第001話
(あーあ…。轢かれて死ぬとか俺の人生あっけなーなー。まぁ…このまま生きていても将来性は無かったしこれはこれで良かったんだろうなぁ)
真っ暗な意識の中、拓也は独り言を呟く。誰にも聞かれることもなく言葉は暗闇へと溶けていく。
(次生まれ変わるとしたらどっかの金持ちの所がいいな。そこでハーレム作って一生遊んで暮らしたい)
来世に期待しながら拓也は真っ暗な世界へと溶け込んでいくのであった。
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「…………様!…………し様!………ください!」
誰かが遠くで声をかけている気がする。まだ深い眠りについていたい俺は無視する事にした。
「………んし様!……だてんし様!」
だてんし?やっぱり俺じゃねーじゃんか。…おーい、だてんしさん、誰かが呼んでるよー!
「ローリィ、叩き起こして」
「無理!手をあげるなんて出来ないよぉ!」
ローリィ?…そういえば、『Destiny』のローリィはどうなってたかな?Lvはカンストしてて欲しいなぁ。
「…仕方ないわね。私が優しく起こすわ」
ゆさゆさとカラダを揺さぶられている感じがする。……えっ!?カラダ!?俺のカラダ!?
「…もっと強く揺するべき」
先程よりも強い揺さぶりを受け俺は目を覚ます。すると目の前には俺を覗き込む様に3人の女性がいた。
「-------------ッ!?」
声にならない悲鳴を上げながら俺は周りをキョロキョロと見渡す。目の前に女性3人、周りは草とか木とかが沢山ある。
「あ、やっと起きた!おはよーございます!『漆黒の堕天使』様!」
「おはよう。『漆黒の堕天使』様」
「おはようございます、『漆黒の堕天使』様。もうお昼になりますよ?」
次々と女性たちは声をかけてくる。ってか、『漆黒の堕天使』?俺そんな名前じゃねーんだけど?
「どうした『漆黒の堕天使』様?怒っているのか?」
……どうやら俺の勘違いではなさそうだ。こいつらは間違いなく『俺』に話しかけている。
「……漆黒の堕天使?俺のことか?」
あ、声出せた。つーか、俺こんなイケボだったっけ?
「もちろんですわ。私たちの主人、『漆黒の堕天使』様とは貴方様のこと!」
やっぱり…。『漆黒の堕天使』は俺の事みたいだな。…あれー?なんかその名前に覚えがあるぞ?
「どうしたのー?やっぱり怒ってるの?」
「ローリィ!『漆黒の堕天使』様に軽々しい口を聞いてはダメよ!」
「…チカの言う通り。『漆黒の堕天使』様はボク達のご主人様。相応の言葉遣いをするべき」
「そんなぁ…。ナナもあたしと近い喋り方するじゃんか!」
俺の目の前で3人は口喧嘩を始める。
……いやいや、待て待て待て!ローリィ?チカ?ナナだって!?それに…漆黒の堕天使!!それって……『Destiny』での俺のユーザーネームじゃねーか!!
「あのー…。ちょっといいですか?」
おそるおそる俺は3人へと声をかけた。すると3人ともすぐに口論を辞め笑顔で振り向いてきた。
「「「はい!『漆黒の堕天使』様!!」」」
その笑顔に少しだけ見惚れてしまったが、すぐに思考を切り替えた。俺は断りを入れてから立ち上がると3人の顔を見渡す。
(……コスチュームといい、顔といい、スタイルといい…。うん、やっぱり『Destiny』のキャラだな。となると…、一応名前確認しとくか)
「えーっと……、ちょっと確認したいんですけどいいですか?」
3人は満面の笑みで頷く。
「あー…あなたの名前は『チカ』ですか?」
俺の右に立っている女性に名前を確認する。俺の記憶が正しければ、金髪エルフのスレンダーボディはチカのはず!
「ええ、もちろん!私は『チカ』ですわ」
名前と容姿が一致した事によりマジマジとチカを眺める。
(あー、そういや『OL服-黒タイツVer.』のコスチュームを着せていたなぁ。あれ当てるの結構金かかったから覚えてるわ)
俺の目線に恥ずかしくなったのか、チカが顔を両手で隠す。
「…あー、ごめんなさい。つい見過ぎちゃいました」
「い、いえっ!謝ることなんて無いです!」
あたふたと両手を振りながらチカが否定する。その姿を可愛いなと思いながら中央にいる女性へと目を移す。
「えーっと、あなたは…『ナナ』ですかね?」
俺の記憶では、『低身長』・『青髪』そして『ゴスロリ』コスチュームを着せさせているキャラは1人しかいない。
「そう。ボクの名前は『ナナ』。『漆黒の堕天使』様に付けてもらった大事な名前」
俺はその場に崩れ落ち頭を抱える。自分で確認しておいてだが、怖くなってきた。
(ヤバいヤバいヤバい!!え!?どういう事?どーなってんの!?)
ガシガシと頭をかきながら俺は苦悩する。その様子に3人は首を傾げ不思議そうな顔をしている。
(いや、もしかしたら他人の空似とかかもしれない!だってゲームの世界の話だよ?そんなぁ、ねぇ?)
俺は自分自身を納得させると残った1人に問いかける事にした。
「となると……あなたは『ローリィ』ですよね?」
この3人の中でも抜群のスタイルを持ち、露出が1番激しい黒髪ツインテールの女性に名を尋ねる。
「うん!あたしの名前は『ローリィ』!!『漆黒の堕天使』様のお陰で無事カンストしました!」
ローリィの一言に俺は狼狽し、崩れ落ちる。
(ハハハ…。そんなバカな。しかも、いま『カンスト』って言葉使ったよな?)
俺は地面をゴロゴロと転がりながら頭を整理する。
(いやいやいやいや…。待て、ひとまず落ち着け。まずはこの状況を整理しよう。いま俺の近くにいる女性は『Destiny』のキャラで間違いはないだろう。なぜなら、俺好みのアバターでコスチュームも着ている。そして、何よりも俺のことを『漆黒の堕天使』と呼んでいる。この名前はゲーム世界での俺の名前だった)
ピタリと動きを止め、立ち上がると思考を重ねる。
(つまり、確実ではないがほぼ間違いなく俺はゲームのキャラとして生き返った、と思う)
3人娘がこちらを見ているがそんなのは今気にする必要ない。
(待てよ?ゲーム通りのステータスであれば俺は全てがカンストしているはず。ジョブも魔法も特技もだ。…どーにか確認できるすべは無いもんかなぁ?)
俺が苦悩していると、チカがおずおずと尋ねてきた。
「あのぉー…。一体どうかなさいましたか?」
「へっ!?ああ、いやー…その、ステータスってどうやって見るのかなぁって思いまして…」
「え?ステータス…ですか?それが何を指してるかわからないですけど、いつも『漆黒の堕天使』様は手を動かしてから右上を見ていましたよ?」
(え!?動かす?どういう事?)
「『漆黒の堕天使』様は右手をいつも動かしてた」
(言ってる事全然わからねー!!動かしてたの内容が知りてーんだよ!……ゲームみたいにタッチするってことか?)
俺は人差し指で空間をつついてみた。すると、目の前によく見ていたステータス画面が表示された。
(うおおお!び、びっくりした…。なるほど、ステータスはこんな感じで表示するのか…。さて、どうかな?)
しばらく俺はステータスを全部確認していた。特技や魔法、装備している武器など全てを調べある結論に達した。
(うん、予想通り全てカンストしている。……アイテムとか所持金、設定とか見るにはどうすればいいんだ?)
俺は目の前を何度かつつくがステータス画面しか出てこなかった。今度はアイテムボックスと呟きながらつついてみるとアイテムリストが表示された。
(なるほど!対象を呟きながらつつけば出来るんだな。……うん、リストも最後に見た通りだ。これって取り出すにはどうすればいいんだ?)
試しに回復薬をつついてみるとリストの個数が減り、手元に出現した。
「おほっ!」
余りの出来事につい声が出てしまった。その声を聞いたチカ達が不安げにこちらを見ている。
「あ…ごめんなさい。ちょっと驚いてしまって…」
俺の言葉にチカ達は顔を見合わせている。そして、ローリィがおそるおそる尋ねてくる。
「あのぅ…。本当に何かあったの?いつもの『漆黒の堕天使』様らしくないよ?」
「ローリィ!!口の聞き方に気をつけなさい!」
チカの大声にローリィと俺はビクリと肩を動かす。
「ああ、大丈夫です。気にしてないですから」
「『漆黒の堕天使』様がそう仰るのであれば…」
うん、納得はしてないって感じだな。…って、それよりも聞きたい事あるんだった!
「あのー、皆さんアイテムってどうやって取り出してます?」
空気を変えるため俺はチカ達に質問した。
「どうやって…?ボクはこうしてるけど」
そう言ってナナが空間に手を入れ、回復薬を取り出す。
「あたしもおんなじだ……です」
「私もですわ」
ローリィ達がナナの行動に賛同する。
(え?どんな感じにしてんの?それを知りたいんだけど…)
とりあえず俺はナナの真似をすることにした。するとナナと同じように、アイテムを取り出すことができた。今度は違うアイテムの名前を考えながら取り出してみると、それを取り出すことができた。
「ふむふむ…。別にリストを表示させなくてもイメージしながらであれば取り出せるのか。すると、しまう時は逆の手順にするのか?」
先程取り出したアイテムをボックスに入れるようなイメージで掴む。するとその場からアイテムは消え、アイテムリストに個数が足されていることを確認できた。
「しまうというイメージで触れればボックスに収納されるのか。こりゃ便利な技だな」