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交渉・無双!

 その直前、その絶妙な隙に秀吉はすべりこむ。口から先に生まれたような少女、秀吉は饒舌に語る。


「信長様がめざすは全ての商人がなにものにも縛られず自由に商売ができる国、商業を中心に国をまわす商業国家である。ゆえに商人と商品の行き来を自由にすべく交通網を整備した、次は組織からの解放だ。商業組合の廃止、これを『楽市楽座』と呼ぶ」


 秀吉はひとなつっこい笑みで商人達に歩み寄る。


「さすればお主らは今まで以上に儲けることができるであろう♪」


 一部の商人は口を挟もうとしていたが押し黙る。秀吉は気さくに、明るく舌を回した。


「確かに組合のおかげでお主らは独占販売権を得て儲けていた。だが、組合の決まりが邪魔なこともあったのではないかな♪」


 少なくない商人の顔色が変わる。


 独占販売権は、大商人が中小商人相手に利益を独占するにはいい。だが、それは大商人どうしでも同じだ。


 例えば、大武器商人が軍馬も商品に加えたいと思ったとする。だから同じ大商人の、馬商人に許可を求める。しかし馬商人が許可をするはずもない。中小商人なら多少は認めても、相手は大資産家。自分の立場をおびやかすかもしれないのだ。


 現状、大商人も組合のおかげで一定の地位は約束されるが、これ以上の拡大がしにくくなっている。


 それでも、商人達はすぐに首をたてには振らない。


「しかし独占販売権は我らの屋台骨。商人相手に利権を手放せとは難しい相談ですぞ?」


「そんなんまやかしの屋台骨だっての♪ 相手は中小商人だぞ? お前らとは資産も仕入れ経路も雲泥の差があるのだぞ? それで何を恐れる? お主らは音に聞こえた大商人。その地位は独占販売権に支えられたものか? 商いとはかように単純か?」


 商人たちの顔から動揺の色が抜ける。気難しい顔の商人たちへ、秀吉は背を向けた。


「とはいえこちらも多額納税者である大商人様に倒れられては困る。お主らが組合がなくなっては一家そろって首をくくるしかないというのであれば、この話はなかったことに」


 商人たちは、表情を硬くするのを誤魔化しきれていなかった。


 もしもここで『組合がないと困る』と言ってしまえば、それは『自分は独占販売権など組合の決まりに頼った殿様商売しかできない三流商人です』と宣伝するようなものだ。


「いえ、私はかまいませんぞ」

「私も、固定資産税を払うよりはいい」


 商人たちに背を向ける秀吉の顔が、一瞬だけ邪悪に歪んだ。商人たちに向き直って、


「他の連中はどうだ? 固定資産税はお前らの手腕でどうにかできるものではない。しかし組合がなくとも市場占有率、この世界の言葉でいうところの国内シェアはお前らの手腕次第で取り返せる。どっちが得だ?」


 比較的若い商人を中心に、何割かの商人が腹を据えた顔になる。よし、いい感じだ。

 けれど、残りの商人達はまだ迷っている。とうぜん秀吉の攻め手は止まらない。


「言っておくが、じきに組合は機能しなくなるぞ。都市は王都と四大主要都市だけではない。国内には他にも都市や街がいくつかある。そこで組合の廃止案、信長様の楽市楽座が行われれば独占販売はなくなり、価格競争がはじまる。街道は整備され移動は安くて楽になった。隣町のほうが圧倒的に商品が安ければ、市民達は駅馬車に乗って隣町で買い物をするだろう。そうなれば独占販売権など無意味よな」


 迷っていた商人達が一斉に青ざめる。

 ここで、秀吉はくるりを商人達に背を向け、ふたたび俺とソフィアのほうを見る。


「いやならいいぞ。ウチらは脅しているわけじゃない。じゃあこれからも固定資産税は払ってもらうからな」

「お待ちください!」


 数人の商人達があわてて声をあげる。苦悶に声を濁らせ、葛藤してから、


「私も、賛成です」

「わたくしも、承りました」

「お、同じく……」


 商人たちに背を向ける秀吉は、ひとなつっこい声で、


「そうか、それはありがたい」


 と言いながら『あっぴゃー♪ こいつらマジちょれぇぜぇ♪』という顔をした。秀吉は表情をあらため、商人達を見まわす。


「それでは決を取るぞ。商業組合を廃止するという信長様の楽市楽座、反対の者は手を挙げよ」


 商人達は横目でお互いを観察しながら、誰もが動かなかった。


 うまいな。


 集団心理として、人間は自分が行動を起こす最初の奴にはなりたくない。

 ましていまは楽市楽座に反対する者は、経営手腕がないと宣伝するもどうぜんの状況だ。


 もしも『賛同する者は手を挙げよ』ならば全員反対の状態からはじまる。そして自分以外に手を挙げている者がいるか確認してから手を挙げるだろう。


 しかし秀吉は『反対の者は手を挙げよ』と言った。これならば、全員が楽市楽座に賛成の状態からはじまる。

 そして本当は反対派が複数いても、互いに誰か挙げないかと確認し合い、誰も手を挙げず、結果、政策は満場一致で可決となる。

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