第011話
「うぇぇぁ……気持ち悪りぃ………」
オアシスから転移した俺達はサガンの裏門前にいる。魔法とか使っても何にも感じなかったから普通に使ったけど、乗り物酔いをした気分になった。内臓が上下左右に動いてる様な感覚を受け、吐きそうだ。
「--『気分爽快』。…アルス様、大丈夫ですか?」
チカが回復魔法をかけてくれると、瞬時に吐き気は治まった。どうやら、気持ち悪く感じたのは俺だけであり、チカ達はケロッとしている。
「…あ、ありがとう。助かったよ」
チカにお礼を言いながら水を取り出し一口飲む。もちろん、頭を撫でるのは忘れない。
「むーっ。あたしもジョブ変えとこうかな」
「チカばかりズルい」
後ろの方でローリィ達がヒソヒソと話していたが、俺には全く聞こえなかった。体調も良くなったし、さっさとサガンに入ろう。
門番にギルド証をドヤ顔で見せつけながら俺達は街に入り、ギルドへ直行する。なぜかやけに街の住民から視線を浴びるが、なんでだろう?
少し不快感を感じながら、ギルドへ入り受付へと進む。
「こんにちは!依頼終了したので、確認をお願いします」
「はい。…アルス様ですね。依頼は薬草採取との事でしたが品物はどこに?」
「あ、この中にあります」
収納袋を逆さまにし受付の机に出す。部屋の匂いが、一気に草の匂いへと変わる。
「こ、こんなにですか?…申し訳ありませんが、もう一度袋に入れ直して貰って、袋ごと預かってもいいでしょうか?」
「ああ、別にいいですよ?終わったら返してくださいね」
机の上に広がった薬草を収納袋に入れ、受付に渡す。
「検品後に依頼完了の登録をしますね。それまでお待ちください」
おねーさんが一礼をし、裏へと消えていく。俺達は酒場の机に座り、飲み物を頼む。お酒を飲みたいけど、とりあえずジュースにしとくか。
頼んだ飲み物が空になる頃、受付から呼び出される。
「アルス様ー!検品終わりましたのでこちらまでお願いします!」
「はーい!じゃ、行くか」
トコトコと受付に進み、無事に依頼が完了した事を告げられる。
「……では皆様方、ギルド証をお渡しください」
指輪を渡すと、何やら魔法陣が描かれた紙の上に置く。すると、魔法陣が淡く光り、すぐ消える。
「はい、これで皆様方のギルド証に『功績ポイント』が付与されました。次のランクアップまで残り480となっております。それと、こちらが今回の報酬になります」
おねーさんにギルド証と皮袋を貰う。少し重く感じるので、もしかしたら多いのかも!
「今回、稀少な薬草が非常に多く有りましたので、金額は1500Gとなっております」
……すげー。依頼の報酬自体が200Gだったから大量に採取したんだな。いやぁ、得したなぁ!
「ありがとうございます!それじゃ!」
「あ、お待ち下さい。ギルドマスターがお呼びです。執務室まで来るようにと」
「あ、はい。わかりました」
何故呼ばれたのかと疑問を持ちながら、俺達は執務室へと向かうのであった。
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「コンラッドさん、依頼を受けてくれる冒険者はいないのですか?」
執務室にコンラッドと小太りの男性が向かい合って話をしている。
「ポーロさん、まだ掲示してから1ヶ月しか経ってませんよ?それに、あの依頼は下手をすればCランクになるかもしれないから、時間がかかると言ったじゃないですか」
「それは十二分に承知しております。しかし、商人組合も、あのオアシスで野営出来ないとなると大変なのですよ」
「…せめてあと2ヶ月お待ちください。そうすれば…」
「2ヶ月ですって!?それは遅過ぎます!ただでさえ、サガンに来る商人の数も減ってきているのに…。……これ以上放置されるなら、サガンから撤退するしかありません!」
「それは困る!ここはポーロさん達、商人組合が来なければ物流が止まってしまう!」
「ですから、早急にとお願いしておるのです!…せめて、あと10日!それまでに依頼を受ける方が居なければ私達は撤退します!」
「……わかりました。最悪の場合、兵士団に依頼をしましょう。諸経費はこちらで持たせて頂きます」
「お願いしますね、コンラッドさん。こちらも足りない分は出させていただきますので…」
コンラッドは顔を手で覆う。高ランクの冒険者不足が完全に浮き彫りになったからだ。サガンにいる高ランク冒険者の数は3人。上からB+、B、Cの順だ。
しかし、運悪く高ランクの冒険者達は王都からの依頼で今はサガンに居ない。低ランク冒険者の育成が追いついてない状況が、更にコンラッドを悩ます。
その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。入るように声をかけると、見知った顔が覗かせる。
--そうだ、コイツらがいた。
コンラッドの悩みを解消出来るかもしれない人物の登場に、大喜びで声をかけるのであった。
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執務室の前に来ると、何やら話し声が聞こえる。内容は聞こえないが、争ってるような声だな。
入るかを迷っていたが、覚悟を決めドアをノックする。中からコンラッドの声が聞こえ、部屋へと入る。
「失礼します。コンラッドさん、何か用ですか?」
「おお!アルス殿!ちょうど良い時に来た!…ささ、とりあえず中へ入って腰掛けてくれ」
…殿?そんな呼び方してねーだろ。
とりあえず中へ入ると、ソファーに座っている人に目がいく。……あれ?どこかで見たような気がするな。
「おや?キミ達はオアシスであった子達じゃないかい?」
そうだ!オアシスで会ったおっちゃんじゃん!
「あ、こんにちは。昨日ぶりですね」
挨拶を交わしつつ、おっちゃんの横に座る。チカ達はソファーの後ろにある椅子に座っている。
すると、紅茶を入れながら、コンラッドが質問してくる。
「おや?アルス殿はポーロさんと知り合いなのかい?」
「知り合いっていうか…。オアシスに行った時に少し話しただけですね」
コンラッドが俺達に紅茶を渡すと、対面に座る。
「そうか、なら紹介しておこう。こちらの方はサガンの商人組合長、ポーロ殿だ。サガンの商品は殆どこの方が管理しているんだよ」
「え…、めちゃくちゃお偉いさんじゃないですか…。改めまして、アルスと言います。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますね、アルス殿。……話は変わるのですが、アルス殿達は昨日、オアシスに泊まったのですか?」
「ええ、依頼の薬草が朝方にしか生えないらしく、野営しましたよ」
「そうですか…。それならば、魔物は出て来ませんでしたか?」
「あー………砂漠の大蠍でしたっけ?うじゃうじゃ居まし
「ほら!!コンラッドさん!もう住処になっているではないですか!!……やはり、今すぐにでも兵士団へ頼むべきです!」
「……そうか。もうそこまでなっているのか…」
なんだなんだ?2人して深刻な顔して。全然話についていけないんだけど…。
「……あのー、そいつらがどうしたんですか?」
「ああ、ポーロ殿は魔物の討伐依頼を出していてね。商人の休憩所でもあるオアシスが魔物の住処になってしまったらこのサガンから撤退すると仰るんだ」
「え?そうなんですか?」
「はい…。あそこは私達商人にとっての大事な休憩所なのです。魔物が占拠するとなると、移動が困難になりサガンに来れなくなってしまうのです」
ははーん…、なるほどなぁ。ポーロさんは中継地としてオアシスを利用してるのか。それで、魔物が出てしまって討伐依頼を出した。でも、それを受けてくれる冒険者が居ないからこの街から撤退するって事か。
「…なるほど。そういう事だったんですね」
重苦しい静寂が部屋を包み込む。……別に俺は日が浅いからこの街に愛着は無いし、他人事の様に感じるなー。
俺とチカ達が紅茶をすする音が響く中、コンラッドが俺を熱く見つめていることに気付いた。……何だよ、男はお断りだよ!
「時に相談なのだが…アルス殿。貴殿らにこの依頼を受理してもらいたいのだが?」
ぶっ!!いきなりだな、おいっ!!…別に構わないけど……って、アレ?
「アレっ?そう言えば俺達はその魔物-
「コンラッドさん!!アルス殿達はまだ駆け出しと聞きましたよ!?それなのに、あの依頼を受理させるというのですか!?……見損ないましたよ!!!」
…ちょいちょい俺の発言に被ってくるなぁ。ビックリするからやめて欲しいんだけど。
「あー…ポーロさん、実は-
「落ち着いてくださいポーロ殿!アルス達は普通の駆け出しとは違うのです!!」
お 前 も か 。 俺に恨みでもあんのか?
「何が違うのと言うのですか!?私から見れば、オーラも感じられない、まだまだヒヨッコじゃないですか!!」
「確かに、ランクは駆け出しです!しかし、アルス達は砂漠大蜘蛛を5匹以上、討伐したのです!しかも一撃でですよ!?そんな強者に依頼をして何が悪いと言うのですか!?」
「はっ!笑わせてくれますね。駆け出しが砂漠大蜘蛛を討伐したですって!?そんなの信じられるわけないでしょう!?」
…はぁ、こりゃ長引きそうだな。いい加減、聞いとくの面倒になってきたし、そろそろ止めるか。
「俺はギルマスだぞ!?所属している全員の力ぐらい把握してるわ!!それで--
「はーい!!お二人共落ち着いてください!!!!」
机を強く叩き、大きな音を立て注目させる。鋭い目で睨んでくるが、とりあえず止める事は出来たな。
「えー……、まずですね、伝えないといけない事があります」
「……何でしょうか?」
おいおい、ポーロさん顔真っ赤っかだぞ?とりあえず、紅茶でも飲んで落ち着いて欲しいんだけど…。
「先ほど出た砂漠の大蠍の件なんですが、多分もう大丈夫だと思います」
「「……………は???」」
だよねぇー。そういう反応になるよねー。
「昨日出た砂漠の大蠍なら、全部討伐してます」
「…は?……え?なんて言いました?」
「ですから、昨日オアシスに出てきた魔物は俺達で討伐しました!」
「…し、証拠はあるのか?」
んもー!疑り深いなー。嘘言ってどーすんだよ!
「倒したヤツでいいならありますよ?見ます?」
2人が黙って頷くのを確認してから、リストから砂漠の大蠍の尻尾を取り出す。流石に全部出すと、机に乗らないから5匹分くらいでいいかな。
「--はい。これが証拠になればいいですけど」
「「…………………………」」
呆然とした表情で2人とも尻尾を見つめている。…まぁ、今さっき切りました!って感じに生々しいから仕方ないよね。
「どうです?まだ必要なら、全部出しますけど?」
「い、いや、大丈夫。これだけで充分だ」
「ち、ちなみに…、何匹ぐらい倒したんですか?」
「んー……20匹ぐらいは倒したと思います」
俺の言葉にコンラッド達は顔を見合わせる。先ほどの表情とは違い、少し嬉しそうな表情をしている。
「んんっ!!……アルス、ちょっと席を外してくれないか?ポーロ殿と話があるのでな」
「えぇー?……わかりました。んじゃ、下にいるから呼んでくださいね」
「本当にすまん…」
「皆ー、下に降りるぞー!」
俺はチカ達を連れ、酒場へと降りていくのであった。