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俺が死んだあとってどうなったの?

 五月二十日。コボルト軍との戦場の風向きが変わり、コボルト軍が再び戦象部隊を使える日まで、約十日というこの日の午前。俺と秀吉は王都の王城の王の執務室にいた。


 俺は猛然と命令書を作り続ける。


 秀吉は各地からの報告書に目を通し続け、問題があった場合にのみ俺に報告する。微調整で済むような問題なら、秀吉が追加の命令書を独自に作ることになっている。

「数字が多い書類を見ていると、利家が欲しくなりますにゃあ」


「あいつのソロバン術は神がかっているからな。クイーンの駒がもうひとつあったら、まちがいなく利家(イヌ)を召喚するぞ。ていうか、あいつの腕っ節なら、一人で戦象部隊を殲滅してくれそうだしな」


「みゃっ!? まさかウチよりも利家を召喚すればよかったとお思いですかにゃ!?」


 涙目になる秀吉に、俺は喉の奥で失笑を漏らす。


「たわけてんじゃねぇよ。お前じゃねぇと二十日で二〇州攻略なんて達成できないだろが」

「みゃぁあああん❤」


 俺に褒められただけで、全身をメロメロにしてしまう秀吉。


 こんな風に冗談を言いながらも、俺と秀吉の手は少しも止まらない。むしろ、仕事の速度が上がっているようにさえ思う。


 そして、俺らの前でソフィアが地図を手に震えている。


「は、二十日間のあいだに……秀吉様は八州、信長様は十二州を平定……三十九貴族が……たったの十九貴族に……」


「「時間が余ったんで、隣接する反逆州をちょろっとな」」


「本当の本当にあなたたちは何者ですか!?」

「乱世で乱れた六十六カ国を一代で統一できるぐらい優秀な魔王だ! むしろ神だ!」

「信長様の死後、バラバラになった六十六カ国を再統一できるぐらい優秀なサルだ!」


 頬を引きつらせるソフィアを無視して、俺は仕事を続けながら渋い顔をする。


「あ、そういえば俺が死んだあとって統一した天下、バラバラになったんだっけ?」

「ええ。織田家臣団も東北も関東も四国も九州もウチがまとめました」

「関東勢って、俺に臣従していたよな?」

「信長様が死んだら手の平を返しました」

「東北勢って俺の家臣になるために貢物とか送りまくってきていたよな?」

「信長様が死んだら手の平を返しました」

「北九州勢もか?」

「手の平は返しませんが、あれから島津家がぐいぐい北上して大友家は滅亡寸前。ウチに救援を求めてきたんで、助けて島津ごとウチの家臣にしました」


 とたんに、秀吉の顔がだらしなくゆるんだ。


「うへへぇ♪ それでですねぇ、大友家家臣の立花道雪の娘の立花誾千代ちゃんていう姫が利家ぐらい強いうえにこう、胸がバインバイーンでぇ、尻がムッチリ安産型でぇ♪ 一緒にお風呂はいったけど、えがったぁ~~~~」


 俺は怒りたかったが、仕事の能率があがっているようなので何も言わないことにした。


「しかし大貴族たちを一掃したおかげで得るものは大きかったな。三十九貴族のうち、二〇の貴族の爵位を剥奪。領地と財産は没収した。国中の街道を整備して二〇万の傭兵を長期間雇ってもまだお釣りがくるだけの金額が集まった」


「没収した二〇の領地全てで無職民を大量に雇い、街道の整備をさせております。また、商業組合と関所、通行税、固定資産税、住民税は廃止になりました」


「まぁ王都のある王族領と同じになるのだから、貴族も商人も断りにくいだろうよ。まして領主様は俺らが討ち倒しちまったし、商人については商売の手助けをしているんだ。頭のいいやつなら俺らに従ったほうが旨味があると気づく」


「…………」


 俺がソフィアの様子に気づく。ソフィアが硬い唇を開いたのは、そのときだった。


「これで……よかったのでしょうか?」

「……なにがだ?」


 特に感情をこめず、俺は聞き返す。


「いえ、いまさらすいません。ただ、前に信長様が言っていたことはわかります。たしかに、いまの三十九貴族は家名をうしろだてに、無辜の民から税を搾取する存在だったかもしれない、と。しかし、その三十九貴族の半数を取り潰した私たちはどうなんだろうって。没収した財産で……コボルト軍と戦う軍備も、整えているんですよね? もしかすると、軍費を稼ぐために臣下である大貴族を滅ぼしたんじゃないかと、そう思ってしまうんです」


 視線を落とすソフィア。その表情は、誰かに答えを教えてもらいたがっているように見えた。だから俺は、溜息をついてから席を立った。


「国民を守るために必要な軍費だ。お前は悪の搾取者よりも無辜の民を選んだ。それでいいんだ。ここで搾取者を選ぶようなら、お前に王たる資格はねぇ」


 俺は部屋の出口に向かって足を運ぶ。


「秀吉、軍はどうなっている?」


「各州で傭兵を雇い、戦場に向かわせています。数は六万。到着した傭兵団から順に、予定の配置につかせております。平定した州で生き残った正規兵も同じです。民衆を味方につけたのが大きかったです。主君の仇討ちを画策する者は僅かで、すでに幽閉済み。多くの兵は信長様に臣従を誓いました」


「よし、なら俺らも今日の午後、二千の兵を率いてここを発つぞ。俺は兵の様子を見てくるから、あとは任せた」


 俺は部屋を出て、秀吉とソフィアを残して立ち去った。

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