109「花に託す真意」
ブルーデイジーには「純粋」「幸福」「かわいいあなた」「無邪気」といった花言葉がある。
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聖誕祭に沸き立つ賑やかなパサージュを、ラファエルと執事が歩いている。
その二人の右にも左にも、鮮やかなオレンジ色が際立ち、華やかに着飾った人々や、呼び込みに精を出す人々で、祭りらしい活気と盛り上がりを見せている。
「坊ちゃん。本当に、お渡しになるのですか?」
「そのつもりだ。そのために、歓談時間を短く設定したんだぞ」
「熱心にタイムスケジュールをお尋ねになったのは、こういうことだったのですね。歓談には、ご令嬢の姿も多く見受けられましたが、お心変わりは……」
「くどい。何度も同じことを言わせるな。僕の気持ちは固いんだ」
「はっ、申し訳ございません。坊ちゃんの気持ちは、重々承知しております。しかし、なにぶんにも前例がございませんので……」
「前例に則ってばかりでは、大国との競争に後れを取ってしまうんだ。多少インパクトのあることを起こさねば、理に合わない因習を根絶やしに出来ない」
「その通りですが、そうは申しましても、あまり急進的なことをなさいますと、反発も……」
「えぇい、うるさい! ここまで来て、ゴチャゴチャ言うな。――あぁ、ブティックで聞いたのは、この店だな」
祭りの雰囲気にそぐわない憂え顔で心配する執事に、ラファエルはキツく言い返す。そして、オレンジ色の花束が描かれた看板を見つけ、店の前で立ち止まる。
すると、店の奥から、この花屋の看板娘であるアデリーが登場する。
「いらっしゃいませ! まぁ、かわいらしいお客さまね」
「お世辞なら結構だ。それにしても、オレンジの花ばかりだな」
「あら、本心なのに。他の色をお望みかしら?」
「あぁ。青い花の束が欲しいんだが、置いてあるか?」
「青いお花か。そうねぇ。真ん中が黄色でも構わないなら、青い花びらのお花があるわ。ちょっと待ってて」
アデリーは、店の奥に駆け戻り、ものの数秒でブルーデイジーの花を持ってくる。
「これが、そのお花よ。はっきりしたブルーで、キレイでしょう?」
「そうだな。これを貰おう」
「はぁい。ラッピングも、青い方が良いのかしら?」
「あぁ、そうしてくれ」
「分かったわ。すぐに包んじゃうから、ちょっとだけ待っててね」
そう言い残し、アデリーは再び店の奥へと戻って行った。
「小菊のような花だったな。可憐な彼女に似合いそうだ。そうは思わないか?」
「さようでございますね」
あまりの頑なさに執事が折れると、ラファエルは満足そうに口角を上げて喜んだ。




