第010話
「アルス様!!!起きてください!!」
チカの大声で俺は目覚める。
「なんだなんだ!?」
「『警報』に反応がありました。数は20以上です!」
「………魔物か!!皆起きろ!」
「起きてる」
「起きてるよー!」
「……俺が最後かよ」
急いでテントの外に出ると、昼間の様な暑さは無く、凍える様な寒さだった。ナナがすぐに、寒さ無効の魔法をかけてくれた。
「魔物はどこらへんだ?」
「ッ!あそこです!」
チカが指差した方向を見ると砂埃が舞っている。月明かりに照らされ、大蠍達が見えた。
「これが砂の大蠍か…。うぇっ、気持ち悪りぃ」
わじゃわじゃと動いてる様は鳥肌モノだ。早急に殲滅したいが、今回は我慢する。
「ナナ!あいつらの右半分に中級の火属性の魔法を打て!」
「了解。--『焔の渦』」
ナナの魔法が砂の大蠍の下から発動する。名の通り焔の渦に巻き込まれた蠍達は黒焦げとなっていく。
「……1匹だけ俺が相手をする。他はチカ達に任せる!」
「「「了解っ!」」」
最強装備へ切り替わったチカ達が砂の大蠍へとド派手な魔法や地面が揺れる程の攻撃していく。そんな中、1匹だけ俺に向かってくる魔物がいた。
(…中級魔法でも秒殺だった。ならば普通の攻撃ならどうなる?)
俺を獲物だと勘違いした魔物が尻尾で攻撃してくる。しかし、その攻撃は止まって見えた。
(…Lv差があるからか?こんなスローモーションになるなんて、大蜘蛛の時は無かったぞ?)
尻尾の攻撃を避けると、そのまま尻尾を切断する。痛覚があるのか分からないが、怒り狂った様に鋏で攻撃してくる。…だが、それすらも遅過ぎる。
(ダメージは余裕で入る。今度は俺にダメージが入るかの確認だな)
正直に言うと、物凄く怖い。もしかしたら、これで死ぬかもしれないからだ。ゆっくりと迫り来る鋏の前に立ち鎧で受ける。
(………痛くない。ノーダメージって事か?後で確認だな)
実験が終わったので、鋏を切り落としトドメを刺す。動かなくなったのを確認し、ステータスを表示する。
(はい、やっぱりノーダメージ。この魔物の強さを帰ってから聞くとするか)
ステータス表示を閉じると、戦い終えたチカ達が話しかけてくる。
「アルス様、どうかしましたか?悩み事ですか?」
「…うーん………俺はこの世界でどのくらい強いのかなって知りたくてさ」
「マスターは最強」
「うんうん!ご主人様に勝てる奴なんていないよねー!」
「…最強かぁ。まぁ、ステ的には最強なんだろうけどな」
戦闘を終えた俺達は、砂の大蠍の回収を始める。ギルドに提出すると別途報酬が貰えるとの話で、多くの冒険者の飯のタネとなっている。
(この死骸どうするかなー。収納袋に入れるのは嫌だし…。アイテムリストに入れとくか)
死骸に手を触れ、どんどん回収していく。全て回収し終わり、リストを表示してみると部位別に表示されている。
(へぇー。別に解体とかしなくても勝手になるのか。便利だな)
自分の実力と、アイテムリストの使い方を新しく知った俺は少し疲れていた。テントに戻って寝るかなと考えていると、空が赤く染まり始める。
「うわぁー!ご主人様ぁ!みてみて!」
「綺麗…」
「こんなの初めて見ましたわ…」
砂漠の向こう側から朝日がゆっくり昇り始める。黒々としていた大地に赤色が差し込み、徐々に明るく染まっていく。
「…もう朝なのか」
広大な景色を眺めていると、ふと思い出した。
「あ゛っ!!!!薬草!!!」
依頼を思い出した俺は、慌ててチカ達と薬草採取をする。手当たり次第生えている草をボックスに入れる様指示し、朝日が完全に顔を見せた頃に採取を終えるのであった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
砂の大蠍の大群を討伐した後、薬草採取を済ませた。『鑑定』スキル使えば簡単なんだろうけど、時間が無かったため手当たり次第採取してきた。
終わった後、俺達はテントへ戻り仮眠を取る。興奮状態で疲れていたのかすぐに眠りにつく。
2時間程経つと自然に目が醒める。
「ふわぁ…。なんか熟睡出来た気分だ」
腕を上げながら起き上がり、テント内を見渡すと誰も起きてない。珍しく俺が先に起きたようだ。
「…起こすのもなんだな。こっそり外に出るか」
立ち上がろうとした時、不意に手を掴まれる。
「マスター……」
…びっくりした。俺の手をナナが寝ぼけて掴んだようだ。
(…うーん。外出れなくなったぞ。無理矢理離したら起きちゃうだろうし…)
しばらくの間、ナナに手を握られていると、寝言が聞こえてきた。
「マスター…ボク達を見捨てないで…。何でもするから…」
驚き、ナナの顔を見る。うっすらと涙が溢れている。
(見捨てないで…か。ゲームの時は殆ど放置してたけど、転生してからはずっと一緒だもんな…。それに、ナナ達が居てくれたから俺は寂しい思いした事無いもんな)
もう片方の手で、ナナの頭を撫でながら優しく語りかける。
「…大丈夫だ。俺は何があってもナナ達を見捨てたりはしない。これから先ずっとな…」
聞こえていたかは分からないが、うっすらと笑みを浮かべていた。可愛らしい寝息が聞こえるまで撫でていると、握っていた手が離れていく。俺は誰も起こさないように、ひっそりと外へ出ていった。
「んっ………。はぁー。日が昇ったばっかりなのにもう暑いよ…」
じわじわと熱気に包まれながら、朝食の準備を始める。ステータスを開き、『調理師』のジョブをタップする。切り替わったようなのだが、感覚的には何も変化はない。だが、ステータスは変動していた。
「実感がないとなんだか不安になるなぁ…。このジョブ変更も思っただけで変わるのか?」
試しに『魔法使い』へと変更してみる。すると、装備していた物が外れ、代わりにローブと杖を装備している。
「なるほど…。前のジョブは戦士だったから、魔法使いでは装備出来ないのか」
こんな事を言うのもなんだが、本当にこういうのはゲームっぽい。瞬時に着替えられます!とか普通だったら考えられんぞ?
ジョブの確認も含めて色々と変更する事にした。しばらくすると、全てのジョブ確認が終わる。無事に、全て変更出来た。
「結局、目に見える違いは装備だけか。…ま、これだけでも分かったし大収穫だな」
再び調理師へ変更し、収納袋から食べ物を取り出す。調理セットを出し、調理を開始する。ジョブ確認してて分かったことがあるのだが、専門職の場合レシピが表示されるのだ。
例えば調理師の場合、いま目の前にある食べ物を調理しようとすると、レシピリストが点滅する。それをタップしてみると、俺の意識とは別に勝手に調理を始めてくれる。料理などそんなに作った事は無いが、手際よく動いてる様はまさにプロに見えるだろう。
調子に乗った俺は、次々にレシピをタップしていく。手は動きながら意識は別の事を考えられるという、不思議な感覚が癖になったのだ。
結局、露店で買ったのを全て使い切ってしまった。まぁ、もう冷めてて美味しくないし、別にいっか。
出来た料理は勝手にアイテムボックスへと収納されていく。これはゲームの時もあったのでその仕様だろう。後片付けをしていると、チカ達がテントからちょうど出てきた。
「おはようございます」
「おはよー!ご主人様!」
「おはよう。今日は早起き」
「おはよう。朝飯出来てるけど食べるかー?」
「「「食べる(ます)!!!」」」
チカ達をそこら辺に座らせ、リストから料理を出していく。運良くチカ達が好きな料理を作ることが出来たので、1人1人に手渡していく。
「はい、チカは『オムライス』が好きだったよな?」
「あ、ありがとうございます!!覚えててくれたんですね!」
「もちろんだよ。…はい、ナナには『ハンバーグ』」
「感激。一生大事にする」
「いや…腐っちゃうから食べてよ…。はい、ローリィは『焼き鳥丼』だよ」
「わはぁーい!!すっごく美味しそう!!!」
3人とも大喜びしてくれた。それもそのはず、いまチカ達に渡したのはキャラ設定にある大好物なのだ。『Destiny』では大好物の物を食べると回復量が特大UPするのだ。それに、一時的にバフがかかるのでボス戦なのでは重宝していた。
「おかわりあるからなー。それじゃ、食べようか」
「「「いただきますっ!!!」
チカ達は満面の笑みで食事を進める。俺にも味覚があったらあんな笑顔になれるのに…。作り笑いを浮かべながら俺も食事をする事にする。……やっぱり味はしなかった。
お腹いっぱいになり、満足したのかチカ達が次々にお礼を言ってくる。別にそういうつもりで作った訳じゃないが、素直に受け取っておく。
「もう少ししてから、街に帰ろうと思うんだけど…。それでいいかな?」
「「「はーい!!!」」」
テントをボックスに戻し、今朝採取した薬草を全て収納袋に入れる。これはローリィが率先して手伝ってくれた。そのまま収納袋はローリィが預かる事になり、忘れ物が無いかを確認し、俺達はオアシスから出る事にした。
「……はぁ。またこの距離を歩いて帰るのか」
熱無効をかけてるとはいっても、歩くのはしんどい。チカ達はケロッとした表情をしてたし、CPUと人間の差だろうな。
「…よぉーし。帰るぞー」
気乗りしないが声をかける。すると、チカ達が急いで俺の元へとやってきた。
「な、なに??どうかしたの??」
「へっ?今から帰るんですよね?」
「う、うん…。そうだけど?」
「だから集まった」
ん??どういう意味だ?…全然わからないんだけど。
「別に集まらなくても大丈夫だろ?歩いて帰るんだから」
「え?歩いて帰るの?…てっきり魔法使うんだと思ってた!」
…ああ!!そういや魔法使えたんだった!
「転移はマスターにしか出来ない。だからいつも集まってた」
はいはいはい!思い出したよ!そういう事ね!
「はは、すっかり忘れてたよ…。そうかー、転移出来るのか」
魔法のコツは大体掴んでいるので、自然と使用することが出来た。
「さぁ、サガンに帰るぞ!--『転移』」