人心掌握術・無双!
この国が滅びるか否か、自分のひとことでそれが決まると予感して、ソフィアは震えた。
「わ、私は……」
冷たい北風はここまでだ。ここで暖かな太陽を投入する。
「安心しろソフィア。わかっているさ。お前は民より貴族が大事なわけじゃない。両方大切で、両方守りたいんだよな?」
俺は、少しだけ声音に体温を含ませる。
「愛する民を守りたい。だからといって三十九貴族を滅ぼす勇気がわかない。まだ幼いソフィアには大き過ぎる決断だ。今のは俺が悪かったよ」
ソフィアを精神的に弱らせ、優しく手をさしのべながらも、彼女の王代理としての矜持を刺激しておく。
いま、ソフィアの葛藤はすり替わった。三十九貴族を滅ぼすことの正否から、決断できないのは自分の未熟さが原因なのかという疑念に。
よし! もうひと押し!
「でもなソフィア。確かにこの国の建国に尽力した三十九人の英雄は尊い存在だ。きっと国民を愛する名君ぞろいだったろう。でも忘れるな。英雄は三十九貴族の初代当主だ。いまの当主は何もしていない。何もだ。いまの当主たちは名門の肩書に胡坐をかき、民から搾取し、民を苦しめる暴君だ。初代当主がいまの当主たちを見たらどう思う? 初代当主たちの、英霊の声を聞け。民を苦しめる不出来な遠い子孫の悪行を終わらせてくれと、そう願うはずじゃないのか?」
ソフィアの純粋な瞳が、ハッとして開く。
「ソフィア。お前が尊ぶべきは三十九貴族の家名か? それとも初代当主たちの魂か?」
ソフィアの汚れなき瞳に、力強い光が宿る。
「人間国次期女王ソフィア・レッドハート。民を苦しめる伝統など伝統ではない、ただの呪いだ。いや、三十九貴族の存在は伝統でもこの国の象徴でもない。初代当主たちの歴史そのものが伝統であり象徴なんじゃあないのか?」
ソフィアは純心な想いを握りしめ、無垢な唇を開く。
「信長様! 私が間違っていました! 大切なのは三十九貴族というハリボテの看板ではなく、いまを生きる国民たちです!」
俺と秀吉は笑顔になる。
「ありがとうソフィア。お前ならそう言ってくれると信じていたよ。これほどの英断ができるとは、やはりソフィアは俺が見込んだ通り、名君の器だな」
俺は流れるように一枚の軍事命令書を取り出し、なめらかにその命令書をソフィアに差し出した。
「さぁソフィア。この軍事命令書にお前自身の手で王印を押すんだ。この国はいま、ソフィアの手で新しい歴史を刻みはじめるんだ」
「はい!」
ソフィアは秀吉から王印を受け取る、机の上で軍事命令書に王印を押した。この俺、信長の軍事作戦を全面的に支持する、という内容の軍事命令書に。
「よし、これで悪は滅びるな。初代当主様たちもお喜びだろう」
笑顔で言いながら、俺はそそくさと軍事命令書を机の引き出しにしまって、鍵をかけた。「じゃあソフィア。あとのことは俺らでやっておくから、お前はメイドと一緒に石鹸で入浴してくるといい。お前が成長してくれて俺は嬉しいぞ」
「はい! 信長様、私、立派な女王になれるようがんばります!」
清浄潔白な瞳を輝かせ、ソフィアは退室した。その姿を見送り終わると、秀吉は悪魔のように邪悪な笑みを浮かべる。
「にゃはははは。やりましたな信長様……ッ!?」
俺を見上げた秀吉が絶句する。そのとき、俺は悪魔も逃げ出すような醜悪な笑顔だった。
「あの……信長様? もしかしてまたウチになにか……」
冷や汗を流す秀吉の肩をわしづかみ、俺は一言。
「兵を二分する。お前は一五〇〇の兵を率いて東へ攻め上がれ」
秀吉の顔から感情が消えた。
「……すると、信長様は五〇〇の兵で西へ? 傭兵を加えるにしても、正規兵が少なすぎませんか?」
にゃあみゃあ言わない秀吉に、俺はうなずいた。
「うむ、だがな、少し試したいことがある」
「試したいことですか?」
「ああ。俺ら勇者は、召喚されるとき、多くの力が授けられる。老いることのない全盛期の肉体。生前の武器を召喚する力。手足を失っても時間をかければ修復される力などだ。だが、キングはそれだけではない。クイーンの駒で好きな勇者を呼べることと、もうひとつ、キングならではの、特別な能力がある。その力の性能を、俺は試したいのだ」
俺は、秀吉のキングの勇者限定の能力を聞かせた。
秀吉は生唾を吞みこみ、黙って俺の作戦に頷いた。
電撃オンラインでインタビューを載せてもらいました。
https://dengekionline.com/articles/127533/




