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天下人・無双!

 結果を言えば、秀吉は次の日、一日で三つ目の州を落とした。


 秀吉の読み通り、領主は秀吉の所業に関する情報をつかんでいた。


 そのため、傭兵を雇い、迎え撃つ準備をはじめた。だが、領主は傭兵を雇えなかった。


 とうぜん、これは秀吉の策だ。


 深夜に州へ到着していた秀吉は、まっすぐギルドへ向かった。そして、州都に滞在中の全傭兵集団にこのような話を持ちかけた。


 明日は動かず、何もするな。そのかわり、相場の報酬の半額を支払う。


 傭兵集団の団長たちは、すぐに理解した。


 王族の軍隊が明日、この州都を攻めることを。となれば話は早い。領主に雇われれば、相場通りの報酬は貰えるが、王族の軍隊と命を賭けて戦わなければならない。


 逆に、動かなければ、何もせずに半額の報酬がタダで手に入る。


 交渉は成立。領主はギルドに傭兵を雇いたいと依頼したが、受ける傭兵集団はなし。雇えたのは、個人で動いているフリーの傭兵だけだった。


 領主が持つ私兵は八〇〇人。と言っても、常に八〇〇人全員が州都にいるわけではない。州の各地に守備隊として散らしていて、いま州都にいるのはせいぜい二五〇人。


 いまから呼び戻しても間に合わないため、街に滞在している傭兵を雇おうとしたが、集まったのはたったの一三〇人だった。私兵と合わせても三八〇人だ。


 対する秀吉軍は、二つ目の州にまた一〇〇人の兵を置いて来たが、それでも一三〇〇人。兵力差は三倍以上だ。それに、今回も民衆はみな秀吉の味方。この条件で、戦慣れしていない領主が、百戦錬磨の戦上手、秀吉に勝てるはずがない。


 哀れ、三つ目の州の領主は、わずか三時間で領地を奪われることとなった。


 そして秀吉は、三日目には四つ目の州を落とした。


 これも、秀吉は根回しが効いたおかげだ。


 秀吉は、本当に動かないでくれた傭兵集団たちに報酬を払うとき、追加注文をしたのだ。隣の州のギルドに今回の件を宣伝してくれれば、銀貨を一袋やる、と。


 秀吉は、傭兵たちの情報網を利用したのだ。秀吉の軍が四つ目の州に到着する前に、ギルドの傭兵たちは、同じ傭兵仲間の口から聞く。


 秀吉の鮮やかな戦ぶりを、そして王族が派遣した、勇者秀吉の軍が破竹の勢いで大貴族たちを下しているという話を。


 そうなれば、金で動く傭兵という人種の行動は早い。まもなくギルドへ到着した秀吉のもとへ、団長たちは駆け寄り、動かずにいてやるから金をくれ、と頼んできた。


 あとは三つ目の州の再現だ。領主は各地に散った兵に、州都へ戻るよう呼びかけていたが間に合わず、援軍が到着した頃には州都は落ちていた。


 こうして、秀吉はわずか三日の間に四つの州を手にしていた。


 しかし、秀吉の快進撃もここまでだ。


 四つ目の州都を落とした夜、秀吉は戦後処理の業務を猛スピードで片付けていた。


 屋敷の庭で、兵に指示を出し終わった秀吉に、一人の女性が声をかける。


 ソフィアがつけてくれた、美しい女性従者だった。


「勇者様、此度も見事な采配にございます。この調子ならば、十日と絶たずに残る三つの州も落としてしまわれるのでは?」


 秀吉は首を横に振る。


「いや、ここから先はしんどくにゃるんだみゃあ。そもそもウチが楽勝だったのは、相手が平和ボケしていること、兵力が圧倒的だったことが原因だにゃ。でも」


 秀吉の目付きが鋭くなる。


「さすがに連戦で兵も疲れている。一日休ませる必要があるみゃ。それにいままでは領地の狭い伯爵家だったから移動も楽だったが、次は領地も広く私兵も多い侯爵家。州都へ行くには時間がかかる。そのあいだに、ウチらの情報は残る三つの州にも伝わる。領主は各地に散った兵を州都に集め、傭兵を雇い、万全の状態でウチらを迎え打つのにゃ」


 握り拳を固め、秀吉の声から軽さが消える。


「ここから先は、本格的な市街戦になる。ひとりでも多くの傭兵を雇い、市民を味方につけ、敵の士気を挫くにいくのにゃ。明日は兵を一日休ませる。二日後の早朝、ここを発つ。それまでにウチは戦の仕込みを終わらせるつもりだ」


 両目を紅蓮の炎に燃やす秀吉に、従者の女性は息を吞んだ。


 秀吉のまとう、勇者の名に恥じぬ底なしの頼もしさ。従者の女性は、秀吉にかしずきたいと思う自分に戸惑った。


 天下人・太閤豊臣秀吉――西暦一五九八年崩御       勇者適性タイプ:キング



   ◆

 五つ目の州を落とすべく、秀吉の行った仕込みは、次のようなものだった。


 まず、五つ目の州に滞在している傭兵たちを先に雇ってしまう。


 これにより秀吉軍は一万にまで膨れ上がった。対する侯爵は、大金をはたいて残りの傭兵を全て雇った。秀吉は他の傭兵に、動かなければ報酬を払うと言っておいた。だが侯爵は傭兵に、相場の三倍の金を払うと言ったのだ。


 侯爵が保有する私兵も、多くは州都に集まり、侯爵の軍は八千にまで膨れ上がった。


 だが、八千の兵が秀吉軍を迎え打つことはできなかった。


 秀吉の、二つ目の仕込みだ。


 秀吉は王都を出る前、五つ目以降の州に、何枚もの書状を出していた。商人や農民、町人たちの有力者あてに、信長の政策と効能、領主がその政策を拒否していることを書きつづった書状をだ。


 とうぜん、州のあちこちで領主へ対する不満が爆発。役所に住民が詰めかけたり、暴動や暴動に準ずることが起こった。


 結果、侯爵はせっかく各地から呼び戻した兵の一部を、また各地に戻さなくてはいけなくなった。さらに、州都も住民たちが屋敷を包囲し、領主である侯爵に不平不満を叫び続けている。


 兵を州都防衛のために、各区へ配置することができないのだ。


 やむを得ず、侯爵は兵を全員屋敷のなかにいれ、籠城戦に持ちこむこととなった。


 侯爵は、自室で憎らしげに窓の外を見やる。


「ふん、まぁいい。報告では、勇者は屋敷を直接襲い、街には手を出さないらしい。街を守る必要はないだろう」


 それに、五つ目のこの州は、今までの州より国境に近いこともあり、屋敷にはある程度の防衛意識があった。


 屋敷を囲う塀は高く、頑丈で、城壁に近い。屋敷の内装も、見栄えより守りやすさを念頭においた設計になっている。


 侯爵は、根拠のある自信を以って椅子に座った。


 家来のひとりが部屋に跳びこんできたのは、そのときだった。

 



電撃オンラインでインタビューを載せてもらいました。

https://dengekionline.com/articles/127533/

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