしなければ、意味がない。


「あ、イベント考えるのも、資料作成の時間も、ちゃんと業務時間にカウントするからね。頑張って考えてくれるのなら受付の仕事は出来るだけリゼットちゃんにお願いしようかなー。」

「任せてください! 私が魔王城を盛り上げる画期的なイベントを企画してきますよ!」

「いいねー。フィオちゃん頼もしいよー。おじさんもイベント楽しみに待っているよ! あと予算は10万ルーメまでだからね。」

「はーい! わかりましたー!」

「企画も別にフィオちゃん一人で考えるんじゃなくて、観光二課のみんなで考えてもいいからねー。仲良くするんだよー。特にマルグリットちゃんとはね。」

 これで私は、心ときめかない窓口業務に別れを告げることができる。

「窓口業務サボれる!」

「それは聞かなかったことにしとくね。」


 かくして私は、ワクワクする面白そうな仕事に専念することが出来るようになったのだ!

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