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エピローグ

 五日後。コボルト国との戦に勝利してから二十日が経つ今日。


 俺は、人間国の王城で、コボルト国の処遇について話し合った。会議に参加したのは俺、ソフィア、秀吉、利家、そして狼王だ。


 そして次の日の昼。俺は重大発表があるとして、事前に呼んでおいた人々を城の広場に集めた。集まったのは人間だけでなく、コボルトも全体の三割を占める。


 コボルト国の平民にあたる歩兵たちから、軍の幹部、各大臣など身分は幅広い。


 城の三階にある、バルコニーという場所に、ソフィアと狼王、秀吉、利家の四人を連れて出た。俺は参加者の前に姿をあらわすと、集まった人々を見下ろす。


 広大な広場を埋め尽くす人間とコボルト、多くのヒト、ヒト、ヒト。


 俺はその全員に向けて、高らかに俺の決定を告げた。


「皆の者よく聞け! コボルト国領は、引き続き狼王ウルフェン殿に治めて頂く!」


 広場の時間が止まった。参列した全てのヒトが絶句し、言葉を失っている。


 すかさず秀吉が声を張り上げる。


「聞くがいいコボルトたちよ! こちらにおわすは、人間国次期女王ソフィア姫である!」


 続けて利家が、


「聞くがいい人間たちよ! こちらはコボルト国国王ウルフェン殿だ!」


 最後に秀吉が、利家と一緒に俺へ手をかざす。


「そして全ての民よ! このお方こそは、この乱世を治めるべく、ガイア世界より降臨された救世主。統一勇者王! 織田建勲信長様である! そのお言葉を聞くがいい!」


 力強い足取りで前へ進み出ると、しばし無言になった。

 静寂に包まれる広場が、徐々にざわつく。皆が、俺が何を喋るのかと期待しはじめる。


 最後に出てきた、そして救世主と呼ばれる勇者様は何を言うのか。その期待値を最大限まで高めてから。俺は厳かな声で語りかける。


「全ての民よ。よく聞くがいい。今日この日をもって、人間国とコボルト国という国は消滅する」


 衝撃的な出だしで民衆の心を叩いてから、俺は少し語気を強めた。


「人間国とコボルト国はひとつの国となり、その名を安土と号するッ。元人間国はただの人間領に過ぎない。元コボルト国はただのコボルト領に過ぎない」


 言葉には徐々に熱を込め、俺は叫び続ける。


「人間領全体を治める女王をソフィア! コボルト領全体を治める王をウルフェンとし! 主都は人間領ロマテナ州王都とする!」


 新時代の到来を期待させるべく、俺は皆の心に響くよう熱意を込めて語る。

絶大なる自信を以って、俺は野望を宣言する。


「そして俺はソフィア女王とウルフェン国王の上に君臨する皇帝となる! 我が名は天下を統一する天下人‼ 安土皇帝織田建勲信長である‼ 天下は俺のもとに統一する! お前たちは全員俺が救う! 俺が導く! 人間もコボルトも関係ない! 安土に生きるすべてのヒト‼ すべての民は俺のもとに平等である‼‼」


 王城の各屋上から、続々火柱や雷が天に突き上がる。


 ここで、あらかじめ命令していた魔術師たちがいい仕事をした。魔術は戦場では使い勝手がわるくとも、こういう演出にも使えるのだ。


 俺の狙い通り、広場湧き上がり、誰もが新時代の到来を祝福した。


 植民地にされると思っていたであろうコボルトだけではなく、人間たちも祝福してくれるのは、俺の人気の高さのおかげだろう。


 元から人気のあるソフィアのおかげで、民衆の王権への支持は高かった。そして俺が多くの改革を行ったことで、民の暮らしは楽になった。俺の人気も合わさって、人間国王権の人気は絶頂を迎えていると言っても良い。


 頂点に君臨する王者に必要な要素は数多くあるが、そのなかでも特別に重要な要素がある。それは『人気』だ。どれほど賢い政策を打ち出しても、人気のない王の政策は無いようにかかわらず、誰も支持しない。


 だが『人気』さえあれば、多少無理な政策でも、最初は苦しいがのちに実を結ぶような政策でも、誰もが支持してくれる。


 俺は天下を統一する。すべての種族の王と統べる統一皇帝となり、この世界から争いをなくす。そう民に、自分に、そして……吉乃に誓った。


 そうだ。俺は世界を平和にするんだ。

 そうして、この世界に吉乃を呼ぶんだ!

 そう心に硬く誓うも、ふたつ、俺には気にかかることがあった。


 俺やチャンドラがこの世界に来ているということは、有り得るのだ。


 病死という不運のせいで途中退場したが、あの戦国最強にして、俺の天下取り最大の障害となった神仏にして龍虎。


 越後の龍・軍神上杉謙信、そして甲斐の虎・天台座主武田信玄。あの神龍と仏虎が、しかるべき国に召喚されれば、必ずや俺の障害となるだろう。


 それに、時代の問題がある。銃を知らない古代人であるチャンドラは、俺の鉄砲隊に敗れた。だが、銃を知っている時代の勇者ならどうだ? いや、俺よりも生きた秀吉がいる以上、俺よりも未来の勇者も存在しうるということだ。


 未来ではきっと、連射できる銃や空飛ぶ船、いや、まったく新しい兵器があるだろう。未来の勇者とぶつかる前に、少しでも国力を高めなければ、油断はできない。


 俺は民衆に余裕を見せつけながらも、来るべき決戦に向けて、魂を昂らせるのだった。

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