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優しいみんなにさよならを  作者: 島津宏村
12/21

冬の氷柱2

化本光

 化本は、クラブでよく使っていた理科室で寝泊まりしていた。理科室独特の空気が好きだったのだ。

 仲間との思い出が甦ってくる。優しい先輩にヤンチャな後輩。賢い友人に面白い友人。思えば毎日が宝石のように輝いていた。

 それが今はこの有り様だ。室内は荒らされ、硫酸で溶かされたと思われる人の肉塊。今にも叫び声が聞こえそうだった。不快きわまりない空間。

 それでも化本はここにいたかった。初めて得た自分の居場所,第二の家から離れたくなかったのだ。

 

 コンコンっとノック音がする。

「どうぞ」

 切り替えたつもりだったが上手くいかず、陰鬱な声が出てしまう。

「失礼します」

 入ってきたのは速読ができる、織田という後輩だった。彼女は秋田が塞ぎ込んでからリーダー的存在になっている。ここは、先輩としてチームのまとめ役を買って出るべきなのだろうがもうそんな余裕はなかった。

 化本にできるのは理科室の天井を眺めることだけだ。


 織田は理科室に入ると、漂う異臭に顔をしかめた。慣れない者がこの臭いを嗅ぐと誰もがそんな表情をする。ましてや今は死体の一部も転がっているのだから尚のことだろう。


「ば、化本さん、廊下でお話があります」

 織田は口元をハンカチで押さえている。火災訓練を彷彿とさせるが、無理はない。

 廊下に出ると織田はまだ少し顔をしかめていた。

「話しというのは?」

「あ、はい。えっと、召集がかかりました。今すぐ図書館に集まって下さいとのことです」

「わかった。今行くよ」

「ありがとうございます」

 どうやら化本が最後だったらしく、織田に図書館まで連れていかれる。

 外は朝食を取りに行った時と同じように寒かった。しかし、太陽は燦々と照りつけている。真昼の寒さとは思えなかった。

 図書館に入ると各々席に着いていた。秋田を除いて全員が揃っているようだ。

 化本は他のみんなと同じようにテレビが見える位置に座る。と、織田がテレビの前に立った。

「今回の問題は特別問題のようで、内容は私が伝えろとのことです」

 誰もが驚いた。あのイカれた男がゲーム内容を説明すると思っていたからだ。

「内容は簡単で、『秋田さんは学校で何をされていたか』です」

 誰もが閉口する。この質問には誰も答えたくないのだ。

 織田は一呼吸置いて続けた。

「制限時間は一時間です。私は引き続き図書館を探してみます」

 そう言ってタイマーを一時間にセットし二階へと登っていった。

 化本含め、取り残された6人は一様に苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「どうすんのよ。化本、あんた何とかしなさいよ」

 高山は織田に聞こえないギリギリの声で詰め寄ってくる。

「ヤバ、今さら秋元頼って。責任があるのはあんたっしょ?」

 波多が起こりながら言った。どちらも高圧的な態度だ。喧嘩は防がねばならない。

「いずれこうなると思ってたよ。責任はみんな等しく背負ってると思う」

 高山と波多は互いに火花を散らしていたが、化本の仲裁に黙りこくった。それから五分間は誰も口を開こうとしなかった。できれば秘密をばらしたくない。でも死ぬわけにはいかない。

「化本、これって最悪どうなる?」

 しびれを切らした剣崎が問う。

「最悪って?」

「誰も答えなかったらってことだよ。もしかしたら俺ら全員死ぬのか?」

 『死ぬ』という言葉に文堂が身を震わせた。

「も、もう諦めた方がいいのではないでしょうか。皆さん死にたくないのは同じだと思います」

「文堂の言う通りだね。わたしはここで死にたくねーし」

 波多が賛成するのも化本には理解できる。そして合理的だろう。この状況で情報を秘匿するのは難しい。

「ただ気を付けないといけないこともある。もしここで僕らが公言すれば『白日の下に晒される』危険がある」

「なんだよそれ」

「すなわち、日本全国にこの情報が拡散されるのではないか。と僕は危惧している。そうなってしまったら僕らはテロの被害者として扱われることはなくなる」

 事はそう簡単にはいかないと分かったのだろう、全員考え込んでしまった。ふと顔をあげると、緑走が化本をじっと見つめていた。

「化本、なんとかならないのか」

無茶な頼みだった。進退窮まる中、解決策を出せるのは化本だけだと踏んだらしい。

「何とかはなるよ。でもみんな覚悟してほしい」

 化本は眼鏡を外した。現れたのは優しさなど微塵も感じさせないような薄気味悪い笑みだった。

「何をするの?」

 高山が他の四人を代弁する。

「結論から言うとこれはゲームじゃない。テストだ」

「何それ」

「織田さんが僕たちにゲーム内容を告げてから違和感があったんだ。それは主催者が何一つ関わっていないということ。いつもなら主催者は意気揚々とゲーム内容を語り、ゲーム失敗時には誰かの死をちらつかせた。それは、音楽室での一件やこの天井にぶら下がっている先生たちを見ればわかると思う」

 天井を見ないようにしていたらしい四人は、一様に顔色が悪くなった。

「でもこのゲームは違った。説明は間接的だし、罰ゲーム的なものもない」

「それは特別問題だからじゃないの?」

「高山さん、それは違うよ。だって主催者は明らかにゲームを楽しんでいた。なのにわざわざ特別編まで作って自ら説明しないわけがない」

 この場にいる全員が納得したようだった。

「要するに、このゲームは織田さんの自作自演と考えられる」

文堂は薄々気付いていたようで化本の説明にも納得していた。ただ、残りの三人は驚いた様子だ。

「そこで僕は織田さんにどこまで知っているのか問いただす必要があると思う」

「もし、全部知っていたらどうするんですか」

 文堂は後輩が心配なのだろう、俯いて聞いてくる。化本は答えなかった、それは化本が決めるべきことではなかったからだ。そして、決めたくもなかった。

「殺すに決まってる」

 全員が彼の方を見た――緑走の方を

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