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086「こちらは六歳児を」

「マジクマジカラ、マジクマジカリ、マジマジキ、マジカル、マジケレ~」


 帽子やマントの端をパタパタとはためかせつつ、ワンピース姿でランタンを持ったクロエが、まるでトンボを捕まえるかのように人差し指をクルクル回しつつ、幼年学校のクラスメイトから聞きかじったであろう呪文を唱えると、エマのワンピースのリボンを結んでいるアランに指先を向け、ビシッと決めポーズをとる。


「苦しくないかい、エマくん?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「パパ~。魔法をかけたんだから、何か反応してよ~」


 手を下ろしたクロエは、着付けを終えてカウンターの内側に戻ろうとするアランのシャツの袖を掴み、そのまま左右にブランブランと振って不満をあらわにする。

 アランが眉を下げて困った顔をすると、エマはクロエを両手で脇の下から抱え上げてカウンターチェアに座らせ、自身もその隣の席に座って話しかける。


「変わった呪文ね。何の呪文なの?」

「ウフフ。世界が素敵になる呪文よ。エマにもかけてあげよっか?」


 エマがクロエの質問に答えようとした矢先、店のドアが開いてカウベルが鳴る。ドアの向こうからは、小豆色の制服を着たテオが姿を現す。エマは、カウンターチェアから降りてテオに近付きながら問いかける。


「あぁ、テオさん。いらっしゃい。お仕事中なの?」

「こんにちは、エマさん。ドミニクを見てないかい?」

「いいえ、見てないわ。今日は一緒じゃないのね」

「あぁ。ちょっと、迷子を捜しててね。ここに寄ってないってことは、まだ捜してるんだな」


 テオは、思案顔で顎に指を添えて考え始める。そこへ、アランが一つの提案をする。


「差し支えなければ、その子の名前や特徴を教えてくれないかい? エマくんとクロエは、これから街のあちこちを回るし、僕のところへも、あちこちから子供たちがやってくるだろうから、情報が集まるかもしれない」

「そうね。人手が多い方が、見つかる確率は高まるわ。クロエちゃんも手伝ってくれるかしら?」

「いいわよ! どんな子なの?」


 クロエはカウンターチェアから飛び降り、テオとエマのそばへと駆け寄る。テオは、膝を曲げてクロエと目線の高さを合わせつつ、的確に特徴を伝える。


「事情があって名前は伝えられないんだけど、頭に羊みたいな渦巻き状の角が生えてて、髪はモコモコしたカールヘア。それから、両手に必ず白手袋をはめてるのが特徴だよ」

「羊さんの角と、モコモコの髪と、白い手袋ね。覚えたわ」

「見つけたら、すぐに誰かに知らせるんだよ。――それじゃあ、僕はもう一度駅の方を捜してきますので、よろしくお願いします」

「最近の騎士見習いは、迷子捜しもしなきゃいけないから大変だね。行ってらっしゃい」


 アランが労いの言葉を掛けると、テオは軽く会釈をしてから店をあとにした。

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