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082「親の心子知らず」

 子を持って知る親の恩、という言葉があるように、子育てに携わるようになって、はじめて親の気持ちが分かるもの。


  *

 

「ふ~ん。騎士の訓練生だっていうから、どんな屈強な男が来るのかと思えば……」


 言外に落胆の色を滲ませつつ、緋色のベルベットが惜しげもなく使われたイスに深々と座っていたラファエルは、弾みをつけてイスから飛び降り、正面に離れて立つ警護用の制服姿のテオとドミニクに近付く。


「ガッカリしてるのは、こっちも同じだよ、山羊小僧」

「羊だよ、馬鹿ドブネズミ」 

「ネズミじゃなくて、シマリスだ!」 

「ドミニク、抑えて」


 小生意気な口をきかれ、ドミニクは噛みつかんばかりにいきり立つ。それに対してテオは、踏切の遮断機のようにサッと左腕をドミニクの前に出して止め、至極冷静な口調でラファエルに謝る。


「失礼いたしました。なにぶん、若輩者ですから、至らないところが多いかと存じます」

「君が謝ることないよ。そっちのシマシマ野郎よりは、ずっと信用できそうだと思ってるから」

「はっ。お心遣い、痛み入ります」


 テオの貴族然とした振る舞いに満足したのか、ラファエルは白手袋をした右手をテオに差し出す。テオは、しばし考えたのち、その手を握る。すると、ラファエルはテオの手を握り返して軽く振ると、ニッコリと微笑んで手を離す。

 友好的な様子を見せつけられて、ドミニクはツマラナイとばかりに両手を頭の後ろで組み、意味もなく尻尾を左右に振った。


  *


「ドミニク。これを食べたら警護再開だから、そろそろ機嫌直せよ」

「フンッ。どうせ僕は、嫌われ者ですよーだ!」


 ホテルの一階にあるビュッフェで、小豆色の上着を脱いだテオとドミニクは、めいめいに平皿を持って料理を乗せていく。テオの皿には、白身魚のムニエルやグリーンサラダが上品で控え目に、ドミニクの皿には、ローストビーフやポテトサラダが山盛りに乗っている。


「好かれてないからといって、役目を放棄するのは良くないぞ。引き受けたのは、ドミニクじゃないか」

「そりゃあ、そうだけどもっ! あぁ、思い出すだけで腹立つなぁ」


 料理を取り終えた二人は、揃って同じテーブル席に座る。四人席に斜向かいで座る二人の横の席には、それぞれの上着が置かれている。几帳面に畳まれたテオの上着の内側にも、乱雑に丸められたドミニクの上着の中心にも、それぞれベルトと警棒が隠してある。


「警護を引き受けてるあいだは、退屈な講義に出なくて良いんだから、五分五分だろう?」

「それを言われると、何も言えないけどさ。でもっ。――ブシッ!」

 

 テオがムニエルに胡椒をふりはじめたタイミングで、ドミニクが身を乗り出したので、ドミニクは、しばらくクシャミが止まらなくなり、ひとしきりムズムズが収まったころには、何を言い返そうとしたか忘れてしまったのであった。


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