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翼のない俺達に幸せの粉を!!  作者: まろ爺
第1章 0からのスタート
9/19

8話 都合の良い女

8話です





あれから、何も仕事がないまま体感で4日ほど経っただろうか。帰ってきて鍋パをした後すぐに寝て、それからはずっとだらだらしていた。

すっかり仲良く暮らしていた3人は、いつも通りの日常を、全く予定のない休日のように過ごしていた。



「あー、暇だなぁ」


限られた時間を幸せに。とは言ったものの、暇で暇で仕方が無い。

漫画を1巻から貸してくれるようになったのはいいが、流石に何日も漫画だけの生活は退屈であった。でも少し面白い。ほんの少し。

食事も、鍋パ以降は今のところ1度もない。

死んだ人間には食欲などないのが一番の救いだ。




「外、一回出てみる?」



「えー、今眠いしーってえぇ!!?」



唐突に提案されたその内容は、シンプルではあったが、楓にとって予想外すぎる提案であった。



「いいのかよ、ほかの天使に見つかったらやばいって言ってただろ」



「そうね、確かに。でも天使と人間なんて翼があるかないかの差よ。少し人間は人間臭いけど。それに、今から行くところは天使が少ないから大丈夫よ」



「人間くさいって・・・・・・まあ、それならいいか」



エフィルロの言っている事は、今まで外に出る事なんて出来ないという考えしかなかった理由を解消していた。

エフィルロやエルシオを始めてみた時、人間だと思ってしまうほどだ。外見にさほど違いはない。

その、人間の臭さを考慮すれば、天界を出歩くこともできるのかもしれない。



「まあ、わかる天使には一瞬でバレちゃうような臭い何だけどね」



「駄目じゃねーか! 消臭剤とか無いのかよ!」



「そんな便利なものはないけど、正直、臭いだけで人間だとわかる天使は少ないわ。だから大丈夫よ」



「そ、それならいいけどよ」



「私も行っても良いですか!?」



「いいわよ! 3人でお出かけしましょ!!」



どこか楽しそうな天使2人と、不安げな人間1人は、ゲートを開いたエルシオを先頭に、そこへ飛び込んだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




気がついた時、楓は草原の真ん中にいた。

エフィルロとエルシオは、目線の先で寝転んで空を見ている。

周りには何も無い。遠くの方に木々が見える程度だ。

山や建物なんてものは何一つ見えない。

きっとこんなにも見渡しのいい場所、死んでからではないと来ることは出来ないだろう。

クレーターのようなものがある。隕石でも降ってきたのかと思いを馳せる。



この世界が何処にあるのかはわからないが、きっと昼夜はあるのだろう。ここは暗い。夜の大きな公園にぽつんとたっているかのように感じた。


少し眠くなり、自分も寝転がろうと、腰を下ろしてから寝転がる。



「凄いでしょ? 人間界では見られないと思うわよ?」



「・・・・・・」


こんなとこで何するんだよ! とツッコミをかまそうとしていたのだが。




唖然。出てくる言葉が無い。それと同時に、生きていた頃味わう事など出来なかった底の見えない感動が、楓の胸を踊らせる。こんな事、今までにあっただろうか。

やっとの事で出てきた単語、それは綺麗。しかし、そんな言葉じゃ表せられないほどの光景が、目の前に広がっている。

キラキラしている。あれは星だろうか、

七色に輝いている。あれはオーロラだろうか、

しかし、星もオーロラも、その言葉の意味の枠には収まっていなかった。


花火のように綺麗な星は、人工的に作られたそれよりも、美しかった。

その景色はきっと、人間が生きている間に見られる景色ではない。そう悟った。

星域みたい。そうエルシオは花火を見た時に言った。確かに似ている。だが、これを見てしまった後では、きっとどんな花火を見ても感動はできない。綺麗だとも思わないだろう。

久しぶりに見た星空は、人間界のそれとは比べ物にならない。

まるで、宇宙に放り込まれたように、静かで、風の音すら聞こえない。

聞こえるのは鼓動だけ。

美しい。





起き上がり、再度周りを観察してみる。

すると、遠くには大きな木が見えた。大きく伸びたその木は、きっと、人間界にはない大きさだろう。遠目からでもその大きさが分かるほどだ。

少し心が苦しいぐらいの絶景に、楓の心は感動に満ち溢れた。





その時だった、





「よりによってこんな時に・・・・・・」



焦りを見せるエフィルロの発言を聞き、楓は我に返る。



何事かと、楓は当たりを見渡す。

すると正面、楓の方へ駆けてくるエフィルロ。その奥でエルシオと向かい合うように、何かがいた。



「な、何だあれ」




「早く逃げるわよ楓! ゲートを開くわ! ここに入って! はやく!」



焦るエフィルロを見て、ただ事ではないと悟り、逃げるべきだと判断。

ゲートへ飛び込もうとした時、逃げようとしないひとりの天使が目につく。



「おい! エルシオ! 何してんだ! はや・・・・・・おいおい何だあれ」



「あいつは死神よ。天使を無差別に襲う生き物」



死神。アニメや本で見たそれは人の形をある程度は保っていたが、目の前のそれは違う。

遠くから見ればただ黒い物体としか見えない。

今、少し近づいてきたところを見れば、手や足がある事はわかる。

だが、得体が知れないことには変わりない。



「死神・・・・・・それより、エルシオは何やってんだ! 早く逃げなきゃまずいんじゃねーのか?」



「まずいわよ。死神は天使を襲う。まだなぜ襲うかは分かっていないけれど、とにかくあいつは天使を殺そうとしてるの。きっと、地獄に落とされたことの恨みが・・・・・・」



「地獄? いや、とりあえず、エルシオがやべーだろ」



「人間は襲わないかもしれないわね。死んでるわけだし。天使じゃないし」



「俺は襲われないとしても! エルシオは逃げなきゃ駄目だろ! おい! エルシオ! はやく!!」


しかし、エルシオは未だに死神のほうを向き、仁王立ちしている。

楓の声は、距離的には届いているはずだ。


「何で・・・・・・」



楓がどれだけ呼んでも、エルシオは振り向くことすらしない。

そして何より、エルシオは死神を前にしているのにも関わらず、微動だとしない。

寧ろ、



「あれ、立ち向かおうとしてねーか?」



「そうね。エルシオ・・・・・・」



「やるってまさか、このままだと最悪な結果になるかもしれないんだぞ・・・・・・って、え?」



少し遠くの光景では、予想外の展開が繰り広げられていた。




あれはエルシオだろうか。視線の先にいる天使は、死神の方へゆっくりと歩いていく。翼を生やし、両手に剣を持っている。

勢いよく踏み込んだ足で地面の土を舞い散らかし、その天使は死神の元へ走る。

静かだったこの場所で、うめき声が聞こえた。これはおそらく、死神が発した声だろう。

切り刻まれる死神。物凄いスピードで繰り広げられる戦闘は圧倒的な戦力差があった。

勝敗がひと目でわかる戦いをみて、逃げる必要など無いと思わざるを得ない。



「あれは・・・・・・」



「エルシオよ。あの子強いから」



何かが破裂すると音と共に、死神の姿は消えた。そして取り残された少女は一人、その場に立ち尽くす。

ふとこちらを振り向き、少し声を張ってこう告げる。


「もう少し、星見ませんか? 楓くんと話したいこともあるのです」


エルシオの両手に持った白く輝く剣と死神の残骸は、星に照らされながらキラキラと消滅し、背中の羽根はいつの間にか消えていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「私は・・・・・・先に帰ってるね」



エルシオの発言を聞き、気をきかせたのか、エフィルロはさきほど自分で開いたゲートに小走りで向かっていく。

楓の元へゆっくりと向かってきたエルシオは、楓の隣へ座ると楓も座りなと手で合図する。


「また面接会場に帰るのかよ。フィロは」


合図を受け、エルシオの横に座り、たわいのない会話になるよう促しながら、先ほど闘っていた少女がエルシオだという事を再確認する。


「まあ、生きる上で必要な所なんて、大概ゲートで向かうことができるのです。天使は、人間よりも食事の回数が極めて少ないですし、何より、睡眠時間も人間より少ないのです。だからあそこで暮らす分には生活に支障を来す事はまずないのです。まあ、トイレは3日に1回ぐらいはゲートで行っているはずなのですが。それに、あそこはエフィルロのもう一つの家でもあるのです」



そういうもんかと、楓は応える。

これまで、布団を持ってきたり、鍋を持ってきたり、マンガを借りてきたりする所を見ると、自分の家の方が居心地がいいのではと、反論しようとしたのだが、それは、エフィルロの優しさだと、そう感じた。

0ポイントの楓の居場所など、本当ならローズベルク、ましてや天界にも存在する事などなかったのだ。

そんな楓の居場所をくれたエフィルロ。そして、楓のポイント稼ぎを手伝ってくれるエフィルロは、死んではいるものの、命の恩人なのだ。




ーーーーーーーーーーーー感謝しねえとな。




そう、心の中で自分に言い聞かせる。

生きていた頃には味わう事の出来なかった、友人からの優しさを感じながら、そんな厚意を無駄にしてはいけないと、心に刻む。

それと同時に、さっきの戦いを見て聞きたいことが山積みになっている事が頭をよぎる。


「おまえ、めちゃ強いじゃねーか。今まで喧嘩なっても、まあ勝てるだろとかおもってたけど、見た限り勝てそうにねえわ」



「私、賢いだけでなく強いのですよ? 天才かもしれないのです」



自称天才天使の自惚れは放っておき、突然の出来事に対しての情報処理の途中で、一つの話題を引き出し、話を持ちかける。



「あの、死神? あいつは何でこんな所にいるんだ。死神なんて天界にはいないイメージなんだけど。」


確かにそうですねと、前置きしたエルシオは、顎に手を当て考える素振りを見せた後、丁寧に説明を始める。



「ここは、天界に近い場所ではありますが、天界ではないのです。天界の近くある、星域という所なのです。なので、結界が張られていないのです。あ、もちろん天界には結界が張ってあるので死神は入れないのです」



星域・・・・・・星が見える所と言われなくても、名前を聞けばそう分かるような単純な名前ではあるが、どこか神聖な場所に感じる。そもそも、ここへ来た時から、どこか神聖で神々しいオーラを感じてはいたのだが。


そこで、楓は自分たちがここに残った理由が果たされていないことに気がつく。



「そういえば、話したいことあったんだろ?」


やっと切り出されたその質問に、エルシオは俯きながら頷き答える。


「そう・・・・・・なのです」



なぜか、深刻そうな表情を見せるエルシオ。

それを見た楓は、ことの重要さを察し姿勢を正す。そして、双方真剣な眼差しを向かい合わせる。



「この間、楓くんはお父さんが人間に殺されたと私に話してくれたのです。それを聞いて、私も・・・・・・これを話そうと思ったのです。


私も、友達の天使・・・・・・親友が、人間に殺されたのです」



思いもよらぬ発言に、楓は驚き目を見開く。




「人間に? いや、でもどうやって?」




人間を天使が殺すことは可能なのではないかと、何となく考えることが出来る。

なぜなら天使は人間を幸せにも、不幸にもできる立場にあるからだ。

しかし、人間が天使を殺す事なんて出来るのだろうか。楓には想像もつかない。



「さっき楓くんが見た死神は、地獄に落ちた人間の末路なのです。さっきのは知能の低い死神ですが、知能の高い死神は人間の姿で、もっと残虐で、おぞましいのです」



死神・・・・・・その言葉を口から出す度、エルシオの顔は憎悪や、憤怒と言った感情が滲み出ているのを、楓は見逃してはいなかった。

人間が死神になるなど、思いもしていなかったからか、言葉にならない様々な思いが胸からこみ上げてくる。

エルシオが人間を嫌っていた理由は、地獄に落ちた人間が死神となり、親友を殺したから。

大切な人を殺される時、どんな思いが生まれるか、罪悪感しか残らなかった楓はもう覚えてはいない。だが、それはきっと、酷く愁傷な思いなのであろうと、楓は感じる。



「人間が、死神に・・・・・・」



「そうなのです。私の親友、アレシアはその、知能の高い死神に殺されたのです」



楓が何を言えばいいのかわからず、戸惑っていた時、首からかけたカメラを手に取ったエルシオは口を開く。


そのカメラにはどこか違和感を感じた。

楓が違和感の正体を掴むことが出来ないでいる中、エルシオは話を続ける。



「これは、アレシアの宝物なのです」



エルシオは今までとってきた写真を楓に見せていく。

綺麗な夜空の写真から始まり、楓の寝顔の写真。学校の写真などたくさんの写真を通り越すと、楓のまだ知らないエルシオの過去が写真としてカメラに残されている。

エフィルロの写真や、エルシオの写真が増えてきた。きっとこの頃は、まだアレシアが所有者だったのだろう。

そして、エルシオが次々と写真を見ていく中、一枚の写真の所で手が止まる。それは、綺麗な花畑の写真であった。おそらく、一種類の花が沢山植えられており、紫や、ピンクなどの色がある。きっとどこかの植物園だろう。奥の方に看板が見える。



「この花は、アレシアが人間界で撮った花なのです。この花を一緒に見に行こうと、約束していたのです」



そう言い切ったエルシオの目には、薄らと煌めく潤いが見えた。

声が詰まっていたこともあり、辛いと言う事は重々伝わってきた。

そのまま沈黙が続き、何か話を変えようと、楓が先言葉を投げかけようと試みるが、この状況にふさわしい言葉が出てこない。

そんな楓を差し置いて、エルシオは話し始める。



「な・・・・・・」



悲しみとも怒りともとれない複雑な感情が現れた表情で、エルシオは続ける。



「なんで、

人間に幸せを渡していたアレシアが、人間に殺められなければならなかったのですか!? 私はアレシアとの約束を破らなければならなかったのですか!? どうしてなのですか!? 私は、アレシアを殺した人間が憎くて憎くて仕方がないのです!!」



エルシオの目から涙が零れている。

怒号に似た叫びをあげ、エルシオはこの世の全てを恨むような目で楓を睨んでいた。

短い髪を揺らつかせながら、勢いよく叫んだエルシオ。

楓はそんなエルシオを直視することが出来ず俯く。



「い、いや・・・・・・その・・・・・・」



何を言えばいいのか、全く分からなかった楓は、目を泳がせ言葉に詰まる。

目の前で、女の子にこんなにも大声で泣かれたのは初めてだった。

大きな素振りを見せながら、エルシオから伝えた言葉の答えを、楓が答えることなど出来なかった。

わからない。そんな回答では納得してもらえないだろう。

死神の本当の姿が人間だということを知ってしまった楓には、エルシオの発言を否定することは出来ない。

例えば、人間ではなく、死神を恨むべきだと、エルシオに伝えることも可能だ。

しかし、地獄に落ちたマイナスポイントの人間は。少なからず悪をこなしている人間ばかりだ。

そんな人間達ならば、天使を襲うための動機と精神を、十分過ぎるほど養っているだろう。

それを考えた時、人間ではなく死神を恨めなど、言えるはずもない。






「ごめんなさい。楓くんが、人間を嫌う・・・・・・いや、人間に恐怖心を抱く理由を教えてくれたので、私も、人間を嫌う理由を話したかった、それだけなのです」



謝ったあと、星域に2人残ったわけを楓に話したエルシオ。



エルシオが人間を嫌う理由は、わかりやすいようでとても複雑であった。


友を殺されたから、人間を恨み、嫌っていると感じる事もできる。

だが、話している内に楓は気がつく。

彼女は人間が嫌いなのではない。人間を好きにはなれないのだ。


嫌いだと言う人間に、幸せの粉をかけられるだろうか。

嫌いだと言う人間の不幸を、悲しむことが出来るだろうか。

なんの偽りもない、綺麗で、美しく純粋な笑顔を、嫌いだと言う人間に見せることが出来るだろうか。



「出来るわけねえだろ・・・・・・」



そう呟く楓の声は、エルシオの耳には届かない。

好きになれないのは、好きになってはいけないと、自分自身に言い聞かせているからだ。

親友を殺した人間を、好きになんてなってはいけないと、心の中で決めてしまったのだ。そして、人間を好きになってしまう自分自身を、一番に嫌っているのだ。




「楓君のことは、好きになってしまいそうになるのです。今までずっと、人間は嫌いだったはずなのに。私は・・・・・・どうすればいいのですか?」



これは、楓に対しての突然の告白なんかでは無いことなど楓にはわかっていた。

恋愛なんてそんな類のものでは無い。

この場合の『好き』『嫌い』は、そういう類よりももっと重く、ズッシリとしている。

どちらかに傾いたら、もう全く動かなくなってしまうほど重要な区別だ。


エルシオが問う質問は、すぐに答えが出るような質問ではない。


それを踏まえた上で、回答をしようと試みる。

楓の考えで、簡潔にまとめる。

今、何をすべきか、何を思うべきか、何を伝えるべきか、そんなことはわからない。百点の回答が出せるなんて思えない。

でも、それでも、楓は答えた。


「これから・・・・・・決めればいいんじゃね?」



少しの沈黙の後、エルシオは返事をする。


「これから、ですか?」



「いつかきっと、人間のことが嫌いだって心に刻めるときや、人間のことが好きだって心に刻める時がくるはずだ。その時まで、気長に待つのがいいんじゃないか? 今は・・・・・・その・・・・・・人間が嫌いでも、俺のことだけ好きになってりゃいいじゃねーか!」



後半は赤く染めた頬を隠すため、頭を掻きながらそっぽを向き話した楓を見て、驚いているのか、大きく目を見開いて楓を見つめるエルシオ。



「ふはっ・・・・・・はは!」



「な、何笑ってんだよ」



何かに縛られていた体が、すっと解き離れたかのように、エルシオは笑い出した。

それまで少し緊張していたのか、引き締まっていた楓の体は、エルシオの笑いとともに楽になる。



「そうですね。今すぐなんて図々しいこと言ってられませんね!

私は・・・・・・楓くんのことは好きです! 大好きです! 人間のことが嫌いでも、楓くんのことは嫌いにはなれないです! それで、いいんですよね?」



「あぁ。 それだと俺が人間じゃないみたいだけど、自分が提案したとはいえ、都合のいい女だな」




エルシオのテンションの変わりように思わず苦笑。

だが、この判断は正しいのだろう。

まだ彼女自身が気がつけていない彼女の本音を、楓は知っている。



「気づかせてやるからな」



と、楓はエルシオに聞こえないよう囁いた。




笑顔に戻ったエルシオは、何か呪文のようなものを唱え、ゲートを開く。



「それじゃあ、帰るのです」



「そうだな」



「ありがとうございます。話を聞いてもらって」



おう。と返事をした後、最後にふと空を見上げる。

瞼を閉じて、目の裏に残る光を感じる。

夏祭りの帰り道のような、少し切ない気持ちに包まれながら、先にゲートに飛び込んだエルシオを追うようにして、楓もゲートに飛び込んだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あいつはぁ、人間やなぁ」



星域に聳え立つ巨大な木の上で、一人の老人は目を擦りながらそう言った。




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