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096「マイノリティー」

 長い人生の歩みの中には、時に遠回りを要することもある。


  *


 舞台は再び、訓練学校の寮へと戻る。

 封筒から写真を取り出したドミニクは、それをテオに見せながら苦い顔をして言う。


「この子連れの狼女と、お見合いしろっていうんだ」

「……ん? 話の内容が、僕の理解の範疇を超えてる」


 テオが眉根を寄せると、ドミニクは痺れを切らしたように、やや怒った調子で説明する。


「だからさ。戸籍上は、僕は男だろう? だけど、身体は女だから、普通に結婚したって、子供は産まれないわけ。ここまでは、良いか?」

「あぁ。そこから、どうして子連れの狼女との演壇に繋がるんだ?」

「わっかんないかなぁ。僕と結婚する前に向こうに男の子が居れば、将来的に僕が亡くなったあと、跡継ぎでもめることが無いからだよ。いつかは、こういう日が来ると思ってたけど、こんなに早く相手を見つけてくると思わなかったから、困ってるんだ。どうしよう?」


 テオは、脳が熱で鈍っていながらも、なんとか納得する。


「……なるほど。まぁ、グリーンアイランドの戸籍制度については、横へ置いておくとして。ドミニクは、帰りたくないわけだ」

「そう。何かこう、良いアイデアは無いか? ……テオ?」


 口を閉ざし、これといったリアクションを返さないテオに、ドミニクは、首を傾げながらテオの顔の前で手を振る。すると、テオは鬱陶しそうにドミニクの手を払いのけ、やや息を弾ませながら言う。


「話は聞いたよ。でも、すぐに打開策は思い付かないから、いったん寝かせてくれ。体調が快復してから、十全な頭で考える」

「しょうがない。わかった。なるべく早く治ってくれよ」

「あぁ。これ以上そばにいると、君にもうつるから、談話室にでも行っててくれ」

「了解。また後で来るよ」

 

 そう言って、ドミニクは手紙と写真を封筒に戻して丸イスの上に置くと、ドアを開けて廊下へ向かった。

 タッタッタと足音が遠ざかった後、テオは半身を起こし、ドミニクが置いていった封筒を手に取り、開け口を逆さにして写真を取り出す。


「器量は悪くなさそうだな。さて、どうしたものだろう」


 写真には、青みのある銀色の長い髪をして、彫りの深いエキゾチックな目鼻立ちに、琥珀色をしたアーモンド形の瞳が特徴的な、控え目に言っても美人と称するに値するオオカミ耳の若い女が写っている。

 テオは、しげしげと写真を観察してから封筒に戻すと、布団にもぐって目を閉じた。 

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