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優しいみんなにさよならを  作者: 島津宏村
8/21

秋の味覚8

波多はそれを見るとうわっと声を出した。


監視カメラには体育館や、運動場など人を収容できそうな場所が写っていたが、どれにも覆面の男が写っているだけで生徒は写っていない。


「とりあえず、外に出たほうが」


 否定する人間は一人としていなかった。 誰もがこの無慈悲な空間から逃げ出したかったのだ。


ただ一人、秋田だけは図書館の二階へと歩を進めた。


「お、おい。出れねーぞ」


 剣崎は取っ手をガチャガチャと押していたが開かないと分かると、体当たりを始めた。秋田以外の7人が静観する。


「無駄だと思うよー」


 二階から秋田が声をかける。顔には不気味な笑みを浮かべていた。


「なんでよ! 他のみんながどこにいるか探さないといけないでしょ」


 高山が怒りに任せて扉を蹴る。


蹴られた扉はガタンと音を立てて揺れるものの、開くことはない。


「なぜ僕たちが図書館に集められたのか。それは織田さんと会わせるためではないはず。となると、この図書館に答えがある」


「本当ですか? 私も手伝いましょう」


 織田は秋田と違った笑みを浮かべた。ただ本に囲まれているのが嬉しいだけなのだろう。


「助かるよ。ほら、高山さんたちも手伝って」


「手伝うって何よ」


そう聞くと、秋田はもう話すつもりがないとでも言うようにさっと奥へと消えていく。


「ちょっと、戻ってきなさいよ!」


 織田はその後を追うように階段をひょいっと駆け上がっていく。残された高山たちは仕方なく二階へ登ることにする。


「何をするのか教えていただければ、私手伝いますよ。図書館には詳しいですし」


「なぜ?」


「それは、毎日通っているからですね」


「なぜ?」


「聞いちゃいますか……。簡単に言うと、クラスの雰囲気が合わなかったからでしょうか。どこかぎくしゃくしていて。多分、お金持ちの家とそうでない家の生徒たちが同じ中学校になったからですかね」


「なるほど」


 秋田は持っていた本を置いて、クッションのない椅子に座る。織田もそれに倣って向かいの椅子に座る。


「僕が思うに、この図書館のどこかに何らかの手掛かりがあるはずだ」


「抽象的ですね。もう少し具体的な説明をお願いします」


 階段から荒い足音が聞こえ、秋田たちの横で止まる。ちょうど二階に到着したらしい。


「図書館には大量の本がある。形や厚みもそれぞれ。僕たちの学校は他の学校と比べて蔵書が二万から三万冊多い」


「それが何だってんだ。さっさと教えてくれよ」


 剣崎は焦っているのか、短気なのか口調が強い。


「あのお~」


 おずおずと手をあげたのは文堂彩だった。


「もしかして、秋田さんは物を隠しやすいと言いたいのではないでしょうか」


「文堂さん賢いですね! 憧れます」


「だ、だめだよ。私なんかに憧れちゃ」


「いいえ、尊敬します!」


 織田は文堂が気に入ったらしく、いつの間にか文堂の手を引いて自分の隣に座らせている。


「と、いうことは隠された物を探し出せばゲームクリアということですか」


「そうだけど、具体的にいえば紙媒体の資料だね」


「なんでそんなことわかるのよ。かりんちゃんの言う通り物かもしれないでしょ」


 高山も、無意識のうちに口調が強くなっている。腹が減ると人は怒りっぽくなるというのは本当らしい。もしくは、単に秋田に対する苛立ちかもしれない。そして、何故か呼称が『かりんちゃん』に変わっている。秋田が気付かないうちに全員打ち解けてしまったのだろうか。


「昔から、『木を隠すなら森に』と言うでしょ。言わば、ここは紙の森。隠されているのは何らかの紙の資料と考えていいはず。あと、高山さん。一階にサンドイッチがあるよ」


「うん、うん。は? サンドイッチ?」


「確か、ハムサンドと卵サンド。カツサンドもあったはず」


「そんなことを聞いてるんじゃない! 意味わからんことを言うな!」


 高山の怒声が図書館に響いた。吊られている教師たちも何事かとこちらに視線だけを向けてくる。


「サンドイッチ? どこにあったんだ」


「フリードリンクの近くに小さい冷蔵庫があるから。その中」


 それだけ聞くと、剣崎は弾かれたように階段を下って行った。緑走も気まずそうにはしたものの、剣崎の後をついていく。


「な、なによ。人の命より空腹の方が重要なの」


 高山の眉間にはしわが寄っていて、何か言えば殴りかかられそうだ。


「ま、まあ。高山さん、今は落ち着いて続きを聞きましょう」


 後輩に落ち着かせようとされたことが恥ずかしかったらしい。不満顔で近くの席に腰掛けた。


 秋田が一階を見ると、何気なく波多琴音もサンドイッチにかぶりついている。


 二階にいるのは、仲睦まじい織田と文堂。それに不満顔の高山。そして、優しそうな笑みを浮かべながらも沈黙を貫いている化本の五人だけだった。


「それで、どこをさがす? 全部の書籍をあたってたら二・三時間どころではないよ」


 化本が沈黙を破った。


「勿論、目星はつける。織田さん、図書館の清掃は毎日なのかな?」


少しの沈黙の後、答えが返ってくる。


「全書籍と書架の清掃が二週間に一回。館内の清掃――床とかですね。が毎日でしょうか」


「なら、最高だ。おおよそ、隠し扉が存在しなければ書類は書籍の間に挟むはず。と、なると生徒の目にはつかない方がいい。その上、書類をはさんでも目立たない本がいい。となると、ジャンルは絞られてくる」


「もう少し具体的にお願いします」


 文堂も頷く。二人が姉妹のようにも見えてきた。


「例えば、地域の歴史資料だね。分厚くて何冊もあるし、誰も借りない」


「そして、面白くなく場所だけ取る」


 織田の目つきが鋭くなった。かなり迷惑しているらしい。文堂が苦笑する。


「うん……。で、最も重要なのが埃。織田さん曰く、掃除は二週間に一回。見た感じ、書籍の埃はここ一週間は掃除されていない」


 秋田は、そういって手元の本をポンポンと叩く。少量の埃が舞った。


「つまり、埃がついていない本であることが最低条件」


化本は顎に手を当てていった。


「その通り。さあ、残り時間は先生の顔を見るに一時間半が限界。何か見付けたら僕に教えて」


その言葉をきっかけに全員走り出す。


秋田はサンドイッチを食べてすっかり元気になった阿保三人組にもう一度同じ説明をすることになった。

よろしければ★や、ブックマークでの評価をお願いします。

次回からの連載は休載期間を一週間挟んだ10月1日からになります。

また、不定期で休載期間に特別編を投稿するかもしれません。

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