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優しいみんなにさよならを  作者: 島津宏村
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秋の味覚7

「剣崎先輩、ここで食べるのはいかがなものかと」


 織田は苦虫をかみつぶしたような表情だ。


「たしか、図書館は飲食禁止だったわよね」


 高山がフォローするが、織田は首を振った。


「いいえ、その……」


「みんな、上を見たら?」


 秋田の言葉に織田以外の全員が天井を向いた。普段は上品な光を放つシャンデリアが吊られているところに、今は……


「も、もしかしてあれって」


「キャッ」


 文堂が、短い悲鳴をあげる。


「せ、先生たちが吊られてる」


 化本の呟きに秋田は椅子に深く腰掛け、ゆっくりと天井を見上げた。そこには縛られて吊り下げられている教職員が何人もいた。図書館の二階が一階の面積の半分――すなわち半分吹き抜け状態、のため大人を何人も吊り下げることが可能なのだ。秋田は、図書館に入った時から気付いていたが織田に興味を惹かれたため黙っていたのだ。


 つられているのは約四十人なので、おそらく放送の通り全員が図書館に集められている。吊られているといっても逆さまに吊られているわけではない。一人を除いて、全員が歩く時と同じ向きに吊られている。


「あれって、鶴下じゃね?」


 波多琴音が一人、逆さまに吊られた教師を指差す。目を凝らすと鶴下が顔を赤くして吊られている。他の教師と違って激しく身をよじらせており、ガムテープで塞がれた口で何かを伝えようとしている。と、その瞬間鶴下は一ミリも動かなくなった。まるで死んだかのように。


「どういうことですか? なんで先生は動かなくなってしまったのですか」


 織田の不安げな声に、秋田が答えた。


「心不全だね。もともと心臓が弱かったようだし」


 その説明に、織田はムッとした顔をする。


「中学一年生にわかるように説明してください」


「わ、私もわからないです。中三なんですが」


文堂がおずおずと手をあげていった。他の五人も目で秋田に説明を求めてくる。




 秋田はニコッと温和な笑みを浮かべた。




「逆さ吊りは江戸時代にもあった拷問の一種なんだけど、簡単に言うと血が心臓とか脳に流れすぎちゃうだよね。だから、心臓の弱い人は二・三時間で死に至ることもある。他にも、内臓が肺に負担をかけて呼吸困難になることも。どちらにせよ、吊られてから二時間弱。あの様子だともう助からない」


全員が沈痛な面持ちになる。吊られている教員たちは目隠しをされいないので、鶴下が動かなくなったのを見てうめき声をあげた。連鎖反応のように身をよじらせる。


「救急車は?」


 緑走が聞く。


「それより、警察はどうなの? 衝撃的過ぎて忘れてたけどスマホは取られてないでしょ」


「もう試した。無理だったよ」


 剣崎がため息交じりに答えた。


「無理ってどういうことよ」


 高山は食い下がる。


「妨害電波か何かで、スマホが機能しないんだよ」


剣崎は再び貧乏ゆすりを始めた。どうやら短気な性格のようだ。


「第三者に助けを求めるのは正攻法だと思うけど、今は不可能ってことかな?」


「さっきからそう言ってるだろ」


「では、どうしましょう。ご飯を食べようにもお弁当は教室に置いてありますし、いつ解放されるか分からないので」


「食料の心配は無用な筈。ゲームで死ぬことはあっても兵糧攻めをされことはないとも思うよ」


 秋田はそれだけ言って席を立つ。新しく設置されたのであろうドリンクバーへ向かった。


秋田がオレンジジュースを取ってくると、図書館の扉がゆっくりと開かれた。出てきたのはお馴染みの覆面をした男たちで、今度は二人掛でモニターを運んできた。彼らはちょうどいい高さの机を見つけるとモニターを設置する。秋田たちからも良く見える位置にあり席を移動する必要はなかった。


 設置されて一分と経過しないうちにモニターの電源が勝手に付いた。ザザッとノイズ音が流れるのも束の間、放送をしたであろう男が映される。


「休息はしっかりと取れたかな? 今からのゲームは体力がいるからね」


 秋田はジュースに口をつけていて表情が窺えない。しかし、目はしっかりとモニターを見つめていた。


「さて、僕が撃ち殺した校長が放送で言っていたことを覚えているかな?」


 図書館は沈黙に包まれる。覚えてはいるが誰も口にしない。


「『全てが白日の下に晒される』ことが生徒解放の条件だったよね? そこで、僕は何問か問題を出します。制限時間は共通して八十時間~百二十時間位かな。えっと要するに、制限時間を八十時間とすると、一問目に五時間使ったら二問目からは七十五時間しか使えない。制限時間は全問題共通ってことね」


「制限時間はどうやって知るんだ」


 剣崎はモニターを睨み付ける。




「あれ。見えるかな、飾りに見間違えるかも」


 モニターの男は図書館の天井を指差した。そこには清鶴の死体と他約四十人の教員がつられている。先程と違って、鶴下でない教員が逆さまになっていた。


「砂時計みたいでいいでしょ? 天井に吊られている教員が全員死んだらゲームオーバー。一人でも残ってたらゲームクリア。今、違う場所でゲームをしている生徒も解放するよ。このルールに質問ある人ー」


 誰も手を上げない。というよりは残酷なルールに口を閉ざしているといった方が正しい。


「じゃあ問題。この学校の生徒の大半は今あるところでそれぞれが選んだゲームの開始を待っています。さて、それはどこでしょう。ヒントとして、このモニターには学校の監視カメラを全て写しておきます。それでは、楽しんで」


 今度は違う教員が逆さまにつられた。機械が不気味な音をたてて教員を逆さまに変える。


 つられた女性の教員は確か国語科の教員で授業が面白くなかった印象がある。


 まだ二十代のはずだが、恐怖で顔が歪みひどい姿になっている。目からは涙がポツリポツリと滴り落ちていた。

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