第004話
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急いで救援に行くが、あいにく砂地。強く蹴れば滑ってしまう為、速度が全然出ない。チカ達は平然と走れているから影響は無いんだろう。
「くそっ!!間に合わねぇ!!…お前らは先に行って、怪我人の救護に当たれ!」
俺の命令に素直にチカ達は従い、瞬時に魔物へと飛んで行く。……飛んでいく?そうだよ!走れないなら飛べばいいじゃん!
足に力を入れてジャンプしてみると、思った以上に跳躍した。それを応用しながら、急いで魔物の元へと向かった。
「う、うぎゃああああああああああ!!」
近づいてみてハッキリわかった。あの魔物はすんげーでかい蜘蛛だ。俺の1番嫌いな昆虫、Gよりも嫌いなんだよ!そんなのが何匹もいて、兵士達を襲っている。
…って、ヤバい!アイツ狙われてんじゃん!
最後の跳躍をし、剣で攻撃を防ぐと、金属音が鳴り響く。
「大丈夫か!?」
チラリと後ろを伺うと、言葉が出ないのか頷いている。
「怪我とかは無さそうだな。…ま、安心しろ」
チカ達がどんどん倒して行ってるみたいだし、戦力的には余裕っぽいな。とりあえず、俺の攻撃が通用するか試してみよう。
「…『縮地』」
戦士系統の特技を使い、蜘蛛の真下へ移動する。魔法とは違い、MPを消費しない技だ。
(うきょおおおおおおお!!キモいキモいキモい!!!)
真下に移動したのはいいが、相手は俺の大っ嫌いな蜘蛛。足の付け根部分とかめっちゃキモい。……虫の裏側って大体気持ち悪いよね。
とまぁ、キモがってる場合でもないのでさっさと駆除する事にする。殺虫剤とかあれば最高なのに…。効くかわからんけど。
「くらえっ!『衝霊斬』!!」
剣--勿論、課金武器--で胴体を狙って無属性のスキルを使用する、青白い斬撃が命中すると、蜘蛛が悲鳴をあげる。わちゃわちゃと足が動き、緑色の液体を撒き散らす。
「いやああああああああああ!!気持ちワリィィィ!!」
絶叫しながらも攻撃が効いたのを確認し、すぐに頭と胴体の付け根を狙ってスキルを使用する。悲鳴が止まり、足の動きが一層激しくなるが、ピタリと止まると静かに地面へと落ちてくる。
(うおっ!潰される!!嫌だ、それだけは絶対嫌だ!!)
その場から大急ぎで離れる。ギリギリ間に合ったので蜘蛛に押し潰されるという大惨事には至らなかった。
「……あー、まじ気持ち悪かった…。二度とこんなのはゴメンだ」
近くにいたナナに焼き払っといてとお願いし、先ほどの場所へ戻る。
「案外楽勝だったな。…いや、これが雑魚ってこともありうるな」
先ほどの戦闘を思い返しながら、自分の力を確認する。そこそこ上級のスキル使用したから、相手の強さがわからねーんだよな。中級ぐらいのスキル使用すればよかった。
辺りを見渡すと、兵士達が血まみれで倒れている。無事なのはコイツぐらいか。
「しっかし、殆どやられてんなー。チカー、全体回復をかけてやってくれ」
大声でチカに呼びかけると、すぐさま回復のエフェクトが兵士達を包んでいく。全員にかかってるみたいだから、致命傷止まりだったみたいだ。
「…誰も死んではないみたいだな。いやー、よかったよかった」
胸を撫で下ろしながら、死人がいない事に安堵する。出会ってすぐ死人とか嫌だもんなー。…知らない人でもね。
大蜘蛛を退治し終わったチカ達が俺の所に集まってきた。汚れてすらいないみたいだし、どうやら余裕だったみたいだ。
その時、目の前にいる兵士がおずおずと話しかけてきた。
「た、助けていただいてありがとうございます。…そ、それで、あなた達は一体…?」
兵士の言葉になんて返せばいいのかわからない。あれか?ゲームのキャラですとか言ってみればいいのか?……うん、俺でも何言ってんだコイツってなるわ。
1人で変な事考えていたら、ナナが代わりに答えていた。
「ボク達はマスターと共に旅をしている。あなた達を助けたのはマスターの指示だから」
「それとー、あっちに壁みたいなのが見えたんだけど、何か知ってる?」
ローリィの質問に兵士は慌てて答えてくれた。…すげー目が泳いでんだけどどうしたんだ?
「え、あ?あっち??あっちがよくわからないですが、…近くにあるのは『サガン』の街しかありませんよ?」
「なに!?近くに街があるのか?」
「え、ええ。ここから北にまっすぐ5kmほど進むと街があります。僕…、私達はそこの兵士なのです」
「めっちゃ遠いなぁ。……まぁ、街があるって分かっただけでもラッキーだな。…よし、みんなそのサガンって街に行くぞ!」
有益な情報を貰った俺は、チカ達と街へと急いで行く。とりあえず、兵士達は回復してるし大丈夫だろ。それに、なんか兵士が言いたそうにこっち見てるから、さっさとこの場から立ち去ろう。これ以上面倒ごとに巻き込まれたくは無い!
「えっ、あ、ちょっと!!………行っちゃった…」
なんか聞こえたけど、振り返る事なく俺達は街目指して進むのであった。
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オレはサガンの街の兵士、ドーンだ。今日は門番の仕事をしている。
このサガンの街は辺境の地に存在している。海を挟んだ向こうには人類の敵、魔王が統べる『魔王国』がある。お陰様で、魔物がよく攻めて来るし、目の前の砂漠にはうじゃうじゃいる。そして、『魔王国』からごく稀に人間に化けた魔人が街へ入ろうとする。そういう奴らを撃退するのがオレ達の役目だ。
ちなみにだが、オレが守っているのは『裏門』であり、『正門』は真逆の場所にある。普通は正門から入るので、裏門から入るのは大体敵だ。冒険者が出入りすることはあるが、顔を覚えているし、身分証を持っているので話す前に掲示してくる。そんな事がわからないなんて、魔人ってのはバカだよなぁ。
そんな事を考えていると、砂漠地帯から4つの人影が見える。近づいてくるとそいつらの装備品が見えた。……見たことの無い装備をしているな。怪しいと思ったオレは隣にいた同僚に、応援を呼んで来るように伝え、オレはヤツらが来るまで待っているのだった。
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ようやく街の外観が分かるぐらいまで近づいた。高い塀に囲まれ、いかにも武装してますよって感じの街だな。
ご機嫌な足取りで門と着いた俺達を迎えたのは偏屈そうな顔をした兵士だった。
「…ここはサガンの街。貴様らは何者だ?」
「えーっと………俺達は…その…」
やべぇ、なんて言えばいいんだ?名前言えばいいのか?それとも、素直に『迷子なんです!』って言ってみるか?
非常に悩んでいると、兵士が続けて質問してきた。
「…その身なりからすると冒険者か?」
冒険者?そんなのがあるのか!それなら冒険者って事にしておこう。
「え、はい!お、僕達は冒険者です!」
「それならば身分証を提示したまえ。冒険者なら持っているだろう」
はあああああ!?身分証?んなもん持ってねーよ!!
「み、身分証??…えへへ、すいません、どっか落としたみたいで持ってないんです…」
「…ほほぉ?それでは『ギルド証』は持っているだろう。それを見せたまえ」
ギルド証?……ああ、そういえばそんなアイテム持ってた気がする。
「ああ、ギルド証ですね。ちょっと待ってください」
ギルド証と呟くと、手にアイテムが出てくる。かなり昔、ゲームで所属していたギルドの紋章だが、これで合ってるはず。
「あったあった。…はい、これです!」
兵士にそれを見せると鼻で笑われた。
「ふん。…では貴様らはどこからやってきた?」
「え?…ああ、僕達はあっちにある森からやって来ました」
「ハハハハハッ!ボロを出したな?あそこの森は『魔の森』。そんなところから来るヤツなど居ないわ!」
兵士が腰の剣に手をかけると、俺達を睨みつける。
「随分と上手に化けてるようだが、ツメが甘かったな。…貴様らは魔人だろう?」
……え?何この人。1人で盛り上がってるんだけど…。あのドヤ顔ムカつくなぁ!
「え?魔人ってなんですか?僕達は人間ですよ?」
「まだ騙せると思っているのか?…やはり貴様らはバカだな」
あ゛あ゛ん?バカって言ったかコイツ?初対面の人にバカとか普通言わねーだろ!
「騙すだなんて…。俺達は本当に人間っすよ?」
「ええい!もう茶番は終わりだ!化けの皮剥いでや
兵士は俺に向けて剣を抜くつもりだった。……だったって言うのは、剣を抜き終わる前にローリィが兵士をぶん殴ったからだ。
激しい音と共に壁に兵士がめり込んでいるのが見える。何が起きたか全く見当がつきませんが、これだけは言える。……アイツきっと死んだな。
「ロ、ローリィ…。何してんだ!!」
「ご主人様に剣を向けようとしたから殴ったの!」
「えぇぇ……………」
「ローリィが正しい。マスターに剣を向けるなど言語道断」
「ローリィが手を出さなかったら、殲滅魔法打ち込んでましたのに」
…ヤバい、コイツら目がすわってやがる。完全に殺す気だ。
「別にここまでしなくても…」
「無理。マスターに危害を加える奴は全て敵」
「そうね。アルス様に剣を向けるなど死刑に値するわ」
「えへへー!ご主人様ぁー、褒めて褒めてー!」
何をしていいかわからないけど、とりあえずローリィの頭を撫でておいた。嬉しそうなローリィを羨ましそうにナナ達が見つめている。動揺していた俺は、何故かチカ達も撫でることにした。
「あー、うん…。偉いぞー。ありがとなー」
(まぁ、殴ったことは置いといて…。って、あれ?コイツ殴ったのヤバいんじゃね?)
事態が不味いことに気づいた時には既に遅し。門の向こうから大量の兵士がなだれ込んで来た。
「て、敵襲ー!!全員戦闘態勢に移れー!!」
「ち、違います!俺らは敵なんかじゃないです!!」
「うるさいっ!!よくもドーンを!!」
「え?はっ?…これ俺じゃなーーあいたッ!!」
「ご主人様に手を出すなー!!!」
「敵。即座に排除」
「--『死の鎮魂
「待て待て待て待て!!攻撃すんなお前ら!!チカ、それ使おうとすんな!!!」
「ッ!コイツら強いぞ!…魔人だ!!総長を呼べ!!」
「ああああああああ!!!だから違うってええええええ!!!!」
かくして、俺の魂の叫びは、あの綺麗な青空へと響きわたるのであった。