【番外編】「残った二人の話、の続き」※アラン視点
【番外編】「残った二人の話、の続き」※アラン視点
出会いの数だけ別れがあると分かっていても、いざ幸せを手離すのは辛いもの。
*
「僕は遠慮するよ。サラのことを思い出すといけないからね」
「そう。それじゃあ、私一人で行こうかしらねぇ」
「それが良い。――はい、おかわり」
「どうも」
カップを口元に運んだ途端、マリーはフッと口の端に笑みを浮かべた。どうやら、僕の読みは当たったらしい。
そういえば、集団に馴染めないマリーの偏屈さを一番理解してたのは、サラだったな。嬉しいとニヤリとする癖に気付いたのも、サラが先だった。
今ここにサラが居ないことが、かなしくもあり、口惜しくもある。
あぁ、いけない。あの忌まわしい日のことを思い出してしまった……。
*
サラと僕は、鉄格子を挟んで対面していた。僕たち二人の近くには、それぞれ一人ずつ常盤色の上着を着た教団の人間が控えているという状況で。
「指輪を返してあげられたら良かったんだけど、あいにく、取り調べの時に没収されちゃったの」
「そんなことは、どうでも良い。どうして、魔女だと認める書類にサインしてしまったんだ」
僕が、ついつい語気を強く言ってしまうと、サラは、ひと呼吸置いて、ゆっくりと言葉を選びながら語りはじめた。
「あのね、アランさん。彼らのやり方は、私も間違ってると思うわ。でも、もう闘うのに疲れちゃったの。ごめんなさい。クロエのこと、よろしくね」
「サラ……」
「そんな哀しい顔をしないで。私は天国にいくけど、いつか彼らが、自分たちのやり方が間違ってたと認める日が来ると信じてるわ。だから、この場は笑顔でお別れしましょう。ねっ?」
言葉に詰まる僕に、サラは気丈に微笑んで見せた。つられるように、僕も笑おうとしたけれど、きっと不器用に引き攣った顔になっていたことだろう。
間もなく看守から面会時間の終わりを告げられ、僕は監獄を出た。家に戻ると、マリーと二人では居心地が悪かったのか、真っ先にクロエが駆けつけてきた。
「ねぇ、パパ。ママは、いつ帰ってくるの?」
「それは……」
何も知らないクロエに、政治的無関心を利用して教団が幅を利かせるようになったことや、母親が魔女の冤罪をかけられたことなど、とても説明できなかった。だから、こう言うことにした。
「ママは、しばらく、遠くへお出かけすることになったんだ。良い子で待ってたら、早く帰ってくるよ」
「ふぅん。じゃあ、良い子にするね。早く帰ってきてほしいなぁ」
疑うことを知らない真っ直ぐで純真な目に、僕は、いくばくかの罪悪感を覚えた。
*
「……さん。ちょいと、兄さん!」
「ん? あぁ、ゴメン。少し、考え事をしてた。何か用かい?」
「シュガーポットが空だって言ったのよ。どうせ、また昔のことでも思い出したんでしょう?」
「そんなことないよ」
「ウソおっしゃい! 何か誤魔化そうとするとき、兄さんは必ず片手で鼻を押えるんだから」
参ったな。サラに仕草を指摘されてから、癖を直そうとしてたのに、無意識に触ってたのか。
まぁ、いいや。とにかく、忘れないうちに砂糖を足さなければ。




