第040話
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「ゴードン、遅くなった!すまん!」
「良いってことよ。オレらも今来た所だからな」
不安がるレインに手こずった--という表現はおかしいが、レインが怖がっていた為着くのが少し遅れた。今は楽しそうにチカと一緒に馬に乗っているので機嫌は良くなったみたいだ。
ゴードンと話をしようとしたら、横にいた人が話しかけて来た。
「君が噂のアルス君かい?初めまして、ワタシはゴードンの妻、ネルファシスタだ。ネルって呼んでネ」
「はぁっ!?つつ、妻ぁ!?」
「あん?言ってなかったか?」
「全く言ってねーよ…。てか、夫婦で冒険者なんだ…」
「オレたちはずーっと一緒にパーティを組んで来たんだ。んで、途中でコイツがオレに告白してきてよ、そのままパーティ抜けてコンビで活動してんだ」
「は?ワタシが告白した、だっテ?」
「…オレからでした。スミマセン」
「…ったく。ま、以来ずーっとゴードンと一緒にいるのさ。夫婦ってのは珍しいけど、ワタシ達は腕は確かだからね。……相性も良いしネ」
「相性……。そういや、ゴードンはその武器を振り回すんだよな?バトルアックスか?」
「ああ、ガンテツお手製の一品さ。刃の部分には希少金属をぶち込んでるから斬れ味は申し分ないぜ」
「それで…ネルさんは魔導師で弓矢も使うんだな」
「……へぇ?よくわかったね?わざと武器は出してなかったのに…。なんでだイ?」
……『鑑定』を使ったからとしか言えないなぁ。新しいジョブを見つける為にコロコロ変えてただけだし…。
「…俺のスキルに『鑑定』てのがあるんだ。その名の通り人を見ただけで分かるんだよ。…まぁ、全部が全部分かるって事は無いと思うけどね」
「ふーん……。冒険者にしては珍しいモノ持ってるじゃ無いか。ま、何に役立つか分からんけどネ」
「そうだなぁ…。弱点とか分かれば楽なんだろうけど」
…分かるけどね?何せカンストしてるんで。
「そんな風にスキルが成長してくれればいいけどなぁ…」
「まー冒険者をしていったら上がるだろうよ。……にしても…一体なんだい?この馬達はよ?」
ゴードン達は俺達が連れている馬を見ながら感嘆の声を上げる。
「ブランさんの所で買った馬だよ。どれもこれも一級品らしいぜ?」
「そりゃあ…見たら分かるんだけどよ…。アルス、お前さんの馬はちーっと毛並みが違うんじゃねーか?」
「あー…なんか結構気性が荒いらしい。けど、チカが言うには俺の言う事はしっかりと聞くみたいだぜ?」
「チカ……ああ、エルフの嬢ちゃんか。エルフなら馬の言葉が分かって当たり前だもんな。…しっかし、すげえでかいなぁ。乗れんのか?」
「…自信は無い。けど、言う事聞いてくれるみたいだしお願いするよ」
「ははっ。それが1番かもな!…よし、それじゃイイ村に向かうぞ」
馬へ騎乗し、ゴードン達の後をついて行く。ゆっくりと進んでくれるのでその間、ゼロに上手く乗れるように訓練したのであった。
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「おーし、ここら辺で休憩するぞー!」
3時間ほどゼロに乗りながら扱いを覚えていった。たまーにゼロが『ヤレヤレだぜ』みたいな顔をしながら、俺の言う事を聞いてくれた。『聞いてくれた』ってのは言葉のあやではなくて、普通に喋りかけると鳴いて返事をしてくれた。おかげさまで、今は駆け足程度なら乗りこなせるようになった。
「はぁーい。ゼロ、水飲むか?」
「ヒヒンッ」
俺達は街道を通らず、直線的にイイ村へと向かっている。あいも変わらず砂漠ではあるが、サガンと比べて緑は豊富に見える。
「ちーっと進み具合が遅くてな、この休憩が終わったら飛ばすけど…大丈夫か?」
「大丈夫だ。またゼロにお願いするから」
「なら大丈夫だな。……しかし、もしかしたら今夜は野営になるかもしれんな」
「…すまん。俺が足を引っ張ってるよな…」
「安心しなよアルス君。ゴードンはそういう意味で言った訳じゃ無いのよ?街道を外れて走っているから宿場町には泊まれないって事なの。夕方にでも近くの宿場町に向かっても良いんだけど、イイ村と反対方向なのよネ…」
「そう言って貰えると助かるよ…。なら、俺がテントを貸すよ。寝心地は良いと思うよ?」
「ばぁーか。オレらはベテランだぜ?野営は慣れてんだよ!…ただ、食料をあんまり持って来てなくてよぉ。どーすっかなーって思ってな」
「収納袋に入れても良かったんだけど、アレじゃ冷めちゃうからね。携帯食料しか持って来てないのヨ」
「食料なら俺達沢山持って来てるよ。それに、魔物の肉で良いなら料理も出来るし」
「…そりゃあ本当かい?ワタシ的には大助かりだけど、良いのかイ?」
「俺は構わないよ。…おーい、ナナ!今日の夜ご飯一緒に作るの手伝ってくれるかー?」
レインと仲良く遊んでいるナナに声をかけると、颯爽と走ってこちらへと来る。
「喜んで手伝う。材料はどこ?」
「今じゃねーよ。今日の夜だ、夜」
「夜か。なら、食材を狩って進まなければ」
「…食べれそうなのにしといてね?昆虫系はNGで」
「任せて。…マスター、レインがお菓子を食べたいと言っているが渡しても良いか?」
「良いよ。ただし、沢山はあげるなよ?トイレとか困るからな」
俺の返事を聞いたナナは収納袋を受け取り、レイン達の元へと戻って行く。収納袋に入っていた服は俺のボックスにぶち込み、中は殆どが食べ物になっている。……大半はお菓子なんですけどね。
「…おっどろいた。アルス君、君は本当に何者なんだい?馬といい、あの収納袋といい…どれも最上級品じゃないカ?」
「あー…貯金が趣味だからさ。まぁ、馬買って全部無くなったけど」
「貯金が趣味だって!?…どこぞのダメ亭主に聞かせてやりたいヨ、その言葉」
「…アルス、金は使う為にあるんだぞ?…よし!今度大人のお店に俺が--いでっ!!!」
「馬鹿な事言ってんじゃないヨ!!ったく…」
その後もゴードン夫妻と色々な話をした。途中、チカ達も混ざりあっという間に休憩時間が過ぎた。
「さぁて、そろそろ出発するか。陽が沈むまでは延々と走るつもりだが、なんかあったら声をかけてくれ」
「わかった。頑張ってついて行くよ。……っとその前に」
手をかざし、馬と俺達に魔法をかける。先程、ゴードンから聞いたのだが、地中に潜ってる魔物もいるらしいので防御魔法をかけておく。
「よし、これで大丈夫だろ」
「??今なにしたんだ?」
「ああ、馬と俺達全員に防御魔法をかけたんだよ。地中に潜ってる魔物がいるって聞いたから念のためにね」
「お前魔法も使えるのか…」
「?使えないと困るじゃねーか。…ああ、効果はバッチリだからそこは安心してくれ」
「……ほんと何者なんだイ?」
「冒険者だよ。ただのCランクのね」
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「そろそろ陽が沈むから、ここいらで野営するぞー!」
走り続ける事5時間弱。辺りは赤黒く染まり始め、月が見えてきた。ちょくちょく馬を休ませながら進んだのだが、ゴードンの計画通りイイ村の近くまでは来ているようだ。
「チカ、結界をよろしく。ナナ、索敵ついでに100m範囲に魔物がいたら狩って来てくれ。…ローリィはレインと待機な」
「任せてください!」
「了解」
「はぁーい!」
馬から降り、野営の準備に入る。俺は全員の馬に水と餌をあげる為準備に勤しむ。ゼロ達は草が生えている所に固まって寝そべっている。
「…お兄ちゃん、僕も手伝いたい」
「んー?なら、この野菜をゼロ達に持っていってくれ。俺は水を用意するから」
レインはローリィと一緒に餌箱を持ち、ゼロの元へと向かう。一生懸命に運ぶ姿にはほっこりしてしまう。
「すまんな、アルス。オレ達の馬も世話してもらってよ」
「気にすんな。食料は大量に持って来てるしついでだよ」
「しっかし今日は何回驚かされるのかしら?まさかアルス君が『空間魔法』の使い手だっただなんテ…」
「…秘密にしといてくれよ?ガンテツさんの知り合いだから話したけどさ」
「勿論さ。…しかし、なんて言うか規格外だよなぁ、アルスって」
「褒めてんのかわかんねーよそれ」
ゼロ達に食料を渡し終え、近くで焚き火の準備をする。ちょうどその時、仕事を終えたチカ達が帰ってきた。
「戻りましたわ」
「ただいまマスター。近くに狼が居たから4匹ほど狩って来た」
「お疲れさん。それはもう血抜き終わらしてる?」
「勿論。あとは調理するだけ」
「流石だナナ。んじゃ、ちゃっちゃと作りましょうかねぇ」
ジョブを切り替えて装備も変更する。…ま、BBQにするだけだから必要無いんだけどね。
調味料を振り、ちゃっちゃと下ごしらえしていく。皮の部分は必要無いのでそこら辺に後で埋めようと思う。
「ナナ、そっちは終わった?」
「終わった。あとは串に刺すだけ」
「んー、後はスープとかも欲しいよな…。よし、作るか!」
レシピを探すと『オニオンスープ』が表示されていた。よぉし、テンション上がってきたぞ!俺はやるぞおおおおお!!
「はい、それではですね。今日はゴードン夫妻も居るので『アルスの瞬間お料理教室』を開催したいと思いまーす!今日の先生は、ボクっ娘のナナ先生に来ていただきましたー!」
「「「「……………」」」」」
…うん。わかってたよ。分かってたけど、そんな目で俺を見ないでくれ。
「えー……それじゃースープ作りまーす。……はぁい、完成!後は煮込むだけですねー」
何か不審なモノを見るような目に耐えながら、調理を済ませる。そのまま焚き火の上に吊るし、沸騰させる。
「…マスター、今のは……?」
「何でもない…。忘れてくれ」
俺の豹変ぶりに引いていたチカ達であったが、肉が焼ける良い匂いがすると忘れてくれたようだ。
「…いやぁー、野営でこんな美味しそうなものを食べれるなんて想像してなかったぜ」
「ほんとほんと。しかもスープまで飲めるとか、アルス君様様だネ」
肉が焼けたベストな状態をゴードン夫妻に渡す。すぐさま肉へとかぶりつくと幸せそうな笑みを浮かべる。
「さ、俺達も食べようぜ?」
「「「いっただっきまーす!!!」」」
食事中、チカ達はゴードン夫妻に色々と話を聞いていた。何故だか知らないが、馴れ初め話を聞いたり、どう告白したのかを質問していた。恥ずかしそうにそっぽを向くゴードンに代わり、ネルさんが答えていった。
その場から逃げるように俺の所に来たゴードンは、見張りについて話をし始めた。チカの魔法で見張りが必要無いということを伝えると、半信半疑であったが信じてくれた。まぁ、3時間に1回は見張りを交代するみたいだけど。
お菓子を食べながら談笑を続けていると、レインがウトウトし始めた。それに合わせ、テントを2つ取り出しレインを寝かせる事にした。もう1つはゴードン夫妻用だ。
最初は俺が見張りをすると伝え、皆には休んで貰うことにした。必ず起こせと釘をさされたが、気が向いたら起こそうと思う。
俺以外がテントに入っていくのを見届けた後、焚き火の前で考え事をしながらその日は終わるのであった。