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豊臣秀吉の戦闘力が孫悟空レベル!

 そして傭兵たちは、血の海を見る。

 首から上をうしなった死体で埋め尽くされた廊下。

 その異常な光景には、荒事に慣れた傭兵ですら血の気が失せた。


 あまりに凄惨なみちしるべをたどると、傭兵たちは秀吉の姿をみつける……が。


「この警備の厳重さ、侯爵はこの先にいるみゃあ」


 長い廊下には、三〇人ほどの騎士が詰めていた。

 ガタイのいい男たちはみな、フルアーマーで身を固め、ロングソードを構えている。


 対する少女の秀吉は、忍び装束に近い着物の上に軽装鎧。両手には国宝級の名刀、一期一振と三日月宗近を握った二刀流だ。


 騎士たちは秀吉を睨みつけ、慣れた動きで素早く行動にでた。鎧の重量を感じさせないかろやかな足取りで秀吉に襲い掛かり、


「お前らに用はにゃい」


 次の瞬間。傭兵たちは信じられないものを目にした。


 秀吉の五体が、壁や天井を激しくバウンドしながら騎士たちのあいだをすり抜けた。騎士たちの首が同時に床へ転がり、肉体は積み木細工のように崩れ落ちた。


 なんてことはない。


 騎士たちの足が床しかとらえない二次元の動きをするのに対して、秀吉の五体は床、壁、天上のすべてをとらえて、瞬間三次元駆動をしたのだ。


 忍びや猿にたとえられる秀吉の動きをとらえるのは、水中で魚をとらえる以上に難しい。


 そして秀吉は武将だ、侍だ。


 その剣技は、人間の首を狩り取ることを真髄とする。敵のあいだをすりぬけるとき、ついでで首を落とすなど造作もない。


 人間離れした知略のせいで、秀吉は知将として歴に名を残す。だが、忘れてはいけない。


 秀吉が大名として、城や戦場の後方で指揮をしたのは晩年の話。


 信長に仕えるまで、戦国乱世の合戦場を護衛もつけずに一人で旅して渡り、

 信長に仕えたあとも諜報活動で敵地へ潜入し、

 足軽歩兵として武器を手に、戦場の最前線で数多の激戦を戦い抜き、

 エリートやコネ、親の七光とは真逆も真逆。現場の戦働きで出世した超叩き上げ、

 そんな秀吉が、弱いはずがない。


 とはいえ、農民の子である秀吉は、正しい剣術など習っていない。


 だが、山や森のなかで落ち武者に襲われたり、街なかでチンピラ侍に絡まれることが多かったせいだろう。秀吉の五体には壁や高所を利用した、三次元殺法が自然と身に着いていた。


 その猿がごとき敏捷性と跳躍力、三次元機動性能ゆえに、秀吉は信長から『サル』と呼ばれて可愛がられた。信長は、好きな人間にほど変なあだ名をつけたがるのだ。

 傭兵たちが秀吉のあとを追うと、やや開けた場所に出る。


 上の階まで吹き抜けになったその空間は、壁に数枚のドアと、二階へつながる二本の階段があった。その、二本の階段のあいだには、巨漢の騎士が仁王立ちしている。


「よくぞここまで来たな賊共! だが侯爵家一の騎士である俺様がいる限り、この先へは通さんぞ! 見よ! 我が美麗なる剣技を!」


 巨漢の騎士が、大剣を振り上げた途端、その上半身は下半身からずり落ちた。


 秀吉は、もう階段をのぼりはじめている。


 床に血肉をブチまける巨漢の騎士は、重厚な鎧ごと胴体を切断されていた。斬鉄。秀吉の腕と、天下五剣の一振りである三日月宗近の切れ味が合わされたとうぜんだ。


 傭兵たちは息を吞み、あらためて理解させられた。これが、勇者の実力だと。


 一時間後、秀吉はこの屋敷を陥落させるのに成功する。


 金で雇われているに過ぎない傭兵たちは、誰もが秀吉を軍神として崇め、深い畏敬の念を抱いた。


 秀吉は、ただ腕っ節が強いわけじゃない。裏工作に人心掌握術に交渉術、全てが異常だ。


 人間国において、異なる身分同士は心が通じにくい。騎士には商人や農民の気持ちがわからない。なので敵兵との和解や説得に成功することはあっても、自領の商人や農民を味方にするのはむずかしい。


 けど秀吉は違う。農民の、町人の、商人の、すべての人間の心という心をつかんで味方にし、己が力にしてしまう。


 無理もない。

 傭兵たちは知らないが、秀吉は生まれ持った才覚に加えて、その来歴が特殊過ぎる。


 なにせ農民出身で、大きくなると行商人として諸国を旅し、信長のもとで足軽歩兵として武士になり、歩兵から指揮官に、そして大将に、大名に出世したのだ。


 あらゆる身分のあらゆる地位を経験した秀吉に、気持ちの解らない相手などいない。


 経験したことのない身分でも、豊かな経験から、上手く想像できる。


 秀吉も信長どうよう、前提を疑うことのできる人間なのだ。常識にとらわれず、柔軟に、論理的に思考する秀吉の頭脳は、なにものにも惑わされず、常に最善の策を導き出せる。


 そんな秀吉を超える逸材がいるとすれば、ただひとりだろう……


   ◆


 同じ頃。


 信長は人間国の西側において、死体畑のなかで哂っていた。


 領主が街の外で、野戦に持ち込んできたのだ。敵兵の数は、なんと一万。


 だが、その一万人は開戦から間もなくことごとく死亡。


 その光景には、信長が引きつれた五〇〇の騎兵も、途中で雇った傭兵たちも唖然として言葉が出なかった。


 信長は、愛剣国重を振るって血のりを払うと、鞘におさめた。


「なるほど、これがキングの力か。重畳重畳。なら、チャンドラの野郎の能力は、だいたい察しがつくな。もっとも、チャンドラは俺の能力なんてわからねぇだろうがな」


 万軍を一方的に蹂躙した魔王信長は、軍を引きつれて領主の館を目指した。

  

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