表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/42

092「そして冬へと続き」

 冬来たりなば春遠からじ、なんて言うけど、春が来ることを知らないと、冬は長くてツライ季節に感じる。


  *


 常春の楽園にも、短い冬がやってくる。

 木枯らしが吹く中で、パサージュに軒を連ねる店々では、冬季休業を目前に控え、在庫一掃のクリアランスセールが行われている。

 街中が寒さに負けずに活気付いている一方で、テオとドミニクは、というと。


「よぉ、テオ! 体温計を借りてきたぞ~」

「声のボリュームに気を付けろ、ドミニク。頭に響く」


 羽毛布団に包まって横になっているテオは、尻尾を振って上機嫌な様子のドミニクに文句を言った。

 ドミニクは、ヘラヘラと笑いながら上っ面だけの謝意を示しつつ、テオのそばに近寄る。


「起こしちゃったか? ゴメンゴメン。まぁ、どのみち起こすつもりだったから、手間が省けたと思ってくれよ」

「ガサツだな。こっちは病人なんだから、少しは労われ」

「日頃の体調管理は、しっかりしないと駄目だぞ、テオ」

「誰のせいだ。――クシュン!」


 風邪菌と埃のダブルパンチを受け、テオが存外に可愛らしいクシャミをすると、ドミニクは布団をずらし、テオのズボンに手を掛ける。


「はいはい。僕が、クリやブナを拾いに行こうと言ったからですよ。――失礼しまーす」

「待て待て。なんでズボンを脱がせようとするんだ」

「せっかくだから、正確な体温を測ろうと思って」

「何が、せっかくだ。僕は馬じゃない。――貸せ」

 

 テオは、ズレたズボンを上げながら上体を起こすと、ドミニクの手から体温計を奪い取る。そして、パジャマのシャツのボタンを二つほど外し、脇に体温計を挟む。


「五分くらいかかるんだとさ。何か、体温が下がりそうなお寒いジョークでも言ってやろうか?」

「結構だ。苛立ちで、余計に体温が上がる。黙って、そこに座っててくれ」

「はぁい。仰せのままに」


 ドミニクが丸イスに座ったタイミングで、ドアがノックされる。大きな声を出せないテオではなく、ドミニクが返事をする。


「入ってま~す」

「やめろ、ドミニク。ここは、トイレじゃない」

 

 コホンと咳ばらいをしながらテオが小声でツッコミを入れると、ドアが開き、ドミニクとほぼ同じ制服を着た生徒が姿を現す。よく見れば、袖や襟のラインが一本多いので、上級生であることが分かる。


「先輩。何かご用ですか?」

「あぁ、いや、テオじゃない。――手紙だ、ドミニク」

「えっ、僕宛に?」

「そうだ。返事を書くなら、寮官室まで来るように。以上だ」 


 上級生は、起き上がろうとしたテオを制して寝かせると、上着のポケットから一通の封筒を取り出し、ドミニクに手渡す。ドミニクが不思議そうな顔をして受け取ると、上級生は、そそくさと部屋をあとにした。


「誰からだろう? ……ゲッ!」

「コホッ、コホッ。誰からだったんだ、ドミニク」

「ねぇ、テオ。中に災いの種が入ってると分かってる封筒でも、開けなきゃ駄目かな?」

「開けて見なきゃ、本当に災いの種が入ってるか分からないじゃないか。開けてみなよ」

「うぅ。テオに二次災害が及んでも、知らないからな。――えいやっ!」


 片目を瞑って極力差出人のサインを見ないようにしながら、親指の爪で一気に封を切るドミニク。

 これが、望まぬグリーンアイランド行きに繋がろうとは、ドミニクも、そしてテオも、知る由もないのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ