私だけに見える赤い糸を手繰り寄せ
「もう おやすみ…………」
なんとも素っ気ない返しに思わず言葉が出なかった
「別に期待していない」と言えば真っ赤な嘘になるだろう
しかし、私の想像を超えて彼はその扉を静かに閉めた…………
(私……そんなに魅力ないかなぁ?)
ポツンと残された私とベッド。窓の外にハッキリと見える眩しい月は、きっと彼の味方なんだ……
静々とベッドに入ると彼の匂いらしきものが私の脳へと届き、思わず目頭が熱くなった
そしてテレビの着く音がして、プシュッと遠慮がちに缶を開ける音が一つ
もう一度アタックしようかと邪な考えが過ったけれど、自分で『邪な』と言っている時点で勝敗は明らかだろう…………
テレビはバラエティーからニュースに変わり、そしてまたバラエティーへと移った。前に話してくれた面白い番組を観ているのだろうか?
そして不意にテレビの音が消え、彼の話し声が聞こえ始めた。どうやら電話のようだった…………
聞き耳は良くない。そう思いながらも気が付けば木々のざわめきなど気にならない程に私は集中している
誰だろう?
その答えは別れの挨拶に全て集約されていた
「俺も愛してるよ……おやすみ」
──コンコン……
とても小さなノック音が二回聞こえ、扉が静かに開いた
私は寝たふりを決め込み、顔を腕で隠すことに
彼はスッと布団を肩までかけ直し、クルリと振り返る
彼の袖を掴もうと静かに手を伸ばすも……それは邪な考えだと悟り諦める
もう私の手の届く人ではない
こんな我が侭な私を一夜でも泊めてくれた彼に心の中でお礼を告げる
「ありがとう…………そしてばかやろう……」
ついでに彼の優しさに文句の一つを加えてやった…………
去り際に見えた先輩の赤い糸は、私の赤とは違ってとても綺麗な赤だった…………
読んで頂きましてありがとうございました。
(*´д`*)