男湯と女湯って何?
秀吉が上機嫌に感想を漏らすと、女たちが一斉に俺らを振り返った。そして凍りつく。
俺と秀吉は大浴場内をきょろきょろと見まわしながら足を進める。
「それにしてもこの世界の女たちは乳と尻がでかいな」
「ですにゃあ。まぁそれでも、吉乃様ぐらい大きい人は少ないようなのにゃ」
俺らのほうを向きながら、なぜか頬を引きつらせる女たちは、その多くが巨乳安産型だ。ずいぶんと発育がいいようだが、陰毛だけは秀吉と同じで生えていない。一部の女は、それぞれの髪と同じ色の陰毛がわずかに生えている。
「吉乃級の爆乳大安産型がそこらへんにいるわけないだろ。あれは兵器の類だ」
自分で言って、俺はつい吉乃の体を思い出してしまう。発育途中のスイカを思わせる、吉乃の乳と尻。アレは反則だ。吉乃には、あの乳と尻でいつも困らせられた。
やっぱり勇者なんてやめて、早く死んで吉乃に会いに行こうかな。なんて俺が思っていると、秀吉が水をさしてくる。
「あーあ、これだけ巨乳巨尻美女美少女がいるのに、風呂場じゃいまいち興奮しませんね」
唇をとがらせながら両手を天井に向け、秀吉は残念そうにやれやれと首をふる。
俺もため息をつきながら、
「まっ、風呂場じゃ裸でとうぜんだからな。むしろ損した気分だぜ」
「ウチは昔から、大衆浴場に入るたびに思っていたんですよねぇ。ここが広間ならどれだけ極楽浄土なんだと」
「あ、それは俺も前から思ってたわ」
「天下人になってからは毎日が極楽浄土だったなぁ~。ぐへへ」
秀吉は天井を眺めながら思い出に浸り、よだれを垂らす。
俺は無言のままに秀吉を逆さまに担ぎあげ、秀吉のうなじを右肩で支え、秀吉の両足首をつかんでななめ下に引っ張った。
「信長烈苦凄不裂怒‼ またの名を、信長破凄大亜‼」
「いんぎゃぁああああああああああ! 股が裂けりゅぅうううううううう!」
秀吉は断末魔の叫び声をあげる。俺が足首を離すと、秀吉は床に転がり落ちて尻餅をついた。
「あぁ……また、うるおっちゃう❤」
秀吉は床に寝ころんだまま両手で局部をおさえ、体を震わせた。
「ったく、相変わらずとんだスケベ猿だなこいつは。ん?」
俺は気づく。女たちはまだ俺らに注目したまま固まっていた。それもなぜか、全員イチゴのように顔を赤くして、体がわずかに震えている。
近くの女に向かって、俺は、
「おいそこのお前、いくら勇者様の前だからって、そんなに緊張しなくていいぞ。俺はあれだ、庶民派だからな。ガキの頃から城下町や農村でよく遊んだしな。だからもっと力を抜け」
言って、俺が女の肩に手を置いた途端、それは起こった。
『イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアン‼ 見ないでぇええええええええ‼‼』
その女を皮切りに、全ての女が同時に悲鳴をあげた。誰もが手で乳と局部を隠し、俺らにお尻を向けて脱衣所へ殺到した。白いお尻を振りながら逃げていく女たちを見送ると、俺らは同時に首をかしげた。
「おいサル。お前なにかしたか?」
「サルめはなにもしておりません。信長様こそ何かされませんでしたか?」
「馬鹿、俺が何かするわけねぇだろ。まぁ、お前と二人だけならちょうどいい。風呂に入りがてら政策の進捗状況を報告しろ」
「はは! わかりましたのにゃ!」
びしっと敬礼をすると、秀吉は周辺からイスと空の桶をもってくる。
俺が椅子に座ると、秀吉は空の桶で湯をすくい、俺の体にかけていく。
それから秀吉は、あらかじめ用意しておいた米のとぎ汁に、手拭いをひたす。そうしてから秀吉は俺の背後へ回ると、米のとぎ汁をたっぷりとしみ込ませた手拭で、俺の首と背中をこすりはじめる。
うん、ほどよい力加減だ。やはり秀吉は背中を流すのがうまい。
全裸の美少女に背中を流させながら、俺は報告を聞く。
「まず交通網の整備についてご報告申し上げます。街道を平らに整地し関所を撤廃し、道幅を三メートルから三倍以上の十メートルに広げる工事ですが、王都と四大主要都市を繋ぐ一番大街道から四番大街道は完了しております。ならびに、四大主要都市どうしを繋ぐ五番大街道から八番大街道の工事も完了致しました。現在は、四大主要都市から領外へ続く街道を工事している途中です。奴隷も元無職民たちも作業に慣れ、工事は順調です」
秀吉は俺の右腕をあげさせると、背中に続いて俺の腕を洗いはじめる。
「そうか。それで、税の撤廃はどうだ?」
「問題ありません。王族の直轄地であるこのロマテナにおいては通行税、住民税、固定資産税は全て撤廃済みです」
報告しながら俺の前にまわりこみ、秀吉は俺の胸元を洗いはじめる。
「それで、商業の自由化、楽市楽座はどうなっている?」
「そちらも滞りなく。なにせ王都と主要四大都市の五大商業組合が解散しましたので。それにともない商品も安くなり、他の町でも価格競争で負けないようにと商業組合を廃止。ロマテナ中の商品が安くなり、庶民の消費は拡大。商品の仕入数と販売量は増大。物流は加速する一方でございます♪」
俺の体をこする秀吉の手拭は、俺の胸元から腹へと下りる。
「それは重畳。王族の領土である、ここロマテナの改革はほぼ完了したと言えるな」
この国の仕組みを解説すると、三十九貴族の存在は無視できない。
まず、この人間国は四〇の地域に分かれている。国の中央に位置し、もっとも広くて豊かなロマテナは王族が治める王族領だ。残る三九の地域は、三十九貴族と呼ばれる大貴族たちがそれぞれ治めている。
俺の腹を洗う秀吉の手拭は、下腹部へと下りる。
俺のいた日本も六六の国に分かれていた。それぞれの国に大名がいて、日本全土を治める幕府、征夷大将軍に忠誠を誓う。もっとも、俺の時代では幕府の権威が失墜し、六六の国が領土拡大のために争う戦乱の世だった。
「んあ?」
秀吉の手拭の動きが、単調になっているのに気づく。見下ろすと、秀吉は俺の脚をこすりながら、真っ赤な顔で逡巡していた。




