第005話
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サガンの街、冒険者組合にあるギルドマスターの部屋にて2人の男達がソファーに座っている。
「コンラッド、ギルドの運営は順調かね?」
「ああ、魔物が外には沢山いるから金銭的には順調だね」
「…ふん。やはり少なくなっているのか」
「…元より少ないんだ。これ以上は減りようが無いさ」
コンラッドと呼ばれた男が肩をすくめながら答える。
「辺境伯様にお願いしておこう。なに、すぐに募集がかかるさ」
「…だといいがな。それよりも兵士を何人か分けてくれないか?カーバイン」
カーバインと呼ばれた男が鼻で笑う。
「何度も言っているだろう。『冒険者になりたい奴がいれば喜んで差し出す』とな」
「未だに1人も差し出されていないがな」
「そうだとも。新米ならいざ知らず、熟練の兵士などを差し出す訳にはいかないだろう」
「はぁー…。せめてAランクがあと3人は居ないと、襲撃があった場合民を守れないぞ」
「俺の所もだ。あと3人、手練れが欲しい。……どこも人手不足だな」
2人揃って大きな溜息をついていると、ドアを3回ノックする音が聞こえる。ノックを3回するというのは、この街での『緊急』を意味する。
「入れ」
コンラッドが許可を出すと、カーバインの部下が慌てて入ってくる。
「失礼します!門番より報告が!『1-1』とのこと!」
「なにっ!?して、数は?」
「はっ、4とのことです!」
数を聞いたカーバインの顔が険しいものへと変化する。兵士の言った『1-1』とは『魔人襲来、強敵』の隠語である。
「コンラッド、オレは門に行く。もしもの場合はよろしく頼む」
「--わかった」
コンラッドの返事を聞いたカーバインは先に部屋から出ていく。その後ろ姿を見送りながら、コンラッドはボソリと呟く。
「ったく。本当にタイミング悪いな…」
ガシガシと頭をかくと、コンラッドも急いで部屋から出ていくのであった。
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拝啓、お父様お母様。いかがお過ごしでしょうか?僕は見知らぬ土地の牢屋でこの手紙を書いております。一体何が起きたんでしょうか?……はい、兵士を殴っちゃいました。ローリィがですが…。
門での一悶着の後、俺達は捕まえられ牢屋へとぶち込まれた。捕まえられる際、何発か殴られたが、それを見たチカ達を抑える方が大変だった。何せアイツら本気でキレてたからな。チカとナナに至っては殲滅魔法使おうとするし…。俺の命令を聞いてくれたようで大人しく捕まってくれたが、あの目は本当にヤバい。手縄かける兵士が震えてたもんな。
そんなこんなで、牢屋に大人しく入った俺はじっくりと今までの事を思い返していた。
まず、『忠誠心』について。これは文字通り、チカ達は俺に忠義を尽くしている。俺に危害、もしくは敵意を与えるだけで、敵と認識するみたいだ。実際、あの門番は俺に剣を向けようとしたからな。これは間違いない。後で、設定変更しておこう。
そして、『能力』についてだ。俺達はジョブとステータスはカンストしている。ナナが他のジョブを使用したように、変更できるみたいだ。ということは、俺も他のジョブを使える可能性がある。これはここから出た後にでも確認すればいい。……無事に出れたらの話だけど。
1時間ほど他の事も考えていると、入り口のドアが開く音が聞こえた。そして、ーーカツン、--カツンと歩く音が近づき俺の入っている牢屋の前で止まった。
「おい、お前。名は何という?」
「え…?アルスですけど…」
「そうか」
立派な顎鬚を蓄えたダンディなおっさんがいきなり話しかけてきた。
「まずはお前たちに伝えなければならないことがある」
「…はい。何でしょうか…」
「先程の門での騒動の事だ。被害は重傷者1名、軽傷者3名。よって、罰金ならびに、この街より追放となる」
…ですよねー。そんな感じはしてたよ。死刑とかじゃなくてよかったけどさ。
「……だが、ある人物から報告を受けてな。それが正しいかどうか確認したいのだが」
何のこと言ってんだ?ある人物?顔見知りとか居ないんだけど?
「…はぁ。別にいいですけど…」
「おい、こっちに来い!」
おっさんが誰かを呼ぶ。その誰かの顔を見た瞬間、思い出した。
「あれ…?お前、砂漠であった兵士じゃん」
そう。その誰かとは、俺が助けた兵士だった。
「あ、叔父さん、この人です!僕たちを救ってくれたのは!」
「…ふむ。間違いはないんだな?」
「はい、漆黒の鎧を纏った方ですので…。あと、仲間だと思う女性3人組がいたはずですが…」
「3人組?…ああ、チカ達なら隣の牢屋にいるよ」
「………この人達で間違いないです!僕以外の兵士にも確認してもらっても構いません!」
「ふむふむ。そこまで言い切るのであれば真実なのであろう。……おい、アルスといったな?」
「ええ、そうですが…」
「兵士団を救ってくれた事感謝する。それにより、お前達の先の騒動は不問とする!」
「え、は??ちょっと待って!!……いいんですか?そんな簡単に決めちゃって?俺達からすれば助かるからいいんですけど…」
「良い。先の騒動と比べ、兵士団を救ってくれた事の方が功績としては大きい。…まぁ、お前達が怪しいのは変わらないが、その分も含めて不問という事だ」
なんだか勝手に話が進んでいるようだけど、とりあえず俺達は助かったみたいだ。チカが助けるって言わなければ、助からなかっただろうな。……問題起こしたのもチカ達だけど!!
おっさんが見張りから鍵を貰うと、俺とチカ達を牢屋から出してくれた。牢屋から出るとチカ達がすぐ寄ってきた。
「ご主人様ぁー!離れて寂しかったよー!」
「ボクも寂しかった」
「私も。こんなに離れたのは初めてですわ」
(あー…ゲームの中では離れた事無かったもんな)
とりあえず全員の頭を撫でてやると、嬉しそうに微笑んでいた。和やかな雰囲気の中、咳払いが聞こえた。
「…あー、すまない。…アルス殿少しいいか?」
「はい。なんでしょう?」
おっさんが俺を呼ぶと、いきなり手をガシッと握られた。
「フィンを救ってくれた事を感謝する。本当に……本当に感謝する!」
おっさんに手を握られながら感謝される。
「あ…別に気にしないでください。当たり前の事ですから」
俺が助けようと言っていないけどね。そこはほら、都合良く言っとかないとね?
「甥っ子の命の恩人に何か礼をさせてくれ!」
「えぇ…?礼って言われても、本当に気にしなくていいですって!」
「いや、それではオレの気持ちが収まらん!」
(あいやー、この人体育会系だ!!これは断るの相当難しいぞ!)
何か良い案は無いかと考えていると、横にいた兵士、フィンが助け船を出してくれた。
「…叔父さん、さっき他の兵士から聞いたけど、アルスさん達は身分証が無くて捕まったんでしょう?それなら、この街での身分証を発行してあげたら?」
それだ!!そもそも、身分証が無いからこんな事になったんだよ!これは貰えるパターンか!?
「う、む。…身分証か。残念ながらこの街で生まれた者にしか身分証は与えられんのだよ…」
んだよっ!!期待して損したわ!!………ん?身分証以外はどうなんだ?
「あのー…。ギルド証とかは貰えないんでしょうか?俺達、本当に何にも持っていなくて…」
「ああ、ギルド証ならすぐ発行出来るぞ?ただ、登録が必要だがな」
「あ、じゃあそれで」
「そんなんでいいのか?…わかった、少し待て。書状を作ってくる」
おっさんが見張り部屋へと走っていく。そんなのっていうけど、俺達にとっては必要な物だからな!!!
おっさんが書状を書いている間、フィンが俺達に話しかけてきた。
「あの、アルスさん。先程は助けていただきありがとうございます!」
「いいよいいよ。君のお陰で俺達も助かったし、こちらこそありがとうね」
「い、いえ!命の恩人なんですから、礼など言わないでください。本当は僕も何かお礼をしたいんですが…」
「えー?もうお礼はいらないんだけどなぁ…」
何か良い案が無いかと考えていると脳裏に閃くものがあった。
「……そうだ!不問って事なら自由に街を散策してもいいって事だよな?」
「え、ええ。大丈夫だとは思いますが…」
「ならさ、街を案内してくれないか?何がどこにあるとか教えて欲しいんだ」
「そんな事でいいなら構いませんが…」
「それでいいよ!俺達、初めてだからさ。色々と知っておきたいんだ」
「……わかりました。なら、ギルド登録が終わったら案内しますね」
「うん、よろしく!…ってか、一緒に行こうよ。場所わかんねーからさ」
「ははは、それもそうですね!」
フィンと少しだけ仲良くなった気がする。ついでにチカ達を紹介しているとおっさんが帰ってきた。
「遅くなったな。アルス殿、これをギルドマスターに渡してくれ」
書状を貰いながら念の為、確認しとく。
「あ、はい。あのー……俺達は釈放って事でいいんですよね?」
「ああ、そうだ。問題を起こさなければ自由にしていいぞ。だが、宿屋に泊まる場合は身分証が必要だからな。先にギルド証を作っていた方がいいぞ」
「わかりました!…よし、フィン。道案内よろしく!」
「はい!任せてください!」
俺達はフィンを連れて監獄を出て行く。外に出るとお天道様が気持ち良く感じる。あの牢屋ジメジメしてたし、蜘蛛とかいたからな!不衛生すぎるわ!!
「それじゃ、ギルドに向かいましょう。一応、皆さんは身分証を持っていないので、僕から離れないようにしてくださいね」
「はーい!」
「わかった」
「わかりましたわ」
チカ達の返事を聞き、フィンは俺達を連れてギルドへと進んでいく。初めて見るファンタジーのような光景に胸が踊るが、後で詳しく案内して貰うため我慢する。歩く事10分、俺達は目的の場所『冒険者ギルド』に到着したのであった。