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騎兵の勇者の正体

 信長はその巨体見みただけで戦象の弱点を見抜き、事前にこの堀を掘らせていたのだ。


 穴の深さは、およそ三メートル。横倒しになった戦象なら二頭でいっぱいになる。


 戦象部隊の前二列は全滅。


 三列目以降も、地面ではなく仲間の戦象を踏みつぶす形で落とし穴を突破するので、バランスが崩れて転倒する戦象があとを絶たない。


 その光景にナイトが歯噛みすると、次のトラップが効果を発揮する。


 ナイトの戦象が、何かを踏み折った。


 それは騎兵であるナイトにも伝わった。すると、今度は落とし穴を乗り越えた戦象たちが次々に転倒。そしてナイトは気付いた。


 なんと、自分たちは巨大なまきびし地帯に足を踏み入れていたのだ。


 当然ながらそれも戦象用だ。


 トゲの一本一本が矢のように太くて長く、しかも草色の塗料が塗られているというイヤらしさだ。これも、信長があらかじめ用意させたものだ。


「なんだ……これは……」


 この戦のために用意した戦象は、全部で一万騎。そのうち、彼女は第一陣として、一五〇〇騎を前進させたのだ。


 なのに、そのことごとくが落とし穴の前に崩れ、乗り越えた戦象はまきびしに倒れた。


 彼女は挫けかけた心を奮い立たせ、すぐに激声を以って指示を飛ばす。


 大半の戦象は失ったが、すべてではない。それに、時間を開けて前進するよう指示しておいた戦象部隊の第二陣もしばらくすれば到着する。


 彼女は、三国時代時代最高にして最優の戦象将軍としての采配力を発揮。整然と変わらぬカリスマ性と的確な指示で、戦象部隊はすぐさま息を吹き返す――はずだった。


「そうはさせにゃあよ」


 彼女が前方へ顔を戻すと、秀吉率いる五〇〇〇の騎兵隊が全力疾走してくる。


 なかでも、先頭を走る秀吉の疾走速度は異常だ。


 まるで他の馬が止まって見えるような勢いで戦場に鹿毛色の筋を引いて、マキビシ地帯をそのまますり抜けてきた。


「なん……だ貴公は!?」


 秀吉は愛馬、太平楽の背から跳躍。水上におけるイルカ並の大ジャンプで、ナイトの頭上を飛び越えて、戦象の腰に着地した。


「っっ」


 人間離れした跳躍を見せた秀吉を振り返ると、ナイトは秀吉の容姿に絶句した。


「少女……だと?」


 勇者が全盛期の姿で召喚されるのは、ナイトも知っている。もっとも、ナイトである彼女は二三歳で死んだから、若返った実感はないのだが。とにかく、勇者が若いのはいい。


 それでも、秀吉が小柄で、華奢な体格というのが信じられなかった。力に頼らない極端な業師なのか。だとしても、戦士という単語が、あまりにも似合わない容姿だ。それに、


「うっひょぉおおおおおおおお! ふぉおおお! ふぉおおお! ふぉおおおお! これは夢か幻か! まさかこんな超乳超尻美女が実在するとは! 長生きはするものだにゃにゃにゃにゃぁあああん!」

「なっ……これは!」


 ナイトは羞恥で顔を染め、両手に自身の乳房を抱き隠す。とはいっても、あまりにも乳房が大き過ぎて両手で隠しきれず、逆に大き過ぎる乳房に腕をめり込んで、乳房が上下に二分割される様子を披露してしまった。


「ふぉぉおおおおおおおふぁああああああああ! あぁ……のぶながさま、サルめの浮気を、どうかおゆるしくださいぃ……いやっ! 相手がおにゃのこは浮気に入らない! これが宇宙の真理だみゃあああ!」

「きき、貴公は女だろうッ。この……へんたいめっ」


 狂ったように興奮する秀吉を前に、ナイトは胸を抱き隠し続ける。どんなに怒鳴っても、声には恥じらいが含まれているので少しも怖くない。


「変態でけっこう。とにかく、お前の相手はウチなんだだにゃあ♫」


 秀吉が両手に名刀一期一振と、三日月宗近を召喚。


 それで、ようやくナイトも戦意を取り戻して戟を構える。だが、その間にも戦況は変わり続ける。


 秀吉が率いた五〇〇〇の騎兵隊は、まきびし地帯の前で減速して降馬。槍兵部隊として戦象部隊に襲撃をしかけた。


 戦象部隊の騎手たちは、その多くが死傷し、無事に済んだものも混乱状態だ。


 人間兵は負傷したコボルト兵を捨ておき、混乱状態のコボルト兵を次々で槍で刺し殺す。


 時間を開けて前進した戦象部隊の第二陣は、前線の状況を見て、落とし穴の前で止まっている。しかし、いかに戦象といえど、止まっていては意味がない。


 槍兵は、戸惑っている戦象たちの横へ回り込むと、思い切り足を槍で突いた。


 戦象一騎につきに、備えのコボルト兵が数人いるので、人間兵から戦象を守ろうとする。コボルト兵VS人間兵になる。だが、これではどのみち戦象を活かせない。


 ナイトは歯ぎしりををしてから、自身を戦意で落ちつける。


「先程の跳躍。貴公は人間国の勇者とお見受けした! この世界ではじめての一騎打ちだが、一瞬で終わらせてくれる!」


 戟を高速で回転させてから上段の構えを取るナイト。圧倒的な体格差とリーチの差。

 それでも、秀吉は少しも怖じる事なく、その顔は武者震いで笑っていた。


「織田建勲信長様の一の家臣! 羽柴日輪神秀吉! いざ参る!」

「ならばこちらも名乗ろう! 大越独立軍大将! チュウ・アウ! 全力で死合おうぞ!」


 チュウ・アウ。


 魏呉蜀が覇を競った、かの有名な中国三国時代において、その女傑は存在した。

 たび重なる呉国の進行と侵略に大越(現在のベトナム)は苦しんでいた。しかし、侵略され続ける祖国のために立ち上がった義勇軍があった。


 それこそが、チュウ・アウとその兄の兄妹が率いる部隊だった。


 曰く、チュウ・アウは常に戦象にまたがり、金のかんざしと象牙の装飾をまとい、身長は二メートルを越え、あまりにも胸が大き過ぎてまともに鎧が着れなかったと言う。


 そして、彼女を勇者たらしめる偉業は、呉国への勝利だ。

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