7日目
次の日の朝、刑務所に出勤すると看守長に呼び出され彼から聞かされたのであった。そこで今日は死刑直前までベロニカの世話を他の者がする事に決まったと聞かされたのである。
それは俺の精神状態の負担を考えた看守長の配慮だった。その事を聞かされた時、俺は複雑な気持ちだったが渋々了承して看守室で落ち着きなく仕事をするのだった。
そして死刑時刻になった頃、看守長が気を利かせて俺にベロニカの様子を見て来るように言ってきたのである。
「ジルド……もうすぐ彼女の死刑が始まるぞ……最後に死に顔でも見に行ってくるか?」
「……はい、行って来ます」
俺は静かに返事をすると敷地内の処刑場に向かったのである。だが、彼女の事を思うと最後を見る度胸が湧かずトボトボと歩いていた。
しかし俺はベロニカの最後を見届けるために自分自身を鼓舞し無理やり奮い立たせたのである。
処刑場に歩いて向かう途中にカシムと出会ったのだ。彼は俺の姿を見るなり話し掛けてきたのである。
「ジルド! ベロニカの処刑の様子を見に行くのか?」
「はい……最後に彼女の顔を見に……」
俺は沈んだ表情で答えるとカシムが神妙な面持ちで言ってきた。
「ジルド……お前にとっては辛いだろうが……最後の別れをしてこい……」
「はい……そうします……」
力無く返事をするとカシムの前を通り過ぎて行ったのだった。通り過ぎる時の俺の表情を見て気遣わし気に呟いていたのである。
「だから言っただろ……囚人に情を持つなと……」
「……」
そんな彼の声も聞こえているのか、いないのか分からない状態で俺はただ無気力に処刑場に向かって憔悴しながら歩き続けたのだ……。
遂に処刑場に着くと俺は憂鬱な気持ちで絞首台の上にいるベロニカを見た。彼女は今、死刑執行時を待っている状態だったのだ。
絞首台は2本の支柱が立てかけられ、その上に横木が支柱に釘で打ち付けて組み合わせていた。横木に首をくくる為の死刑執行用のロープが巻き付いている。
そしてベロニカは死刑執行時を待つためロープに首を固定されながら立っていたのである。
彼女が立っている所の床板が抜けるようになっていて、そこが開くと下に落下し自重で首が閉まり血管が圧迫され脳への血流が遮断され意識を失うのである。
それと、落下の衝撃で頸椎が脱臼し意識を即座に失うので苦痛を感じる時間が少なくなっている。
俺は彼女の姿を見つけると胸が締め付けられる思いになったのだ……。
彼女は暴れないように後ろ手に縄で縛られており、その表情は恐怖で青白くなっていた。
呆然としてベロニカを眺めていると彼女の視線と俺の視線が合う。
彼女は俺を見るなり微かに微笑んでいのである。
その微笑を見て俺の目からは自然と涙が溢れ出てきたのだ。
すると彼女が弱々しく小さい声で俺に言ってきたのであった。
「ジルド……来てくれたのね……」
「ベロニカ……」
俺も震える声で彼女の名前を口にしたのである。そんな時、死刑執行人と一緒に神官も絞首台の上に現れて彼女に死刑囚への神の説教が始まったのである。
「汝の犯した罪は人々の心を深く傷つけた……。その罪は決して許されるものではない。だが恐れることはない、過去の過ちを悔い改め祈りを捧げれば神は汝の魂を迎え入れ永遠の安らぎを与えるであろう……」
神官はそう言うと彼女に対して祈りをするように言ってきたのだ。そして彼女に神への信仰の言葉を伝えたのである。
「汝に神の御加護があらん事を……」
その言葉を聞いた彼女は何の感情も感じさせない表情で無言で神官の言葉を聞いていた。
そして神官が話し終えると、死刑執行人が彼女の後ろに立ち首に巻かれたロープを固定し合図を送ると執行人達は絞首台の縄を引っ張り始めたのである。
「さようなら……ジルド……」
そう言うとベロニカは俺の目を見詰め最後にニコッと微笑んで言ったのだ。その微笑を見た俺は胸が張り裂けそうな思いになったのである。
「!!!」
彼女の最後の一言と同時に彼女が立っていた床板が開いた。そして彼女の体が落下し、それと同時に首に巻かれていたロープが食い込んでいく。
そして俺の目の前では、ベロニカの体が床板を潜り抜け絞首台の下まで落ちて行ったのだ……。
彼女の身体がぶら下がった瞬間、体が痙攣し足がバタついていた。
だが、その努力も虚しく……やがて彼女の足はダラーンと下がり体はゆっくりと揺れ静かになったのである。
その瞬間、俺は目を逸らすため俯いたのだ……。
「うっ!!」
嗚咽が出そうになり慌てて口を塞ぎ顔を背けると処刑場から急いで出て行ったのである……。そんな俺を周りの同僚達は何事かと見送っていたのだ。
こうしてベロニカは絞首刑を執行され死んでしまったのであった……。
俺は急ぎ足で刑務所に戻ると、看守室に戻り当直用の部屋に駆け込んだ。そして部屋で嗚咽を漏らしながら泣いていたのだ。
「うっ……ううっ……うううっ……」
涙が止まらなかった……。ベロニカが死んだ悲しみで胸が張り裂けそうになり気が狂いそうな思いになったのである……。
「ジルド! どうした!?」
カシムが俺の様子を見て心配し当直室まで駆け寄ってきたのだ。俺が泣いているのを見た彼は俺に同情して言ってきたのである。
「ベロニカが死んだ事を悲しんでいるのか……?」
「……」
俺は涙を流したまま無言で俯いていた。すると彼は神妙な面持ちで俺の肩に手を置きながら言ったのだった。
「ジルド……彼女の事は残念だった……。しかし、いつまでも悲しんでる暇はないぞ……」
「……」
弱々しく顔を上げて彼を見ると彼は心持ち優しい眼差しで見詰めて言ってきたのだ。
「ベロニカはお前にとって大事な存在だったのかも知れんが、それに囚われ続けては看守の仕事をやってはいけんぞ……」
「はい……」
力無く返事するとカシムが俺に諌めるよう言ったのである。
「辛いだろうが……今日は休みを貰って家で休むといい」
「……はい……実は看守長から今日の午後と明日は休みの許可を取っています」
「そうか……それならいい。明後日、出勤しても無理をするなよ……」
そう言って彼は優しく俺の肩を叩くと部屋を出て行ったのだ。そして俺はカシムが出て行った後、涙を拭い少し落ち着きを取り戻したのである。
そして俺は自分の机の椅子に座って目を閉じベロニカの事を思い出していた。
彼女と過ごした期間は短いものであったが俺の人生には唯一無二の存在になっていたのだ。
「さようなら……ベロニカ……」
自然と彼女の名が口から零れる。すると俺の目から涙が自然と溢れ落ちてくるのである。
その涙を袖で拭いながら、午後になると辛うじておぼつかない足取りで帰路につくのだった……。
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