105「バカンス気分」
同じ一単位の時間でも、気の合う仲間と一緒だと、あっという間に過ぎてしまうが、気難しい上司と一緒だと、なかなか進まないと感じる。
*
それから三人の時間は、矢のように過ぎていった。
はじめのうち、街中の土産物屋などをひやかし半分で見て回っていたが、通りの向こうに雪原が見えた途端、三人は白銀の世界に目を奪われ、我先にと飛び込んでいった。
「それっ!」
「キャッ! 冷たーい」
「ハハッ。どんなもんだい。――モッフ」
「私が居ることも、お忘れなく」
「エマ、ナイス!」
「よくもやったな~」
スノーマンやユキウサギを作っていたエマとクロエに、木の陰からラファエルが雪玉を投げたことが発端となり、三人は雪原を駆け回りながら、雪合戦を楽しむことにした。
そして、そのまま小一時間が経過しただろうか。
三つ巴の争いが終わる頃には、三人とも雪まみれになり、最後は三人揃って雪原に仰向けになり、大の字で粉雪が舞う天空を見上げる。その表情には、夢中で遊んだ後らしく、心地よい疲れの色が見てとれる。
その中でも、特にラファエルの顔は、日頃の重責から解放されたことで、年相応のあどけなさが伺えるようになっている。
「あぁ、楽しいな。屋敷の庭で、こんなことをしようものなら、始めて数秒で庭師に止められるよ」
「あらあら。お坊ちゃんは、こういう遊びが許されていないのね。――初めての雪は、どうだった、クロエちゃん?」
「すっごく面白かった! オレンジシティーでも、雪が降れば良いのに」
「雪原だけに降ってくれるなら良いけど、屋根や道路の上にも積もるから、冬場は、どこも雪下ろしや雪かきが大変らしい」
「そのようね。私の故郷は南国だけど、北国で生まれ育った彼も、同じようなことを言ってたわ。――他に、やり残してることはある、クロエちゃん?」
「無いわ。やりたかったいことは、みんなやったもの。はぁ。パパやマリーにも見せてあげたかったなぁ」
「そうだな。この風景を残せるように、手軽に持ち運べる写真機があれば良いのにな」
「そうね。写真館で何分もじっとしなくても、一瞬で撮影できる手段があれば便利だわ」
「そうそう。私も、ラファエルとエマと一緒!」
めいめいに率直な感想や意見を述べると、三人は、しばしそのまま大自然の開放感に浸っていたが、やがて誰からともなく立ち上がり、木の枝に掛けていた荷物を肩に掛け、街へと戻って行った。
三人の後ろ姿には、やり切った充足感が漲っていた。退屈な日常を乗り切れるだけの思い出が、三人の胸に刻まれたことだろう。




