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第4話:クラス替えと担任教師

 伊武稚隼は高校二年生になり、そしてめでたく生徒会書記に任命された。

その初仕事が先日の入学式でのゲリラのようなパフォーマンスである。

表に出る仕事ではなかったが、生徒会の仕業だとバレたために稚隼もまた教頭にこっぴどく叱られた。


(ほんと、宝条政義と関わるとろくなことがない!)


これが高校に入ってからの稚隼の口癖である。

ある出来事を切っ掛けに、稚隼は事あるごとに宝条と関わり、また向こうから関わられた。

所謂腐れ縁状態なのだ。




 「伊武ちゃん! 今年もよろしくね」

 ニコニコ笑顔で近付いて来るのは自称親友の真下好徳(ましたよしのり)である。短めの前髪や大きな眼など、中学生がそのまま大きくなった、という感じの風貌だ。

去年同じクラスであり、入学当初から仲良くしていた。

「今年も真下と一緒かよ、最悪」

「またまた、照れちゃって!」

(……ウザい)

これが二人の仲の良さというものだった。

「それよりもうちのクラス、可愛い子多くない!?」

真下はコソコソと言う。

その目はキョロキョロとあちこちを見渡しているので不審である。

笹頼(ささらい)さんも同じクラスらしいぜ。良かったな、伊武ちゃん」

「なんで」

「気、あるんじゃないの? 良く二人で話してたじゃん」

「何もない」

(クリスマスイヴにフラれてるよ!)

稚隼は心の中で叫んだ。

真下の言う笹頼のことを稚隼は確かに可愛いとは思っており、告白まではしなかったものの、結果的には既にフラれていた。

「東宮高校の五本の指に入る美人が三年生に二人、二年生に二人で一人がうちのクラスの笹頼さんだろ。あとは一年生に一人かな」

「だろうな」

「気になるっ! な!」

(同意を求められても……)

稚隼は曖昧な返事を返した。すると真下は悔しそうな表情になる。

「あ、伊武ちゃん、自分が寧丘円嘉や笹頼さんと仲いいから余裕もってるんだな!? この果報者がっ!」

真下が大きな声を出すので、新しいクラスメイトの注目が二人に集められた。

稚隼は気まずくなる。

「真下、うるせえよ」

「ごめん」

多数の視線に耐え兼ねたのか、真下も大人しく謝った。


「げ」


稚隼が妙な声を上げる。

その視線の先にいたのは、去年も同じクラスであった前島朗人(まえじまあきひと)だった。最近彼女と別れたばかりである。少し長い前髪が邪魔そうだ。

「また前島と同じクラスかよ……最悪」

「ちなみに岡原は違うクラスだぜ」

「そりゃ良かった」

稚隼は前島とは一年生の時から仲が悪かった。

しかし真下曰く、前島は稚隼と仲良くなりたいのだという。

(仲良くなれる気がしねェよ)

稚隼はバッサリと断ち切った。


「真下っ! お前もこのクラスなんだ」


真下を呼ぶ声に振り返ると、真下と同じ匂いのする小柄な男子生徒が楽しそうに立っていた。

「八田!」

真下と八田はガッシリと握手をした。

真下は元々友人が多く、廊下を歩いているだけでいつも話し掛けられていた。そのため稚隼はこの光景に慣れていた。

「伊武ちゃん、こいつ八田聡(やださとし)。俺と同中なんだ、仲良くしてやって。こっちは伊武稚隼、通称伊武ちゃん!」

八田はよろしく、と言って手を差し延べた。

稚隼は差し出された手に戸惑いながら、握手に応え、苦笑いした。

(真下と同類だな、こりゃ)

心の中でため息を吐いた。

「そういえば、中学ん時の一コ下の晴海恵名(はるみえな)が入学したらしいよ」

「マジで!? うわ、あいつ東宮来たのか……」

(真下が嫌がるなんて珍しいな。昔の彼女か?)

会話に参加出来ない稚隼は二人の会話に聞き耳を立てていた。なかなか興味深い話だ。

「精々見つからないといいね」

八田は真下に向かってニヤリとする。

「伊武君も今年一年よろしくね」

じゃ、と片手を上げて八田はまた違う友人のいる場所へ移った。

真下はまだ考えごとをしている。

「ま、頑張りたまえ」

事情をしらない稚隼は気軽にポンと肩を叩く。

(あ、今の宝条政義みたい)




 東宮高校の場合、担任教師は始業式のホームルームの時にいきなり教室に入って来る、といった発表の仕方が伝統となっていた。それまで担任は一切分からないのだ。

クラス全員がドキドキして担任発表を待っているのと同じように、稚隼もどこか期待しながら担任の到着を待っていた。

(担任くらいまともな人がいい)

(里見とかだったら最悪)

ガタガタッと教室の前の扉が開かれる。古いためすんなりと扉が開かないのだ。

教室のざわめきが大きくなる。


「はーい、席に着けー……ってもう皆着いてるか」

毎年のことだもんな、うん、と担任教師は呟く。


教室に入って来たのは、ボサボサ頭でだらしなく白シャツに黒ネクタイを巻いた教師。

その表情からはあまりにもやる気を感じられない。


(……最悪だ)

稚隼は早速机に突っ伏した。




 「じゃ、改めまして……里見(さとみ)だ。担当は日本史。以上!」

担任教師の自己紹介は極めて簡潔だった。クラスの半数が知ってるであろう情報しか述べていない。

(ったく、どうして生徒会だけじゃなくて教室でも里見と顔合わせなきゃいけないんだ)

稚隼は思わずため息を漏らした。

つい先日、円嘉から生徒会の顧問が里見に決まったと知らされたばかりだった。

宝条がとても嬉しそうだったのを覚えている。

(宝条政義は里見がお気に入りだからな)

稚隼の落ち込み様に比べて、クラスの反応はそこまで悪くなかった。

女子生徒からしてみれば、若くてかっこいいと評価の高い長谷部(はせべ)の方が良かっただろう。

しかし東宮高校の教師は定年間近や中年が比較的多く、若い教師は数える程しかいなかったので、若い教師であったことに喜んだ。

男子生徒には楽だからという理由である意味人気がある。

「明日、クラス委員決めるから各自考えとけ」

里見は手のひらに書かれたメモを読み上げる。他にも幾つか項目があるらしく、それを棒読みした。

「それじゃ解散!」

里見の言葉を合図に、生徒たちはバラバラと立ち上がった。帰宅する準備をする。


「センセー」


名簿をつけていた里見が顔を上げると、そこには機嫌の悪そうな稚隼がいた。

「何だよ、態度デカいねオイ」

里見はふ、と笑う。

稚隼は黙っている。

「質問でもあるんデスカ? 伊武稚隼君」


「……この学年、風紀委員がいるって円嘉先輩に聞いた」


すると里見が興味深そうにニヤける。

「え? 知りたいの? それって気にすること?」

うん、と稚隼は首を縦に振った。

「仲良くしてかなきゃなんないだろ、風紀委員会と。俺だって生徒会のメンバーだし」

意識高いなあ、と里見は呑気に感心している。

目の前にいる生徒の真面目さを意外に思った。

「仲悪くもないみたいだけど、そんないいって感じでもないだろ、多分」

里見が無言でいることに恥ずかしくなったのか、稚隼は自分の行動の弁解を始めた。

「……宝条サンが今年から風紀委員と協同運営だって言うし」

「何だかんだ、お前も宝条っ子だもんな」

里見がボソリと零すと、稚隼は怒ったように全否定した。


「私だよ、伊武君」


稚隼が驚いた様に振り向くと、笹頼佑季(ささらいゆき)がニコニコとそこに立っていた。


「え? 笹頼、何の話?」

稚隼は少し混乱している。

里見はそんな二人を面白そうに眺めていた。


「私、風紀委員に任命されたの。よろしくね」


「……は!?」


「だから、笹頼が風紀委員なんだよ。なっ!」


里見がやけに親しげに笹頼に同意を求めた。

笹頼も笑顔でそれに応える。大人なのだ。


「笹頼が? そんなこと一言も……」

稚隼はグチャグチャしている頭の中を整理しようとする。

しかし幾ら思い返しても、笹頼が風紀委員会に入る気配があったとは思えない。

「だって風紀委員ってどちらかといえば秘密が多いじゃない?」

「そうだけど……」

「これから楽しみね」

そう言って笑った後、笹頼は友人に呼ばれて、じゃあね、とそちらの方に向かった。

残された稚隼は未だにポカンとしている。

「ビックリだろ? あんな可愛い風紀委員いたら、誰も悪さ出来ないよな」

里見はニマニマと笑って言う。

しかし今の稚隼にはその姿を馬鹿にする余裕もなかった。



(マジかよ!!)

(笹頼が風紀委員って……何かあってギクシャクすんの嫌だぜ?)



稚隼は幸先悪いスタートを切った。



 新しい一年、何が起こるか神のみぞ知る。

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