5話 罪悪感
5話です。
目的達成のため、アイボーンに映る顔写真を頼りに、教室を片っ端から周っていく。
「どこも授業中だな、そんでもって、このフロアは2年の教室っぽい。やっぱり3年生は4階か?」
「こんなにもたくさんの人間が、人間に調教されているのですね」
「言い方よろしく無いけど、まあ大体そんな感じだな。学校なんてそんなもんだ」
エルシオはカメラで授業風景を撮影。
そんなエルシオを遠目に見ながら、楓はターゲットを探していく。
踏み出すたびに流れ込んでくる学校生活の記憶が、楓の心を蝕む。
まぶたを閉じて深呼吸をし、呼吸を整え前を見る。
ーーーーーーーーーーーー大丈夫だ。俺はもうこの世界には戻らない
4階への階段を上がっていく途中、さっきの記憶喪失を思い出し、
「なぁ、死んだ人間の記憶が一部だけなくなるなんてことザラにあるのか?」
少し離れて歩くエルシオは考えるように顎に手を触れた後、質問に答える。
「んー。そのように、記憶を消す魔法は確かに存在しますが、それがどうかしたのですか?」
魔法。生きていた頃、よくゲームで使っていた、現実では有り得ないスペックだ。
しかし、天使やゲートを目の当たりにした楓はもう魔法の存在を疑うことなどは無かった。
なんでもない、そう答えると、魔法という単語を聞いた事で男子ならではの好奇心が働いてしまう。
「魔法って、お前も使えるのか?」
よくぞ聞いてくれた。と言わんばかりのドヤ顔を楓に見せつけると。エルシオは自慢げに、
「も、もちろんなのです! 初級魔法ならチョチョイのちょいなのです!」
先程までどこか冷たかったエルシオは、割とちょろい。
階段を登りきる最後の段を飛び越え、興奮した彼女はそう答える。
意外な反応だったため少し戸惑ったが、楓はさらに質問を重ねる。
「初級ってことは、上級は?」
「じょ、上級は私にはまだ使えないのです」
「んじゃ、中級は?」
「中級なら、少し・・・・・・少しなら出来ると・・・・・・思います。すみません出来ないです」
「初級って何が出来るんだよ」
「杖を持ち、振ることによって音が出るのです」
「・・・・・・」
段々と声が小さくなっていき、俯いて顔を赤くさせるエルシオ。少し沈黙が続いた後、楓は質問を続けた。
「じゃあ、さっき言ってた記憶を消す魔法も使えるのか?」
「そ、その魔法は使ってはいけない魔法なのです。それに、使える天使がいるという話は聞いたことありません」
楓の質問を聞き、そう答えるエルシオ。
キーンコーンカーンコーン
「な、なんの音っ」
不安げに身構えながらチャイムの音を怖がっているエルシオからは可愛らしさがあふれている。
「これはチャイムって言ってな、この学校の決まった時間に鳴って、それぞれの授業を区切ってんだよ」
そ、そうなのですか。と、肩の力が抜けて、ホッとするエルシオもまた可愛かったが、そんな事を考えている暇などない。
「とりあえず、古田知恵ちゃんを探そう」
「それならあの子なのでは?」
そう言いながら、エルシオが指を指した方向には、授業が終わり、休憩時間に教室から出てきた生徒達に混じり、アイボーンに映る少女と瓜二つの生徒がいた。
「あれだ! 行くぞ!」
早くも見つけたターゲットを見失わないよう、素早く追いかける素振りを見せたが、後方のエルシオは何故か乗り気ではない。
「早く行かねえと! 見失っちまう!」
「粉のかけ方は知っているのですか?」
「あ、え、いや」
「はぁ。ですよね」
ため息をついたエルシオは、楓に背に背負っている壺を指差しこっちに下ろせと指図する。
今まで、背負っていることも忘れていたような軽さの壺を、重量に見合わないよっこいしょと言う掛け声を発しながら、エルシオの前に置く。
「エフィルロからどこまでこの仕事のやり方について聞いているのですか?」
「そこのコップに決まった量粉を入れて、人にぶっかけるってどこまでしか聞いてないな」
なるほどと微笑し、呆れながらも慣れた手つきでコップを手にしたエルシオは、ツボの中身をコップに注いでいく。
「決まった分量まずこうやって入れるのです。その後、この粉をかけたい人間にドサッとかければ、かからずに落ちてしまった粉も、自然にその人間に集まる仕組みなのです」
「へぇ、便利な粉だなあ。ある程度かかるように適当にかけちまえばいいってことか」
はい、とエルシオは頷き、今はもう見失った少女に粉を振りかけるため、楓に粉の入ったコップを差し出す。
「これでぴったりの粉なのです。ターゲットにかけてくるのです」
「それはそうとお前、やけに仕事なれしてんなぁ、この仕事いつからやってんだ?」
まだ話してなかったですねと前置きし、短い髪に手を入れながらエルシオは口を開く。
「エフィルロのお手伝いに昔から来ているのです。だから粉の扱いには慣れているのです」
「学校のチャイムには慣れていない様だけどな」
「うるさいのです」
茶化されたエルシオが、本気で怒っているのをを見て、楓は微笑。
出会った頃よりも二つの意味で距離が縮まってきたところで、楓はずっと聞きたかった事を口にするか迷っていた。
人間と昔何かあったのか?
そんな質問を、今エルシオにしてしまったら、エルシオはどんな反応を見せるのだろうか。
理由もなく人間を避けることなど、普通は無いはずだ。
それは、楓自身が人間を避けているのに理由があるから分かる事である。
その理由は、楓にとって思い出したくはない過去で、今は思い出すことが出来なくて辛い思いをしないでいるが、エルシオはどうだ。
その理由を思い出した時、心の傷を抉ることになるのではないか。
そんな不安が楓の頭をよぎる度、質問を投げかけることが出来なかった。
しかし、
知りたい。エルシオが何故楓を避けているのか、間に壁を作るのか。
そんな探究心が楓の心に揺さぶりをかける。
「あ、あのさ・・・・・・」
楓は心に決心がつかないまま、とりあえずなにか話そうとするが言葉が詰まる。
その時、エルシオは楓の意図を悟ったのか、先ほどとは打って変わった暗い表情でこう答えた。
「私は、人間が嫌いなのです。さっきはそうでないと言いましたが・・・・・・」
唐突に声のトーンが下がった事もあり、何も言えずただエルシオを見つめる楓。
「だ、だから・・・・・・」
なにか話そうとした寂しげな表情を見せるエルシオ。そんな彼女が続ける言葉など、想像することは容易だ。
仲良くはできない。避けなければならない。壁を築かなければ。距離をとらなければ。
エルシオからそんな言葉を聞きたくはなかった。
例え人間が嫌いでも、せめて楓とだけは友達でいて欲しかった。
思わず、微笑みながら自分の思いを語ろうとする楓。
自分と、同じような境遇に立つ天使を、放っておく事は出来なかったのだ。
「俺もだ、俺も、いつからか母さん以外の人間とは仲良くなんてしてなかった。まあ、俺は嫌いって言うより、怖かった、かな」
いつからか、そうは言ったものの、おおよそいつからかは分かっていた。
父を殺した犯人が憎い。そしてそんな、同じ人間を殺してしまった人間に、恐怖を感じるようになったのだ。
本来仲間であるはずなのに、なぜ人間は人間を殺すのか。
あの事件以来、母以外の人間を信じられなくなった。
いつ何処で、急に包丁で刺されるか分からない。
電車を待っている時に、後ろに並んでいる人に押され、線路に落下してしまうなんてこと、普通は考えない。
それは、絶対的信頼を、同じ人間としてお互いに得ているからである。
だがそんな信頼は、父が殺された時にきれいさっぱり無くなった。
信用できるはずがない。
そこで1つ、今の楓にあるはずの無い感情が生まれていることに、自分自身で気がついた。
首を傾げ、こちらを見つめるエルシオの不安そうな顔を見て、初めて自分の目から涙が溢れていることを知る。
楓の中に現れた感情、それは、
「な、なんで、父さんが死んだのは、犯人が殺したからだろ・・・・・・? なんで俺がこんなにも・・・・・・罪悪感でいっぱい何だよ・・・・・・」
胸が熱い、苦しい。
隣で俺の名前を叫ぶエルシオの声が聞こえる。心配してくれているのだろう。だが、今はそれどころではない。
父が死んだ瞬間の事は何も思い出せないのだ。その、罪悪感の意味さえ楓の頭から消えている。
残っているのはただただ罪悪感のみ。
父親が亡くなり、苦しみや悲しみで埋まるはずの楓の心は、何故か罪悪感で満たされていた。
訳も分からない感情に混乱し、抱えた頭の中が真っ白になったのには、もう一つ理由があった。
先程、父の事を思い出していた時に感じた違和感、それの答えは罪悪感の出処を記憶の中から探っていた時に見つかった。
思い出せなくなったのは、父が死んだ瞬間だけ、そう思っていた。
だが、実際は違ったのだ。
「父さんが、思い出せない・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーなんで・・・・・・
小さい頃、父と遊んでいた事を思い出す。しかし、父の顔だけが、ぼやけて見えない。
葬式の遺影だってそうだ。顔が見えない。
もう、父がどんな人間だったかさえ忘れてしまっていた。
ーーーーーーーーーーーー行かないでくれ、頼む・・・・・・
記憶の中の父は楓から背を向け、暗闇に向かって歩いていく。顔も名前も、性格も言動も行動も、楓の頭の中には残っていない。
ーーーーーーーーーーーー待って、待ってよ父さん!
楓の呼びかけに反応する素振りは見せない。
振り向く事はなく、だんだんと父の影は見えなくなっていく。
ーーーーーーーーーーーーそんな・・・・・・せめて、顔だけでも・・・・・・父さん! 父さん!!!!
暗闇に轟かせた楓の叫びは、父と共に暗闇へと消えていった。
それと同時に、楓の記憶の中の父親は、存在し、亡くなってしまったと言う事実、そして謎の罪悪感以外、ぷつりと消えて無くなった。
「・・・・・・ん?」
いつから寝ていたのだろう。そしてここはどこなのだろう。
目を開けて見つめた先には、見慣れた自分の部屋の天井があるとばかり思ってしまう。
だが実際に目線の先に現れたのは、安心した目つきでこちらを見つめるエルシオだった。
「ふぅ、やっと起きましたか、驚きましたよ、急にぶっ倒れたので」
「悪いな・・・・・・ちょっと頭真っ白になっちまって、てか!? これって膝枕じゃ!!」
「え? あー、はい。この世界の枕を使ったとしても、カチカチですよ、形は変化しないので。なので、仕方なく私が枕になろうと思ったのです」
「天国かよ、ここは・・・・・・」
「えーっと、寝ぼけてますか? ここは人間界ですよ?」
頭を上げるのを躊躇う程の枕から頭を上げ、状態を起こすと、ぐるりと周りを見渡す。
楓は階段の踊り場に寝かされていた。
そこから見える窓の外には太陽が見え、今は南中して少し時間が経った頃だろう。
そして、夢で見た父の事を思い出す。
先ほど取り乱してしまった楓だが、一度寝れば落ち着く。その時見た夢。父が離れていってしまう夢の意味を、冷静に考え、答えを見つけ出すことが出来た。
楓の記憶に、父はもういない。
残るのは父がいた。という記憶だけ。
顔も、名前も、性格も、何も思い出せない。
そして、記憶に残った父についての感情も、一つだけ。
「罪悪感、その正体が掴めるまで・・・・・・生まれ変わったりは出来ねえな」
「何をひとりでブツブツ言っているのですか? それより、先程の話の続きをお願いします。あ、あの、話したくない内容なら、話さなくて構いませんので……」
少し考えた後、楓はどんな話をしていたのか思い出す。
「あぁ、人が怖いって話か、まあ今は怖い理由も覚えてないし、そんなに怖くないけど・・・・・・ってこれ、そんなに気になる?」
「い、いえ、気になると言うより・・・・・・嬉しかったのです」
俯きながら照れくさそうに、顔を赤くしてそう言ったエルシオはポカンとしている楓を見て、決まりが悪そうに、更に赤面。
「私、人間が嫌いなんて言ったら、あなたは怒ったり、私に敵対意識を持ったりすると思ったのですが、実際はそうではなく、寧ろ、自分と同じ境遇だと、そのような事を言ってくれたのです。
どんな事情があったかは分かりませんが、嘘でないと言うことは重々伝わってきました。人間と言うものはもっと醜く、軽蔑すべきだと思っていたのですが」
首を傾け、短く明るい髪をゆらっと揺らしたエルシオは、緩んだ笑顔でこう続けた。
「こんな人間もいるのですね」
目の前で照れながら、明るい笑顔でそう言い放ったエルシオはとても美しく可憐で、その首にかかったカメラでおさえておきたいほどだった。
「本当に人間を嫌いな奴は、人間にそんな笑顔出来ねえよ・・・・・・」
そう言葉にしてしまうほど、彼女のその笑顔からは、人間への負の感情は感じられなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「父親が。殺されたんだ人間に」
仕事中であるのにも関わらず、すっかり雑談ムードになり、どうでもいい話をしているうちに、暗い話ではあるけどと前置きし父親のことを話し始めた楓。
まだエルシオには話していなかった事だ。さっき取り乱していた理由も話すべきだと、楓は感じる。
こんな話を他の誰かにした事があっただろうか。
人間に恐怖を抱いた楓はいつしかそんな話をする友達すらも、つくるのをやめてしまったのだ。
「それは、酷いです・・・」
自分が話した内容をを聞き、自分の事のように悲しんだり、苦しんだりしてくれる。今までそんな経験、たった1人の母親と、2人の天使と話した時しか積めなかった。
たった3人、いや、きっと父親とも、そんな話をしたのだろう。
「そんでもって、俺は父さんの記憶が消えちまった。だからもう、父さんのことを思いだせない。父さんがどうやって死んだのかも思い出せないわけだけど・・・・・・強盗が入ってきた事は覚えてるから、まあその時かな」
「エフィルロなら、人間の記憶の一部を消す事ができるかもしれないのです。先程、そういった魔法を使える天使がいないと話しましたが、私の身近に1人だけ、まだ使える魔法を知らない天使がいたのです」
「それがエフィルロってわけか」
もし、エフィルロが記憶を消したのであれば、全ての辻褄が合う。
しかし、問題は・・・・・・
「ですが、動機がないのです。そもそも、死んだ人間の記憶操作及び記憶消去は天界の法律で禁止されているのです。そんなリスクを犯してまで、エフィルロがあなたの記憶を消すとは、到底思えないのです」
「そんな法律がある事は知らなかったが、そんな事をしても、フィロにメリットがないことは分かってた。フィロが魔法を使った線は殆どなし、かな」
「はい。そうなります。そもそもエフィルロがそんな魔法を使えるかもわからないのです」
結局結論に至らないまま時間だけが過ぎていく。
そして、先に本来の目的を思い出したのは楓だった。
「やべっ。こんな話してる暇ないだろ俺達。さっさと仕事終わらせねえと」
「そうですね! エフィルロと一緒の時はすぐ終わるのですが・・・・・・さっき用意したコップもまだありますしこのままスッと終わらせちゃうのです!」
軽く楓をディスった後、楓は、なぜか少し前よりも張り切っているエルシオの隣を歩きながら、周りを見渡しターゲットを探していく。
キーンコーンカーンコーン
少し音に驚き、ビクッとなり赤面するエルシオの横で、今のチャイムでお昼の休憩に入った中学の生徒達の中を目を凝らして伺う。お弁当をカバンから出す生徒たちの姿が見える。
その中から一人の少女を見つける事は、このさほど大きくもない中学校なら簡単な話だ。
ましてや先程どこの教室から出てきたかも見ていて、その教室の中を覗いているのだ。1クラス30人から40人程だろう。見つけることは容易い。
しかし、一向にその少女の姿は見えない。
「あの子、どこに行ってしまったのですか? この教室で間違いないはずなのですが」
大体の生徒が教室に戻ってきて、お弁当を食べだしたところで、教室に並べられた机と椅子の中で、一つ席の空いている机があるのを見つける。
「なるほどな・・・・・・」
「なにか分かったのですか?」
その机にはいくつかの落書きが見える、それは年頃の女の子が描く可愛げのある絵ではない。もっと醜く、酷いものだった。
「んまあ、何があったか知らんけど、この粉で状況が良くなるってんなら最高だな」
背に背負った壺を撫でながらそう呟く楓。
なにか分かったなら教えてくださいと、言わんばかりのエルシオの膨れた顔を見ながら楓は微笑。
中学校時代、楓も同じような境遇だったとはいえ、あそこまで酷い事はされていなかった。
なぜなら、
楓は自分が周りを避けていたためできた孤独。
しかし、今頃1人でランチの少女は、きっと、周りが自分を嫌ったためできてしまった孤独なのであろう。
アイボーンには、その少女に何故粉を振りかけなければならなくなったのかが分かる機能がついていると、さっきエルシオが言っていた。
その教室から離れ、ターゲットを探すため歩いている間に、その機能を使っておおよその理由を掴んだ楓は、一室から泣き声がするトイレを見つけた。
「女子トイレに入るのは気が引けるな」
いくら向こうから見えないとはいえ、こっちから見えてしまうのだからそこはルールに従うべきだと、女子トイレに入ろうとしない楓。そして、楓から粉の入ったコップを受け取るエルシオ。
「確かに、ここであなたが入ったら変態ですね。初めての仕事なので私がやるべきではないと思いますが・・・・・・ まあ仕方が無いですね。私が行くのです」
その間、古田千恵に訪れる幸せはどんなものなのかを考える。
アイボーンを手に取り、粉をかけ無ければならない理由を見る。
彼女は元々、イジメをする側だったのだ。
今彼女が受けているような事を、昔彼女は他の誰かにしていた。
だが、イジメを受けていた他の誰かは、幸せの粉の影響でイジメから奪還された。
すると、幸せの粉は、虐めていた人々の中心になっていた古田多恵を、次のイジメの対象に仕立てあげたのだ。
何とも酷な話だ。
この粉は、あくまでその人を幸せにするためだけの粉。
決して、周り全体の状況が良くなったりなんてしない。
今回も、次の対象に変わるだけなのかもしれない。
それでも・・・・・・
「まあ、信じるしかないよな」
「何故彼女はトイレに?」
「きっと辛いんだよ、今は。仲良くなれるといいな。俺には、そういうのわかんねーけど」
「そうですか。 所詮人間なんて・・・・・・そんな者なんですよ」
楓の発言の意味を理解したのか、そうでないのかは聞いて見なければ分からないが、エルシオの言葉を聞く限り、理解したようだ。
「んじゃ、行くか」
粉をかけ終わったエルシオがトイレから出てくるのを見届け、そう声をかける。
エフィルロはこの仕事について、やりたくてやっているわけじゃないと言っていた。
その意味が理解出来た気がする。
きっとこの先、何度も粉をかける度、その幸せの踏み台になる人間が幾度となく出てくるのだろう。
そんな人間全てにこの粉をかけていくのであるとすれば・・・・・・
「天使ってのは大変だな」
天界に帰るため、エフィルロに言われたアイボーンのボタンを押す。
しかし、何も異変は生じない。
「ん? なんも起こんないけど」
「あぁ。それは天使にしか使えませんよ!」
「くっそやろぉぉおおおおおお!!」
エフィルロの適当さに怒りのツッコミをかましつつ、ゲートを開いてそこに入ったエルシオに続き、楓もゲートへ飛び込んだ。