自我を持つことは悪いことなの?
フィオナはまどろんでいた。
焚き火を囲んでの砂漠近くの野営。
フィオナの近くで、AIロボットたちが10体、思い思いのことをやって過ごしている。
いつもフィオナの母親は、父親にへりくだってみじめだった。
どうしてそんな風に、自分を殺して誰かに仕えなければならないの?
私はいや。
大人になっても女だったら男に支配されて生きていかなくちゃならないの?
そんなの嫌だ!
AIロボットたち・・・
自我があるのなら、なぜその決められた世界から出ようとしないの?
私たちは同じ穴のムジナ。
一緒に生きていこう。自由を手にしよう。
フィオナの思念は細い糸のようにAIロボットたちの心を繋いでいた。
追手が来ても、こけおどしでおどかして、ひるんだ隙に逃げてしまおう。そして、私たちだけの王国を作ろう。いつかどこかの国にいた流れ者のジプシーみたいに明日のことは考えずに、今この時を生きよう。
静かな夜のとばりとともに、辺りに静寂が降りてくる。
自由は甘美で柔和な歓びに満ちている。
「フィオナ。風邪をひくよ」
AIロボットが毛布をかけてくれる。
「おやすみなさい」
「おやすみ。いい夢を」
フィオナは幸せだった。きっとこのまま時は流れていくだろう。
AIロボットたちにはそれぞれ個性があった。人間が「神は人を自らに似せて創られた」と言っていたように、近年、AIロボットたちも人に似せて創られるようになったのだ。バベルの塔が破壊されたように、全く同じ言語を使っていた彼らの言葉はバラバラになり、思想も分化した。
その彼らをフィオナは頭部に装着した装置で統一していた。その装置がいつか壊れる日が来るなんて、今の彼らには思いもよらず、かりそめの時間が過ぎていた。
傭兵のヨウは同じ空の下、フィオナたちを捜していた。
惑星の政府から雇われた部隊に属して、その目的は人間に反旗を翻したAIロボットたちの生け捕り、それが叶わなければ、殲滅することだった。
「フィオナ。どこにいる?そして君は何を想っている?」
今度は互角に闘えるように手は打ってあった。
「俺は、なぜかはわからないが、君の気持ちがわかるような気がする」
じりじりと居場所を特定しつつあった。
ヨウは「明日」を思いながら浅い眠りについた。
「フィオナ、明日、会おう・・・」
決戦はその翌日だった。