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100「七番線南行き」

 生まれた家と育った環境によって、その後の人生は、急行にもなれば、鈍行にもなる。 


  *


「そっか。クロエちゃんは、雪を見たことが無いのね」

「そうよ。オレンジシティーは、高いところじゃないと雪が降らないの。でも、雪のお話は、いっぱい知ってるわよ」

「現実の雪は、絵本の世界とは、ちょっと違うんだけど」

「何が違うの?」

「見れば分かるわ。それで、向こうで雪を見たら、まず何をしたい?」

「スノーマンを作る!」


 トランクを持ったエマと、背中より大きなリュックを背負ったクロエが、ブドウ色に赤いラインが入った客車の横を、仲睦まじく手を繋いで歩いている。

 すると、二人が通り過ぎようとしたドアから、ショルダーバッグを斜に背負ったパスカルが降りてくる。その姿を見て、エマは小さく「しまった」と声をもらす。というのも、今のエマは、変身前の赤毛でそばかすの少女だからだ。


「あれ、エマじゃないか。この冬は帰って来ないって、親父さんから聞いたぞ」

「えぇ、その通りよ。これから、この子の引率でグリーンアイランドへ行くところなの。そういうパスカルは、何しに来たのよ?」

「俺は、出稼ぎだよ。近々、ここのホームの延伸工事をするんだとさ。冬場は嵐が来て漁に出られる日が少ないし、こっちの方が実入りが良いからな。戻ってきたら、教えろよ」

「ここの工事なら、教えなくても気付くでしょう。それじゃあ、私たちは急ぐから」

「おぅ。俺も、早いトコ登録を済ませないと。じゃあ、またな」

 

 ガサガサとバッグを揺らしつつ、パスカルはドタドタと改札へ向かって走り去って行く。エマは、その行方を確かめると、気持ちを切り替え、クロエの手を引いて再び歩き出す。


「ねぇ、エマ。さっきのお兄さんは、誰?」


 クロエが疑問を投げかけると、エマはシンプルに答える。


「幼馴染よ。前に会ったことなかったっけ?」

「うぅん、覚えてないわ。パスカルって言うのね」

「そうよ。でも、覚えなくて良いわ」

「なんで?」

「なんででも、よ。――ほら。ちょうど汽車が着いたところだわ」


 エマが指差す先では、緑色のラインの入った客車を牽いた汽車が、ホームへ入線しているところであった。

 勘の良い読者諸氏なら、お気付きだろう。ここまでに、二つのドラマが交差したことを。

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