ポーンの勇者VS戦国魔王
その頃、信長は一万のもの騎兵隊を率いていた。
信長の動きを説明すると、まず、二人乗りの騎兵を五〇〇〇騎率い、信長は秀吉軍の背後にいた。そして秀吉の率いた騎兵隊が馬を捨てると、二人乗りしていた兵はかたわれは馬から降りて、騎手を失った馬にまたがった。
こうして馬を回収すると、信長は敵戦象部隊を大きく迂回。
秀吉が戦う場所の背後へと周り、そのままコボルト軍本陣を目指した。
すると、コボルト軍本陣からは、戦象部隊ではなく歩兵部隊が接近していた。
前線の異常事態を察知したチャンドラグプタが、歩兵部隊を向かわせたのだ。その数は実に三万。信長率いる騎兵隊の三倍だが、騎兵の突破力なら恐れることはない。
コボルト軍は、伝統的に弓と槍をあまり使わない。コボルト歩兵の武器は射程の短い双剣だ。戦力は五分。いや、人間側の有利だろうと、信長は推測した。
そして、信長は見つけた。
歩兵部隊ならば、ポーンの勇者が率いるのが道理。
案の定、狼の半獣人であるコボルト歩兵部隊の最前列には、犬がいた。
信長は心臓を昂らせ、愛馬鬼葦毛に鞭を入れ、独走を開始する。対するポーンの勇者、信長曰く生前の家臣もまた、主人に再会した犬のように感動した目で信長を目指して独走する。
真っ赤な絵の朱槍を嬉しそうに振り回して、少女は信長に向かう。
信長も嬉しそうに馬を走らせ、そして馬の背から跳んだ。
「信長さまぁー❤」
「会いたかったぞ! 利家ぇえええええ!」
「はい❤」
コンマ一秒後。信長は愛刀長谷部国重を召喚。互いに必殺の一撃を叩き込んだ。
「と、し、い、えぇええ!」
「の、ぶ、な、が、さ、まぁ♪」
刀と槍での鍔迫り合いはほんの数秒。またたきの時が過ぎると、戦場に伝説が生まれた。
人間騎兵も、コボルト歩兵も、完全に時間が止まっていた。
時間を止めて、ただ目の前の神秘にまばたきを忘れた。
織田信長と前田利家。二人の戦いの凄絶さは、絵にも描けぬとしか言いようがない。
神速の刀撃と槍撃が織りなす火花はまさに百花繚乱の狂い咲き。
金属音の演奏は鳴りやまず、何百何千という音が重なるコンサートとなる。
利家が目にも映らぬ妖速の突きを繰り出せば、信長は魔人めいた動きで避けながらカウンターの斬撃浴びせる。体勢的に避けられない必然の死。かと思えば、利家の穂先はいつまにか地面に突き刺さり、槍を支え軸にして利家は身をひねってかわす。
人間コボルト両軍の兵たちの常識に比べて、信長と利家の攻めは速度が違う、重さが違う、冴えが違う、輝きが違う。守りは巧みさが違う、しなやかさが違う、練度が違う、指差が違う。そして何よりも違い過ぎるのだ。
熱さが! 想いが! 歴史が!
ひとつの物語をはじめ、偉業をなし、伝説の主人公となれる覇者同士の激突を前に、誰もが思った。なぜあのふたりは、ああも幸せそうなのかと。
強敵と出会えて嬉しいのか。いや、それは的外れと言える。この二人は、敵として戦えるのが嬉しいのだ。身内同士でそんなことがあり得るのか。あり得る。
こんな話がある。戦国時代、西洋人たちは東南アジアを植民地として支配していた。
そして勢力争いために東南アジアで小競り合いをしていたが、日本の武士たちを傭兵として雇うこともあった。
ある日、武士を雇った部隊同士がぶつかり、西洋人指揮官は互いに思った。同じ日本人同士では、今日は戦いにならないな、と。
しかし次の瞬間、同じ国の人間同士、武士同士で凄絶な殺し合いをはじめ、雇い主である西洋人が驚愕したと。
もとより同じ日本人同士で一〇〇年以上も殺し合ってきたのがサムライという人種だ。同じ家中でも、親兄弟同士で分かれて戦うことなど珍しくもない戦国時代だ。むしろ、身内だからこそどこぞの誰かに殺されるぐらいなら自分の手で殺してやりたい。
普段は身内ゆえに戦えなかったが、敵同士になったことで、合法的に戦える。そんなことを平気で思うような人種だ。それが、世界最強の首狩り戦闘民族、サムライが歴史上もっとも本能を剥き出しにしていた超人種『戦国武将』だ。
「利家ぇええええ! てめぇとはガキの頃から死ぬほど殺し合ったが敵味方に別れたのははじめてだなぁおい!」
「ええ♪ これで、合法的に本気を出せますよぉ!」




