1日目
「何かあれば言ってくれ、所長から君の要望には出来るだけ答えてやるように言われているが……」
「……そう。なら……私の話し相手になってくれないかしら?」
「え……?」
俺は彼女の意外な言葉に驚いたのである。彼女はそんな俺の表情を見て言ったのだ。
「嫌なの?」
「……いや、そんな事ないが」
ベロニカの要望が話し相手になってくれと言われ予想外であったのだ。
「なら……話し相手になってよ」
「わかった、話し相手になるよ……」
彼女はそう言うと鉄格子の側まで来て俺の側に寄って来たのだ。俺は彼女の行動が意外で少し動揺してしまったのである。そして彼女は俺を見上げながら聞いて来たのだ。
「貴方の年齢は?」
「……25だ」
俺はそう答えると彼女は言ったのである。
「年下なのね……私は半魔だから生まれて30年はたっているわ……」
「そうなのか……」
彼女がそう言ったので俺はそう返したのだが、ベロニカの外見は20代前半に見え俺より少し若く見える。話し相手になると言った以上は何か話さなければと思い彼女に聞いたのだ。
「何故、この刑務所に収容されたんだ?」
「……濡れ衣で殺人犯にされたの」
「えっ!?」
俺は彼女の言葉に驚いた。まさか、無実の罪で収監されているとは思わなかったからだ。彼女は必死の形相をして鉄格子越しに俺の服を掴んで訴えかけたのである。
「信じてくれなくてもいい! でも私は無実なのよ!!」
「……わかった。信じるよ……」
ベロニカの懸命な目を見て真剣にそう答えると、彼女は少し安心した顔をして徐々に落ち着くと服から手を離す。そして彼女は真剣な面持ちで俺に聞いてきたのだ。
「いつ死刑になるの?」
彼女がいつ死刑になるのかを聞いてきたのだが、看守長の言いつけ通り教えてはいけないと自分に言い聞かせ、俺は冷静に答えるのであった。
「いつかは聞かされてないが……」
そう言うと、彼女は俺の目をジッと見て少し疑いの眼差しを向けていたのだ。俺は彼女が言葉巧みに誘導してこないか警戒して鉄格子越しに彼女の視線を逸らしていた。
「本当に知らないの?」
そう聞いてきたので、俺は表情から悟らせないように無表情で再び彼女を見て言ったのだ。
「本当に知らないんだ……」
「そう……」
彼女は素っ気なく言うと鉄格子から離れベッドの方に向かうのだった。そして急に振り返って言ったのである。
「また明日話し相手になってくれないかしら?」
「わかった……」
俺はそう返事を返すと彼女はベッドに横になり寝転がったのである。そして俺に背を向けたまま彼女に言ったのだ。
「少し昼寝するわ……」
「ああ……お休み……」
俺は鉄格子越しに彼女にそう言うと、その場を後に死刑囚区画を離れた。これから毎日彼女の話し相手になるのかと考えると気が重くなるのであった。
刑務所の看守室に戻る間、その後もベロニカの事を考えていたのだ。彼女は何故濡れ衣を着せられたのか?
そして何故、裁判で死刑になったのかを思うと疑問が沢山残っていたのである……。
ベロニカの話し相手が終わると、俺は死刑囚区画を後にして看守室に戻る。看守室の扉を開け中に入るといつもの様に机に向かい書類整理を始めるのだった。
書類を整理していると先輩のカシムが俺に話しかけてきたのだ。
「ジルド、お前死刑囚の担当になったそうだな」
「はい……」
「お前の担当は確か、ベロニカ・アベールだったな?」
「はい……」
俺はカシムにそう答えると彼は何か知っていそうな雰囲気をしていた。
「その囚人が何故死刑になったのか、お前は知らないのか?」
「……知らないです」
「そうなのか……」
カシムはそう言うと俺に話し出したのである。その内容とは想像もしていなかった事であった。
「俺も同僚から聞いた話だが、ベロニカはこの町の有力者クレーデル家の三男の家で強盗をして家族を殺したらしい……」
「え!?」
「そして、強盗殺人の捜査で目撃者の証言や使った凶器等から判断して捕まったんだ……しかも半魔だから裁判官の偏見や差別が出たのだろう、最終的に死刑になったという事だ」
「……」
俺はカシムの言葉に驚き言葉を失った。あのベロニカが強盗殺人をしたなんてとても思えなかったからである。
「本当ですか?」
「ああ……そう聞いている」
俺はカシムの言葉を聞くと、更に彼女の行動や言動を思い返し考えていたのだ。確かに彼女は人間でも魔族でもない半魔だ。
だが、人間と変わらぬ感情があるように見えるし俺に話し相手になってほしいと言ったのは本心だったように思えたからだ……。
そして彼女が言った言葉も嘘ではないと思ったのである。もし、あれが演技で俺を欺く為の言葉だったのなら彼女はとんだ詐欺師である。
「ベロニカは、そんな悪い奴には見えなかったのですが……」
「ジルド……彼女は半魔だ。金目当てで強盗殺人を犯したのだろう……実際、俺が知っている半魔は碌な奴じゃないぞ」
カシムは俺の反論を聞くと、諭すようにそう言ったのだ。俺はそんな彼の言葉に少しムッとしたのだが冷静に言い返したのである。
「俺の担当しているベロニカは世の中で言われている半魔とは違うように思えます」
「……そうか、お前なりに判断して決めた事ならそれでいいだろう……だが、気を付けた方がいいぞ」
彼はそう言った後、自分の席に戻り仕事を再開した。そして俺はベロニカの事が気になりながらも今日しなければいけない仕事を終えたのである。
仕事を終えると女性死刑囚区画の巡回に向かい、ベロニカがいる牢屋に向かった。牢屋の中を見てみるとベロニカはベッドの上で寝転がり天井を眺めていたのだ。
そして俺が入ってくるのに気付くと彼女はこっちを見て言ったのである。
「何か用……?」
「いや……特に用はない。ただ様子を見に来たんだ」
「そう……」
彼女はぶっきら棒に返事をすると、また天井を眺め始めた。俺はそんな彼女を見ていて思ったのである。ベロニカは何かを考えているようにも思えたのだ。
そして俺が帰ろうとすると、彼女が俺を呼び止めたのである。
「……待って」
「なんだ?」
俺は彼女に呼び止められて振り返ると、鉄格子越しから手を差し出していたのだ。俺はその手を見て少し戸惑ったが、彼女の手に自分の手を重ねたのだった。
すると彼女は俺の手を握ると微笑みながら言ったのだ。
「来てくれて、ありがとう……」
その彼女の微笑みに俺は少しドキッとしてしまったのだが、すぐに手を離して言ったのである。
「礼には及ばない……」
「それでも私は嬉しかったの……」
「……そうか」
彼女はそう言った後、鉄格子に背を向け再びベッドに横になったのだ。そして俺も彼女に背を向け出て行ったのだが、この時からベロニカの存在が薄々気になり始めていたのであった……。
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