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俺と一緒に作ろうぜ。新世界!

 戦は俺らの圧勝だった。


 戦象部隊の壊滅と、残る戦象の暴走でコボルト軍は総崩れ。さらにキングの勇者であるチャンドラを討ち取られ、ポーンの勇者利家は寝返り、ルークの勇者アタランテは捕まり、ナイトの勇者アウは降伏。四人もの勇者を失ったコボルト軍に、戦意を持続する気力はなかった。


 秀吉は一五〇〇〇人の騎兵を連れてコボルト軍を追撃。コボルトは足が速いが、同じく足の速い騎兵ならば追撃は可能だった。短距離走ならば馬より速く走るコボルトも、長距離ならばそうはいかない。


 俺は利家とともに、歩兵を使って戦後処理を開始した。


 ただ、ひとつだけ困ったことがあった。


 けが人の手当てや、報告書の作成などは順調に進むのに、死にかけたコボルトにトドメを刺せる兵が少ないのだ。


 戦闘中は戦いの興奮もあり、平気で殺し合っていた兵たち。しかし戦いが終わり冷静になると、無抵抗なコボルトを前に、剣が重そうだ。


 苦しみにあえぎ苦しむコボルトを前に息を吞む兵士にかわって、俺がコボルトの首をはねとばすと、周囲の兵は驚いた顔で俺を見つめた。


「苦しみを長引かせるのがてめぇらの流儀か?」


 その問いには誰も答えない。俺も答えなど期待していない。俺は利家とともに、ただ粛々と死にかけたコボルト兵の首をはねた。


 助かりそうなコボルト兵は手当てをするが、助かる見込みのないやつの延命は酷というものだろう。すると、大きな影が背後から俺に近寄り、得物を振り上げた。


 太陽光を反射して光る白刃は振り下ろされて、血飛沫が大地を濡らした。


「お前も手伝ってくれるのか? アウ」


 それは、秀吉に足止めを喰らっていたコボルト国のナイト、チュウ・アウだった。


 その手には、大ぶりな戟が握られて、その穂先はコボルト兵の首を切断していた。


「こいつらの国や民に忠誠を誓った覚えはない。だが私も人の子だ。苦しむものがいるならば、救ってやりたいと思ってとうぜんだろう。でなければ、私はただの人殺しだ」


 もとは盗賊だったが、祖国救済のためにその生涯を捧げて戦った女、チュウ・アウ。悲哀をたたえたその横顔に、俺は眩しさを感じる。


 歴史的資料が少ないため、俺はアウの多くを知らない。けれど、アウは盗賊は盗賊でもきっと義賊だったのだろうと、俺は思った。


「アウ。俺は明日から、利家とアタランテを連れてコボルト軍を追撃する。利家は、お前を推薦しているけど、お前は俺に着いてきてくれるか?」


 アウは俺と視線を合わせながら、迷いのない口調で、


「構わない。この身はコボルト国にもチャンドラにも忠誠は誓っていない。むしろ、我が怨敵を探すには、貴公の下につくのが最良と判断する。ただし、ひとつだけ条件がある」


 アウは戟を握る手に力を込め、


「コボルト国を支配したあとで、コボルトたちを虐げるのだけはやめていただきたい。私も乱世に生きた身。支配した国の扱いは心得ているが……それでも……」


 言葉尻を湿らせるアウの頭に、俺は手を伸ばした。


「お前可愛いな。気に入った。お前は新世界を作るのに必要な人材だ」


 俺はアウの頭をなでていた手を下ろし、彼女の手を握り締める。


「天下を統一して、俺と一緒に作ろうぜ。新世界」


 俺が歯を見せて笑うと、アウの頬が徐々に紅潮する。やや呆けた顔で、空いた左手を自分の頭に乗せた。


 さっきまで俺がなでていた頭頂部に触れると、アウはますます赤面して、グッと何かを噛みしめた。


「なに照れて超可愛い反応してんだよ。ほら、俺がお前に惚れる前にコボルトたちを苦しみから解放するぞ」


 アウから手を離して、俺は死にかけたコボルトをみつけるたび、その首をはねていく。


 背後では、アウがいままでとはうってかわり、幼い声で『なでられてしまった』と呟く。それから頬を叩く強烈な音がして、アウは仕事に戻った。


 アウって吉乃と秀吉と利家の次くらいにイイ女だなぁ。


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