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6日目(2)

 夕方になり、俺は看守長に呼び出されて所長室に向かったのである。そして部屋に入ると、そこには所長の他に看守長も居たのだ。


「来たか……」


 そう言って所長は俺を見ると神妙な面持ちで俺に言ったのだ。


「明日の午前中にベロニカ・アベールの処刑を行う予定だ ……今日の夕食は最後の晩餐になる。この刑務所では死刑囚の最後の夕食は、いつもより豪勢な食事が出る事になっている」

「……」


 それを聞いて俺はわかってていた事とはいえ愕然とし心臓がキュッとなった。


(遂に明日の午前中に死刑が執行されるのか……)


 そんな事を思いながら暗い表情をしていると、看守長が険しい表情で俺に言ってきたのであった。


「ジルド! 死刑執行までお前は普段通り仕事を行うように! 決して彼女に明日の死刑日を話したり悟られないように!」

「……わかっています」


 そう答えるしかなかったのである。そして彼は続けて言ったのだ。


「最後の夕食もお前が持って行くんだ!」

「……はい……」


 俺が沈んだ声で返事をすると、所長は少し間を置いてから俺に聞いてきたのである。


「ジルド……君が毎日、彼女の担当をしていたならば、最後の別れを惜しむが良い……」

「……ありがとうございます」


 所長の言葉に俺は少し頭を下げて礼を言うと、看守長も俺に言ってきた。


「明日は彼女の死刑実行日だ……彼女の担当をしていたお前には辛いだろうから明日の午後、明後日は休んでいいぞ」

「……お気遣いありがとうございます」


 そんな2人の気遣いに感謝して所長室を後にしたのであった……。

 それから夕食を受け取り……俺は最後の晩餐を持って女性死刑囚棟に向かったのである。

 牢屋に着くと彼女は笑顔で俺を出迎えてくれたのだ。


「ジルド……待ってたわ」


 彼女の笑顔を見て俺は心が痛くなりながらも、持ってきた料理を牢の柵の下にある格子状の窓に置きながら言ったのである。

 トレイにのっている食事は、いつもより質が良い肉と一緒に卵をかき混ぜた炒めたものが入っておりスープも具も色々入って、パンの量も多めに入っていた。


「……今日の夕食だ」


 すると彼女は、いつもより豪勢な食事を見て驚いた表情で聞いてきたのであった。


「えっ? いつもより豪華に見えるんだけど……?」

「……ああ、今日の夕食はいつもより豪勢らしいんだ……」

「そうなの……?」


 彼女は怪訝そうに言うと、少し寂しげな表情で微笑んで言ったのだ。


「……でも、貴方が会いに来てくれるだけでも嬉しいわ!」


 そして俺と彼女は他愛もない会話を続けた。しかし彼女の死刑が明日の午前に執行されると思うと気が重く、表情が自然と暗くなってしまう。

 すると彼女は俺の様子を察してか、悟ったように俺に話し掛けてきたのであった。


「ジルド……明日が私の死刑執行日なのね……?」

「い……いや……違うよ」


 口籠りながら答えるも、彼女は何かを感じ取っていたようで俺の目を真っ直ぐ見詰めて言ってきたのだ。


「貴方は嘘が下手ね……それにいつもと雰囲気が全然違うわ……」

「……」


 何も言えなかった……。そして彼女は俺に優しい口調で言ってきたのである。


「ジルド……いいのよ。死刑が執り行われる日まで、そんなに長くかからないと覚悟していたから……」

「ベロニカ……」


 俺の目が赤くなっているのを確かめると彼女も涙目でニコッと微笑んで俺に言ったのだ。


「ありがとう! 貴方は私の為に悲しんくれているのね……その気持ちだけで私は幸せよ!」

「……ベロニカ」


 そんな会話をしていると彼女は突然立ち上がり柵越しに顔を近づけてきたのである。そして俺を上目遣いに見詰め声を詰まらせながら言ったのだった。


「だから……明日から私のことは……忘れていいから……」

「ベロニカ……」


 彼女の一言で俺の目からは自然と涙が溢れ出ていた。そして彼女も涙を流しながら笑顔で俺に言ったのである。


「……さようなら……私の大好きな人」

「ベロニカ!!」


 俺は牢の鉄格子を掴んでいる中、彼女が別れの言葉を叫んだのだった。柵越しに俺の手を握ると微笑んで言ったのだ。


「ジルド……大好きよ」

「……ベロニカ……俺もだ」


 そう言うと俺も彼女の手を強く握り返し涙を流しながら彼女を見詰めていたのであった。


「最後に……柵越しだけど……キスしてくれる?」


 ベロニカは目に涙を溜めながら微笑んで俺に言ってきたのである。そんな彼女を見て俺は胸が締め付けられる思いになったのであった。


「ああ、もちろんだ」


 そう言って柵越しに顔を近づけ彼女の唇にキスをしたのだ。彼女も俺の手を強く握り熱い口づけを交わしてくれたのであった……そして唇を離すと、彼女は微笑みながら涙を流して言ったのである。


「……ありがとう」

「……」


 そんな彼女を俺は抱き締めたかったが鉄格子に阻まれて出来なかった。しかし彼女は俺を見詰めて涙声で言う。


「クソみたいな人生の終わりに貴方に会えてよかった……もう思い残すことはないわ!」


 そう言って無理に笑顔を作ると、彼女は俺の手に口づけをして顔をくしゃくしゃしながら言ったのだった。


「さようなら……ジルド」

「……ベロニカ……俺も……君と会えて良かった……」


 涙を零れ落とす俺の顔を見詰める彼女も涙が頬を伝い微笑んでいた。そして俺は涙を拭うと彼女に別れの挨拶をしたのである。


「さようなら……ベロニカ」

「さようなら……」


 そして俺達は互いの目を見詰めながら別れを告げたのだ。それから俺は名残惜しそうに彼女の元を離れ牢屋を出て行ったのである……。

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