第008話
ギルドマスターの部屋にて、俺達は正座をしている。
「全く!!建物が壊れたらどうするんだ!!しかも、喧嘩を売られたから買っただと!?そういうのは本気でやめろ!!」
部屋に入るなり、俺達はずーっとコンラッドから説教を受けている。冒険者同士のいざこざはあるが、手出し禁止となっているらしく、その場合は外で決着をつけるとか。それに加え、建物にも損害を与えたからコンラッドがブチ切れるのも無理はなかった。
「ふーっ、ふーっ!!……次は無いからな!!」
「…はい。すいませんでした…」
足が完全に痺れた頃、ようやく説教が終わった。建物の修繕費はこれから俺達が稼ぐ金額から天引きするとの事。まさかいきなり借金を負うとは思いもしなかったよ。
「はぁ…。それじゃ、登録しに行くぞ」
落ち着いたコンラッドが俺たちを連れて登録所へと向かう。ちっぽけな小屋の中に入るとコンラッドが説明を始める。
「では、説明するぞ?この石板に名前を言ってから魔力を流すんだ。すると、アクセサリー化したギルド証が出てくる。小さいから無くさないように。以上だ」
小屋の中にポツンと石板が台座の上に乗っかっていた。コンラッドの説明通りにすると、石板が光り空中に指輪が出てきた。
「これ、つけててもいいのか?」
「ああ、大丈夫だ。指輪やネックレス、ピアスなどの装飾品に変わるから付けるのが基本だな」
奇遇にも全員指輪だったのでそのまま装備しておく。チカ達が嬉しそうにしてたのはなんでだろう?
「これで終了だ。無くした場合は1000Gで再発行になるから覚えておけよ?」
「1000『G』?『ゴールド』って言ったよな?」
「ああ、この国では『ゴールド』で金銭取引してるぞ。…それも知らなかったのか?」
「い、いや…。知ってはいたよ?ただ、違ったらどうしようかなーって」
「その時は魔物討伐して稼げ。その他にも護衛や採取の依頼もあるからな。よし、それじゃ戻るぞ」
小屋からギルドへと戻る道中、コンラッドから金銭について話を聞いた。
この国での通貨はGで済ませられる。大量に渡すのは流通に問題があるため、1、10、100、1000、10000の順に錫、鉄、銅、銀、金で分けてある。物販などは小銭が多いと困るのでキリのいい10Gから販売しているらしい。そして、100000となると大判という金の板で取引をするらしい。説明を聞いてる間、コンラッドに怪しい目で見られたが、そういう情報は必須なのだ。
(とりあえず、ゲーム内の金はカンストしてたから両替するだけだな)
大都市に行けば、交換所という硬貨と交換してくれる場所もあるらしい。サガンに近い大都市は北にある『ボレーヌ』にあると教えてもらった。
懐事情が安心出来たので、俺は喜んだ。旅立ちには金が必須だからな。
ギルドに戻ると掲示板の場所を教えて貰い、早速依頼を探す事にした。この世界の文字は奇跡的に日本語だったので読むことは出来た。ランク毎に纏まっているので俺達のランク、Eランクを念入りに見ていた。
(……なんか迷子になったペットを探すとか、薬草を取ってくるとかばっかりだな)
流石に初心者の所に討伐などの依頼は張り出されていなかった。こういう、地道な活躍をして住人から信頼を得ないといけないって事か。
「どうだ?良いのはあったか?」
「…全然。採取とか荷物運びぐらいしか無いですね」
「ハハハ。新人には丁度いいぐらいだからな。まずは住人に顔を売るのが第一歩って事だ」
「そうですよね…。んー……どれにしようかなぁ。チカ達はどれがいい?」
「私達も選んでいいんですか?」
「いいよいいよ。そういうのはみんなで決めたいからさ」
チカ達が掲示板とにらめっこしてる間、コンラッドと話をする。
「…あのさ、昇格の基準ってどうなってんだ?」
「ああ、簡単に言うと『ポイント』だな。低ランクの内はせっせと『功績』を稼ぐ。高ランクになると依頼や討伐が出てきて『実績』ポイントを稼ぐ。そんな感じで昇格していくぞ。最高はSランクだが、ここ200年くらい出てないって話だ。今いる最高位はAAAランクだな」
「どのくらい稼いでるかはどうやって知るんだ?」
「ギルドの受付に聞けばいい。低ランクの内は毎回言ってくれるぞ」
「…ふーん。ありがと」
「まぁ、そんくらいだな。それじゃ、俺は仕事があるから部屋に戻る。何か聞きたい事があったら部屋に来てくれ」
コンラッドが説明を終えると部屋へと戻っていくと、それを待っていたかのようにチカ達が寄ってきた。
「アルス様、私達これがいいです!」
「お?どれどれ?……オアシスでの薬草摘みか。面白そうだな」
「オアシスにしか生えない薬草があるみたいなんです。私、ちょっと興味があって……」
「俺は別にこれでいいけど、ローリィ達はどうなんだ?」
「問題無いよー!オアシスって所に行ってみたいし、それがいい!」
「ボクも。それに地味に報酬が高い」
ナナに指摘された箇所を読むと、確かに他の依頼と比べると高い。しかも、稀少な薬草を見つけると別途報酬が払われるみたいだ。…うん、金はいいとしてレアって所がそそられるな。
「じゃー、これにしとくか。チカ、受付に提出してくれ」
「はいっ!」
受付に提出して来て貰い、受理された事を確認してから俺達はオアシスへ向かう準備をする。受付から詳細を説明されたみたいだが、そこは俺の脳みそよりもチカの方が適任だろうな。…CPUだしね。
準備するとは言っても、装備などは充分だし必要とするのは食料ぐらいか。受付の情報によると、オアシスまで往復2日ぐらいかかるとの事。予備も含めて5日分ぐらい購入しとくか。
「よーし、それじゃ食料買いに行くぞ!」
チカ達と共に昨日見た露店通りに向かうのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「うおー!!すげー賑わってるな!」
俺達は露店通りに到着した。この街で1番大きな市場らしく、至る所に露店が構えている。
「よし、それじゃ5日分の食料買うけど何がいいか?」
「肉ぅー!!」
「美味しい物」
「日持ちする美味しい物がいいですわ」
…うん。もうちょっと絞って欲しいな。美味しい物って言われても味わかんないからなぁ…。
「と、とりあえず全部見て回るか!試食も兼ねて美味しかったら買って行こう!」
それから、俺達は食品を売っている露店を回り始めた。試食はチカ達に任せて、俺は匂いだけを満喫しておく。
「マスター。これ凄く美味しい」
「このタレ凄く美味しい!!」
「お?そうかいそうかい。そう言って貰えると嬉しいねぇ!今ならサービスしとくよ!」
「それなら、コレ10本くれ」
「あいよ!……全部で200Gだ。おまけに2本サービスしとくぜ!」
俺が金を払おうとした時、新発見があった。財布なんて無いが、つい癖でポケットに手を入れゴソゴソしてみると、チャリチャリと小銭の音がした。
(え?どういうこと?)
とりあえず、頭の中で金額を指定して取り出してみると、何と銅貨で出てきたのだ。
(えっ!?こんなの持ってないはず!)
とりあえず支払いを済ませ、別の店へと歩く。その間、実験してみた。
(えーっと…60000Gっと)
ポケットに手を入れながら指定すると、出てきたのは金貨6枚。それを戻して、今度は5000Gと指定すると銀貨5枚出てきた。どうやら自動的に硬貨に変わって出てくるみたいで、この発見は大助かりだった。
この発見を知った事で買い物は加速していく。何せ金は無駄に持ってるし、防具や武器とか買う必要は無い。色々と興味を持った物を手当たり次第購入していく中、とあるお店の商品に目がいった。
「すいませーん!コレ、なんですか??」
「はい、これは『収納袋』と言いまして、中には拡張魔法かかけてある魔道具となっております。冒険者の必需品とも言われるアイテムですよ」
「へぇー。どんくらい入るんですか?」
「1番小さいものですと30品。1番大きいもので200品以上となっております。…ですが、やはり大きければ大きいほど値段は高くなりますね」
(ボックスあるから必要無いと思うけど、これから何があるかわからないからな。…とりあえず1番大きいの買っとこう)
「それじゃ、この1番大きいヤツ下さい」
「毎度!……ですが50000Gしますよ?大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。…はい、金貨5枚です」
「ありがとうございます!今後ともご贔屓に!!」
買った袋に購入品を入れていく。そこそこの品物を買ったのだが、袋の大きさは全く変わらない。その事に少し感動しながらまた買い物へと足を進めるのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「よーし、買い物も終わったし、そろそろ行くか!」
目に見える範囲の露店は全て周り、殆ど購入した。お陰で観光客だとか金持ちだとか噂されていた。…まぁ、どっちもなんですけどね。
外に出るため昨日通った門に向かう。すると知っている顔を見つけた。
「あれ?アルスさん?どこかお出かけですか?」
「おいーす、フィン。今から依頼でオアシスに行くんだ」
「ああ、登録したんですね。ということは初めての依頼ですね」
「ああ、めっちゃ楽しみだよ!今日は門番なのか?」
「ええ、昨日ので欠員が出たので…」
「あー……すまん」
「いえいえ、もう終わった事ですから。…そうそう、オアシスって言ってましたけどここから行くんですか?」
「ここからって?ここにしか『正門』は無いだろ?」
「あー……。アルスさん、ここ『裏門』なんですよ。『正門』は北にあるんです…」
な、なんだって!?門は2つもあるの???
「え…?そうなの?………知らなかった」
「…まぁ、遠回りになりますがここからでもオアシスには着きますよ。『正門』から出た方が早いですけどね」
「……正門ってどこにあるの?」
「ここから真っ直ぐ進めば正門に着きますよ。……アルスさん、ちょっと頼まれてくれませんか?」
「ん?正門に行くついでならいいよ?」
「ありがとうございます。実はコレを正門の兵士に渡して欲しいんです。『例の物』って言えば伝わりますので」
「?? わかんねーけど、わかった!渡しとくよ」
フィンから物を預かり、俺達は『正門』へ足を進めるのであった。