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優しいみんなにさよならを  作者: 島津宏村
3/21

秋の味覚3

「今配った用紙に名前と、自分の特技か趣味を一つ書け。我々は書かれたものに沿ってゲームを準備する。書く特技、趣味がない者は名前だけを書いて提出すること」


 それだけを言って覆面の男は十分のタイマーをかける。男はなにも言わなかったが十分以内に決めろということなのだろう。


 秋田のクラスは恐怖か、衝撃かで全員自ら姿勢を正して座っていた。覆面の男に指示を出されると彼らは即座に立ち上がって相談を始める。


「こ、これどうしたらいいんだよ」


「よくわかんねーけど、俺は喧嘩って書くぜ」


「私はピアノかな。大体何でも弾けるし」


全員が不安ながらも用紙を埋めていく。しかし、用紙が埋まったとしても誰も提出しようとはしない。もし出せば、ゲームが確定してしまうからだ。


「誰に渡したら?」


 クラス中が秋田に注目する。注目されるという感覚に慣れていないのか、堂々としていた姿勢は急に猫背になる。


「俺だ。俺に渡せ」


「わかりました」


 そういって秋田が平然と紙を手渡すと、それを皮切りに他の生徒もポツポツと渡し始めた。




 タイマーが残り時間三分であることを告げる。隣では高山が珍しく焦っている。いつもの人を見下すような目はどうしたのだろうか。秋田は心の中で笑みをこぼした。


「ね、ねぇ。秋田は何にしたの?」


 高山は先ほどから他の生徒にもその質問ばかりだ。選ぶべき選択肢は明確なのになぜみんな悩んでいるのだろうか。


「白紙で出しました」


「な、なんで? 趣味とかないの?」


「趣味とか特技はないですね。あったとしても白紙で出しますけど」


「な、なんでよ」


 残り二分。高山からは冷や汗が垂れている。


「理由はポーカーだから」


「は!? ふざけるのもいい加減にして!」


 残り一分三十秒。女性版始皇帝も余裕がなくなってきたようだ。


「ふざけてないですよ。私を信用するなら、白紙で出した方が賢明です」


 残りの一分。タイマーが秒読みに入る。


高山は頭を抱えて悩んでいる様子。何を選ぼうと彼女の自由なので秋田は干渉しない。欠伸を噛み殺しているくらいだ。


 残りの三十秒。覆面の男も秒読みを始めた。高山はまだお悩み中。


 残りの十五秒。


「もう! なんでこうなるのよ。いっつも」


 残り十秒。クラス中が彼女に注目する。高山は机をバシッと叩いて立ち上がる。


「わかったわ! ほら、さっさと受けとりなさい」


 覆面の男にぐいっと紙を押し付けるようにして渡した。男は少し驚いた様子で紙を受けとる。始皇帝の圧に押されたようだ。


「あんた!」


 高山はそういって秋田を指差す。再び欠伸を噛み殺していた秋田はビクッとして身を強張らせた。


「は、はい」


「私にちゃんと説明しなさい。でないと……」


 少しの間があって、衝撃的な言葉を吐かれる。


「殺す」


殺さないで……と心で呟きながら恐る恐る答える。


「ま、まずですね、先ほどの放送で、今からするのはポーカーだと言われています」


「だから、それが何よ」


 高山はいつにもまして不機嫌そうだ


「ポーカーで勝つためには運と頭脳が必要です。そこで、このゲームの運要素とは何かを考えました。同時に、なぜさっき放送でヒントを出したのかも。実はゲームは選ぶところから始まっていたんです」


 秋田の説明に他の生徒も耳だけを傾ける。


 「放送では『僕のゲームは公正だから』というヒントが与えられました。彼は『僕のゲームも』と言わず『は』を使いました。まずここで、怪しいですね。次は再びポーカーについて考えます。『チップはあなた自身』と言っているので負ければ命をとられる可能性がある」


秋田は爽快な様子で捲し立てる。


「なら、博打は避けたいところ。もし、用紙に趣味、特技を書いた人がいるなら公正もしくは当たりのゲームを引くかどうかは運次第になります。要するに理不尽なゲームを引く可能性があるということです。なので、高山さんには白紙での提出をお勧めしました。」


教室にいる大半の生徒が頭を抱えた。


「マジかよ」


「もう変えられないの?」


「もういや!」


 落胆やヒステリックな声が聞こえてくる。その中でも白紙を提出した僅か七人の生徒は助かったも同然、とでもいうような顔をしている。


「今からの変更は一切受け付けない」


 クラスの大半が、がくりと肩を落とした。


悲痛な沈黙が数分続くと放送が流れ始めた。


「はーい。皆さん決まりましたか? それではゲームスタートです。教室にいるスタッフの指示にしたがって行動してください。楽しみましょう!」


 すると、覆面の男たちが無言で生徒たちを立たせる。何人ずつかに別れて連れていかれるようで、おそらく紙に同じ内容を書いた者同士だろう。その証拠に女子が一人だけ連行されていた。


「や、やめろ。帰らせてくれ」


 早くも男子生徒が音をあげた。無言で連れていこうとする男に抵抗するも、ライフルの持ち手で頭を殴られ呆気なく気絶する。その男子はそのまま引きずられながら教室を出ていく。


 大方の生徒が連れ出された後、中心人物とみられる男が話し始めた。


「ここに残っているのは白紙を提出した者だけだ。お前たちを連れ出す前に我々からメッセージがある」


 そう言って男はテレビを付ける。覆面をした男が映される。四十代で、教室の男たちと同じ服装をしている。上下ともに迷彩柄なので、自衛隊を思わせる服装だ。手の甲は日焼けをして黒いが、日焼け具合からしてアジア系であることに間違いはない。放送をした人物とこの男が同一人物なら日本人と断定してもいい。

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