最後の蹂躙!
「召喚! 織田鉄砲隊!」
光が吼えた。俺の左右へ光の粒子が迸り、かつての臣下たちが時空を越えて馳せ参じる。
かつて、戦国最強と謳われた武田騎馬軍団を討ち破り、この世界ではチャンドラグプタ戦象部隊を討ち破った、無双の兵団だ。
三千人鉄砲兵は、三人縦列を一組として俺の左右に五〇〇組ずつ並ぶ。一組が占有する幅は二メートル。単純計算でも、幅二キロに渡って戦場を封鎖したことになる。
さらに、この三人縦列は俺の頭脳が生み出した策が練り込まれている。
火縄銃という武器は、威力がある反面、撃つのに時間がかかる。だから俺は三千人の鉄砲隊が千人ずつ撃つことを考えた。一人目が撃っているあいだに、残りの二人が弾込めをするのだ。だからこその三人縦列だ。
最初は、一列目の兵が撃つと列の後ろに回り込み、弾込めを終えた二列目の兵が一歩前へ出て撃つ。これを繰り返すのを考えた。だがダメだった。実験したところ、移動に時間を取られて、連射力はそれほど上がらなかった。
だから俺は、移動しなくても順番に撃てる三人縦列を考えた。それがこいつらだ。
一列目は、全員中背の兵で揃え、膝を折って火縄銃を構えている。
二列目は、小柄な兵で揃え、立って火縄銃を構えている。
三列目は、長身の兵で揃え、やはり立って火縄銃を構えている。
膝を折って構える一列は言わずもがな、小柄な二列目と大柄な三列目の兵は頭ひとつ分以上も身長差がある。そのため、三列目の兵が構える銃口は、二列目の兵の頭上に位置している。これで、後ろの兵が前の兵を誤射することはない。
兵はその場にとどまり、一度撃てばひたすら弾込めに専念できる。さらに早合も使い、熟練の兵はわずか十二秒で弾を撃てるようになった。
三人一組なので、四秒ごとに千発の弾を撃てる計算になる。
迫るコボルト歩兵団は俺らとの距離を詰め、ついに先頭が十メートルまでの距離まで近づいた。その瞬間、俺は声を張り上げる。
「カツ!」
三千発の弾丸が、同時に放たれた。
熟練された匠の射撃は、コボルト歩兵団の前衛をまとめて薙ぎ払った。
耳をつんざく轟音もあいまって、コボルトたちは一斉に止まる。
生まれてはじめて見る武器、始めて聞く音、そしていかに風上といえど、この距離ならば僅かに香る硝煙の匂い。
度肝を抜かれてコボルト兵たちが立ちつくすあいだに、俺の優秀な家臣たちは弾込め作業を進める。
十秒経った。特に弾込めの早いやつならばもう終わっているだろうと、俺は叫ぶ。
「ゼン!」
前列、つまりは一列目の兵が一斉に引き金を引いた。コボルトたちは密集陣形だったこともあり、千発の弾丸は漏れなくコボルトたちの命を奪う。
「ナカ!」
中列、二列目の兵と、弾込めが間に合わなかった一列目の兵が引き金を引いた。
死の轟音とともに立ちつくすコボルトたちの命がごっそりと奪われた。
万物すべての生物は音と匂いに恐怖する。
未知なる異形の轟音と匂いに、コボルトたちはいやがおうにも恐怖してしまう。生物の本能が告げているのだ。アレが起こるとヒトが大量に死ぬと。それは自分かもしれないと。
「コウ!」
後列、三列目の兵が引き金を引いて、雷鳴が如き鋼の咆哮がコボルトたちを無慈悲に駆逐する。そして、
「ジュン!」
もう何列目かなんて関係ない。
弾込めを終えた兵から順番に、片っ端から引き金を引きまくった。
三千丁の鉄砲隊が、休むことなく鬨の声を上げる。これが我が力だ。これぞ我が軍勢ぞ。我勝てり、我勝てり、貴様らは全て我が獲物だ。そうコボルトたちに警告する。
コボルト軍はもう滅茶苦茶だ。そこらじゅうで片っ端から兵がバタバタと死に続けている。それでも退かない。いや、退けないのだ。
兵は、多くのしがらみで退きたくても退けない局面がある。そういう展開は、攻めている側にとって最高に美味しい。
コボルトは忠義に厚い種族と聞いている。狼王の撤退命令なくして退けないのか。
それともチャンドラの仇討ちのため退けないのか。
それとも他に要因があるのか。
それはわからない。しかしコボルトたちが進むことも退くこともできないまま火縄銃のマトになっているのは事実だ。




