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第3話:生徒会長宝条政義

 東宮高校には生徒会と風紀委員会の学校をまとめる二大勢力がある。

しかし、二つは対立するでもなく、お互いなくてはならないものとして尊重し、良い関係で両立していた。

生徒会は主に学園祭の企画など、学校や生徒を盛り上げる表の役割を、風紀委員会は正しい学校や学生であるために、規則をもって不正を取り締まる裏の役割をする。東宮高校ではその表裏の差が大きかった。

とはいえ、生徒の人気は生徒会に偏ることもなく、五分五分の人気を誇っていた。




 稚隼が東宮高校に入学してから早くも一年が経とうとしていた。

次の新入生が入学する季節がやって来たのだ。

満開の桜が初々しい新入生達を出迎える。彼等の表情は明るい。


(俺にもこんな時代があったんだよなあ)


稚隼は柄にもなく、感傷に浸っている。彼自身、自分の身に起こった変化を自覚しているためである。

(まさかこんなことになるなんて思ってなかった……)

後悔しているか、と聞かれたら稚隼は迷わず、はい、と答えるだろう。

しかしもう逃れることは出来ない。

それは稚隼も十分承知していることだった。




 東宮高校の入学式では、生徒会長が新入生の前で祝辞を述べるというのが恒例の行事だった。

生徒会長が上級生の代表者として、新入生を歓迎するのだ。

毎年その派手な演出が人気を呼んでいた。

昨年は生徒会長が女装をした、ということで新入生の笑いを誘ったのを稚隼は記憶している。

(今年の生徒会長はアレだからね)

稚隼は生徒が体育館に集まる中、一人体育館の上にある放送室にいた。大して詳しくない音響や照明の作業をしている。

(騒ぎにならなきゃいいけど……まあ無理か)

クスクスと笑みを溢しながら稚隼は新入生達の様子を覗いていた。


 「稚隼君! ちゃんとやってる?」


ノック無しでいきなり部屋に入って来た女子生徒を見、稚隼はギョッとした。

円嘉(まどか)先輩、いっつも言ってるでしょ。部屋に入る時はノックして下さいよー」

「心にやましいことのない人間は、いきなり部屋に入られたからって困らないのっ! サボってないで、ちゃんと仕事しなさい!」

はいはい、と稚隼は口を尖らせた。

入学したばかりの頃とは随分とふてぶてしい性格になってしまった、と稚隼自身が自覚してしまう瞬間である。

しかし周りからは、始めからだ、と突っ込まれる。

(そんなことないんだけどなー)

それが稚隼の言い分だった。


「始まるわ」


円嘉はニヤリと笑った。

稚隼はあちこちに散らばる器具に手を掛けて、仕事を続けた。




 荘厳な雰囲気の中、入学式が始まった。

理事長の挨拶など、新入生は真剣な面持ちで聞いている。

新しい環境に緊張しているのか、とても大人しい。

そんななか、校長の話は長い上にありきたりの内容でつまらないし、歌えもしない校歌を歌わされるしで、新入生は退屈し始めた。

入学式が開始して三十分程たった頃だった。

いよいよ生徒会長の祝辞の出番が回って来た。


『次は今年度の生徒会長から新入生の皆さんに祝辞です』


わぁっと体育館内がざわつく。東宮高校に入ったならば見逃せないという噂を、新入生達も聞きつけていたようだ。



「新入生諸君!!」



パッと体育館内の照明が消される。大きな音でクラシックの音楽が流れ始めた。

一面真っ暗になり、新入生達のざわめきは頂点に達した。


「東宮高校にようこそ!」


幾つかのスポットライトが壇上の中央に当てられる。

新入生達の注目は一気にそちらへ向かった。しかしそこには誰もいない。そこにあるのは綺麗に包装された大きめな箱である。


「君達に一つ言っておきたいことがある!」


なんだなんだ、という声が漏れる。

スポットライトは壇上以外にもあちこちを動き回っている。まるでミラーボールのようだ。



「青春を謳歌しろッ!!」



生徒会長がそう叫んだ途端、パッと新入生達の頭上にスポットライトの明かりが集まる。

するとそこにはロープに掴まった生徒会長の姿があった。


「人生は一度きりだッ! 悔いが残るような行き方はするな!!」

「フハハハハ!」


空中で不安定に揺られながら、生徒会長は不敵に笑った。

新入生達は驚きの表情を隠せない。校長を始めとした教師達も同じである。教頭などは慌てて新入生達の間を縫って入る。



「以上! 生徒会長、宝条政義ッ!」



フラフラとロープに揺らされ、最終的に宝条は最初にライトが当てられた壇上に辿り着いた。そして置いておいた箱を新入生達に向けた。素早く箱の包装を剥がす。

最後に宝条は笑った。



「入学おめでとう!!」



パンパンパンッと箱の中から爆竹が飛び出す。

あまりにも大きな音に、悲鳴をあげる女子生徒が出た。

最前列に並ぶ生徒達はその場から逃げ出し、将棋倒しになりつつあった。

教師は新入生を宥めるのに必死である。

当の本人は楽しそうに笑いながら、ロープに掴まり壇上から去って行った。笑い声が響いている。




 「うわ。やっぱやっちゃいましたね、宝条サン」

放送室でこのための音響や照明をいじっていた稚隼は、愉快そうに言った。

「知らないですよ俺は。予算額下げられるんじゃないっすか? 教頭カンカンだあ」

「その時は政義に出させるからいいのよ。あいつがやりたいって言い出したんだから!」

「自業自得って、ね」

稚隼と円嘉はまるで丁寧に時間を掛けて準備した悪戯が成功したかのように微笑んだ。




 宝条は室内が明るくなったのを見計らって、体育館の上のから外に出た。

周りが見えるようになった状態でも騒ぎは収まる様子はなかった。

それを宝条は嬉しそうに見ている。


「嬉しそうな顔してんね、生徒会長」


宝条は振り返ることなく、体育館の中で起こる騒ぎを覗いていた。

生徒、教師関係なく慌てふためいている。

宝条は先程まで使用していたロープをスルスルと巻いて回収し始めた。手際が良い。

「ったく、責任とらされる俺の身にもなって?」

「……新入生は元気がいい。やっぱり若さだな」

すると宝条の背後から盛大なため息が聞こえる。

「はいはい! 俺にしてみりゃ、お前もあいつらも大して変わんねえけどな!」

男がそう言うと、宝条はやっと男の方に身体を向けた。

男は頭をガリガリと掻いている。冴えない顔付きだ。

終いにはポケットから煙草を取り出した。

「……煙草」

「お前が告げ口しなきゃいいことだ。変なトコだけ生徒会長だな」

そう呆れたように言いながら、男は煙草に火を点けた。

吐き出された煙がプカプカと宙を漂う。

「それより、こんな所にいていいのか? 教頭が探してるだろう」

「それはこっちの台詞だっ!」

宝条は男の言葉に、意味が分からない、と不思議そうな顔をしている。

男はあーあ、と頭を抱えた。

「それより、どうやってあんなパフォーマンスしたんだ? ロープに吊り下がるなんて……お前はルパンかッ!」

「生徒会のメンバーに手伝って貰ったんだ。ロープに移動出来るように工夫してだな、それで……」

「あー、もういいっ! 何で俺、今年から生徒会顧問になっちゃったかなあ!!」

すると宝条は真直ぐ男を見た。

男は嫌な予感がするのを知った。



「これからもっと面白くなるぞ、里見(さとみ)センセー」



 宝条政義が率いる生徒会が、これから始まろうとしている。



 (やれやれ、どうなることやら)

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