vs.クイズ王・卯澤拓未<4>
峯尾和・著
MC
「クイズ王・卯澤拓未。ここまで4問、全く慌てる様子もなく順調に正解を積み重ねてきました。いよいよ残すところ、あと1問。今のお気持ちはいかがでしょうか?」
卯澤
「そうですね、緊張半分、安堵半分といったところでしょうか。クイズも非常に楽しませてもらっています」
その言葉の一方、卯澤の表情には緊張や疲れの色は全く見られなかった。
MC
「もう、勿体ぶる必要もありませんね。それでは参りましょう、第5問!」
照明・BGMが変わり、再びスタジオはクイズの世界へ。
MC
「ずばり、2022年7月8日現在の、株式会社QMedixの社員は何名でしょう?」
この時、卯澤の顔に一瞬だが、困惑を示す表情があらわれた。しかし、それはMewTubeを見ている者には分からない、撮影スタッフにも分からないほど、微かなものであった。この表情の微妙な動きを捉えていたのは、MCだけだろうか。次の瞬間には、卯澤はすぐに元の調子を取り戻していた。
MC
「おおっと、これまでの問題とはガラリと傾向が変わりましたね。現在、株式会社QMedixの"CEO"を務めていらっしゃる卯澤さんなら、ご自身の会社の社員の数くらい分かりそうなものですから、これはサービス問題といったところでしょうか。まあ、第1回目からいきなり全問正解ならず! というのも景気が悪いですからね」
卯澤
「おかげさまでQMedixもだんだん大所帯になってきまして、慎重に数えないと……」
と言いつつ、指折り数える卯澤。
フリップに書き込む卯澤。シンキングタイムが終了する。
MCの合図に従い、フリップを出す卯澤。そこに書かれた数字は「19」。
MC
「さて、判定は──」
BGMが止まり、スタジオには静寂が流れる。
カメラは卯澤の自信に溢れた表情を捉えていた。
MC
「不正解です!」
スタジオに響くブザー音。スタジオは赤いライトで染められた。
MCは掌をおでこに当て、残念そうなオーバーリアクションを演じる。
卯澤の表情は、何が起こったのか分からないといったような、困惑したものであった。
しかし、すぐに元の表情を取りなし、テレビ慣れしたように言葉を繋ぐ。ライトが元に戻った。
卯澤
「あれ、何か間違えましたか? ちゃんとメンバーも数えたつもりだったんだけどな。もしかして再来週に入社予定の人もカウントするとか?」
MC
「いやはや、まさかあの無敵のクイズ王にも答えられない問題があったとは! そして、それがまさかの、自身が代表を務める、あのQMedixに関する問題!
では、今回はこの最終問題の正解発表を、特別ゲストの方に行っていただきましょう!」
画面はスタジオからスイッチしてVTRへ。
そこに映っているのは、卯澤と同年代の男だった。
<VTR原稿>
ムラカミ
「番組をご覧の皆さん、こんばんは。ムラカミタクマです。
このVTRが流れているということは、卯澤さんが最終問題を間違えてしまったということでしょう。
なぜ、卯澤さんは簡単に答えられるはずの問題を答えられなかったのか、説明していきたいと思います。
結論から言うと、株式会社QMedixは、代表取締役社長である卯澤さんと、スタートメンバーである宇倉さん、灰村さんを除いた全てのスタッフは、業務委託契約という契約形態に基づいて、動画の撮影やWebコンテンツの更新といった業務を行なっています」
ここでテロップが表示される。
<テロップ>
業務委託契約
法人が業務を外部の個人などに委託する際に行う契約。通常の正社員などは法人との間に雇用契約を結ぶが、業務委託契約の場合は雇用契約とは異なるため、雇用関係が発生しない(社員として扱われない)。
テロップが消え、ムラカミの言葉は続く。
ムラカミ
「この契約の中で、僕たちはQMedixの社員であるように振る舞うことを取り決められていたため、動画をはじめとするコンテンツの中で、僕たちはQMedixの社員であるかのように演じ続けていました。
そんなある日、僕はとある企画の撮影中に足の骨を折り、全治1ヶ月という大ケガを負いました。もし、これが業務委託契約でなく通常の雇用契約によって業務を行なっていたら──もし、僕が本当のQMedixの社員だったなら──これは労働災害の扱いとなり、労災保険によって治療を受けられるはずでした。しかし、業務委託契約における業務上の事故は労災保険の対象外となるため、僕は通常の健康保険でこの治療費を賄わなくてはなりませんでした。
治療費が高額になってしまうこともあり、卯澤さんに何度も相談を持ちかけたのですが、取り合ってもらえず、法的手段に及ぼうとしたところで、卯澤さんの方から治療費の提示と引き換えに、このことについて内密にしてほしいと頭を下げられました。
しかし、僕自身の足がケガを負う以前の完全な状態には戻らないこと、一連の出来事のためにこれ以上QMedixで働きたいとは思えなくなった結果、表向きは「次の夢を追うことにした」という名目で、QMedixからの”卒業”、それからMewTuberの引退を行うという筋書きになりました。
そもそも、QMedixが卯澤さんら3人会社となっているのは、彼ら自身がQMedixを通じて得られた収益を可能な限り自分たちで独占したいと考えているからで、社員として雇用契約を結ぶのではなく、業務委託契約とすることで雇用にかかるコストを抑えたいから、と考えていたようです。さらに、この業務委託契約には契約を結ぶ僕たちにとって不利になるような条件もいくつか存在していました。この詳細な内容については、番組終了後に僕のチャンネルを立ち上げて、そこでお話ししたいと思います。
というわけで、最終問題の正解は、代表取締役社長である卯澤さんとスタートアップメンバーの宇倉さん、灰村さんの『3人』でした」
VTRが終わり、映像は再びスタジオへ。
カメラは呆然とする卯澤の姿を抜いている。
MC
「卯澤さん、卯澤さん? 一応、本番中なんですけど」
卯澤
「……あ、いや。一体、これは何ですか?」
MC
「はい、今回、最終問題の正解解説を、元QMedixメンバーのムラカミタクマさんにお願いしたところ、快諾いただきまして、このような形でご出演いただきました!」
卯澤
「これ、どういうことですか? 台本では聞いてないんですけど」
MC
「あー。そりゃあトーク内容についてはお伝えしてありますが、クイズに関する内容については、もちろんお伝えしていませんよ。そうじゃないと、クイズのヒントになってしまって、ヤラせみたいになっちゃいますからね」
卯澤
「いや、でも、そもそもムラカミが本当に正しいことを言っているとは限らないですよね? それが正しいことを誰も証明できないじゃないですか」
MC
「おやおや、いつもの卯澤さんらしくない慌てっぷりじゃないですか。なんですかね、口角泡を飛ばす、という感じですか?」
卯澤
「とにかく、先ほどの動画については撤回をお願いします。応じてもらえないと──」
MC
「証明する方法ならあります」
MC、テーブルからフラットファイルを取り出す。
MC
「こちら、これまで卯澤さんがQMedixのメンバーの皆さんと取り交わした業務委託契約書の写しになります。メンバーの皆さんに無理を言ってお願いしたところ、皆さん快くお預けいただきました。個人情報保護の都合上、皆さんの住所の部分にはマスキングをさせてもらっていますが。それとも、これも偽造の可能性について指摘しますか?」
卯澤
「目的は何ですか。そもそも、これが法的に何か問題になるというんですか?」
MC
「さあ、どうでしょう。
ただ、メンバーの皆さんをあたかも社員であるかのように装って、ファンや視聴者さんを欺いてきたという事実があって、それをどう捉えるのかは、やはりMewTubeをご覧になっているファンの皆さんや視聴者の方次第なのではないですかね?」
歯噛みする卯澤。無言の時間が過ぎ、何も言葉を発しない卯澤の姿をカメラは捉えている。
MC
「なーーーーんちゃってーーーーー!!!」
一転、MCがテンション高く静寂を破る。華やかな照明とBGM。
MC
「というわけでゲストに卯澤さんをお呼びしての『Qタイム!』、いかがでしたでしょうか?
いやー、まさかあのクイズ王にも答えられないクイズというものがあるものなんですね!
さて、番組ではクイズに挑戦したいという皆様からの挑戦状をお待ちしております。概要欄のリンクからアクセスして申し込んでくださいね! みなさまからの熱い挑戦、待ってますよ!
それでは、番組が面白かった、楽しかったなという方は、ぜひチャンネル登録や高評価、それからスーパーチャットで投げ銭もよろしくお願いします!
また、次回の『Qタイム!』でお会いしましょう! さようなら〜〜」
<配信終了>