4話 初めての仕事
この辺りから面白くなっていくかと…多分……
4話です。宜しくお願い致しますm(__)m
ーーーーーーーーーーーーん?ここは・・・・・・?
いつの間にか、知らない公園に1人で立っていた。日の出方からして恐らく午前10時頃だろう。アイボーンには時間が分かるような機能が付いておらず、日の出方から読み取るしか無いことに不満を感じながら、空を見て目を細める。
久しぶりに太陽の日を浴びたせいかとても眩しく感じた。
「帰ってきたか・・・・・・」
突然、ポケットからバイブ音がなりだす。中からその音源を取り出すと、画面には応答の文字があり、それを押すと聞き慣れた声が聞こえてきた。
『電話に出られるって事は、無事そっちに着いたみたいね』
「あぁそんな気がするけど、電話って言っちゃったよ? いくら人間相手だからってそこアイボーンじゃなくていいの??
んで、ここどこだ? そもそも誰に粉かければいいんだ?」
『まあ落ち着きなさいよ。とりあえずでん・・・・・・アイボーンに詳細は送っておくから、それを見てそこから移動して』
了解と、一言電話越しに告げると楓は少し緊張している中、初めての仕事を開始した。
アイボーンの画面には地図が載っており、その地図の中に点がひとつマーキングされている。
「この点の場所にターゲットがいるのか」
アイボーンを凝視しながら、ここからそう遠くもないその場所に向かうため、楓は歩き出す。
なんか飛べたりしねーのかなぁ、天使だったら翼生やして飛んで天使っぽく仕事出来んのに。
そんな理想を思い浮かべながら、のんびりと地図を頼りに歩いていく。
痛てっ
足元をみると、小学生なら蹴飛ばして遊ぶ様な石ころがころがっている。
足をその石にぶつけて躓いたのだが、石はびくとも動いていない。
物を動かせないってのはそういう事か。
この世界のものを動かせないと言う事を身をもって体験した楓は、目的地まで足元に注意してむかった。
20分ほど歩いただろうか、今まで何人かのおじいちゃんおばあちゃんとすれ違っているが、挨拶をして返事が返ってきた回数はゼロだ。試しに肩もみをしてみたが、硬すぎて揉めない。
挨拶の件はただ単にじじばばに嫌われているのか、本当に向こうからは見えていないのか、そのどちらかだが、この場合確実に後者だろう。
そうじゃなかったら・・・・・・うん、悲しい。
この辺りは住宅街で自然が少なく、都会までとは言わないが、田舎でもない。
微かに流れる風に吹かれながら、楓はまだ少し胸にある不安を押し殺しながら進んだ。
マーキングを目印に歩くこと30分、たどり着いたのは中学校だった。
動かないターゲットという事で少し予想はしていたが、まさか本当に学校とは。
校門を乗り越え、中に入っていく。
校舎に取り付けられた時計はあと少しで10時50分になる頃だ。
周りを見渡してみると、この学校で飼っているであろう亀が目に付く。
そんな、懐かしい中学校の風景を目にした時、ふと、楓は自分が中学の頃を思い出す。
中学の頃、楓は部活には入っておらず、学校で授業を受けること以外特にやることは無かった。
ただでさえ人付き合いを避けていた楓にとって、学校なんて場所は息苦しくてしょうがなかった。
朝起きて弁当を作り、朝ごはんを食べず家をでて、学校に行き、授業を受け、特に誰かと話すわけでもない休み時間を過ごし、1人で帰宅して、自分より帰りの遅い母の帰りを待ち、母と共に夜ご飯を食べたあと、風呂に入り寝る。
そんな毎日、思い出したくなんかなかったんだけどな。
友達なんて一人もいなかった。学校で飼っていた兎とお話するぐらいだ。
自称いい奴が気を使って話しかけて来るなんて事はあったが、そんなのは余計なお世話だ。
小学校低学年ぐらいの時は、友達も多く、楽しい日々を送っていた楓。
それなのに何故、中高では1人を好んで生活していたのか。
答えはもう既に楓自身の心に出ている。
人間が怖いから。
それは、父さんが死んだ事が関係していて、楓に友人がいなかった理由の答えだ。
頭の中で楓は自分の父について思い出す。
父さんが死んだのは、俺が小学四年生の時だった。
ーーーーーーーーーーーー確か夏の夜だったっけな、外で花火の音がして・・・・・・
外を見ようとした時だ。
家の中に強盗1人が押し入り、買い物に出掛けていた母は助かったがそこにいた父と俺は・・・・・・
ーーーーーーーーーーーーん・・・・・・?
嫌な記憶を呼び覚ます中、あることに気づく。
ーーーーーーーーーーーー俺、なんであの時殺されなかったんだっけ・・・・・・
ーーーーーーーーーーーー何も思い出せない。
「なんで・・・・・・」
強盗が押しかける前、母が買い物に行ったことは覚えている。
父の葬式に行ったことも覚えている。
なのに・・・・・・
すっぽりと、父が死んだ瞬間。楓が殺されなかった理由。その二つが俺の記憶から消えていた。
それ以外の記憶は、全て残っているはずだ。
楓が死ぬまで、たしかに頭に入っていたはずの記憶。それが何故か消えていた。
「なんで、思い出せないんだ・・・・・・。そんでもって何なんだこの違和感は・・・・・・」
父の事を思い出す度感じる違和感。
それよりもまず、何故か消えてしまった記憶。
しばらく頭を抱え座り込み、考え、冷静さを取り戻すと、答えを一つひねり出す。
「グダグダやっててもしかたねえ。忘れちまったんだ。わかんねえ事は、後でフィロに聞けばいい」
楓は本来の目的に沿って行動を開始する。
父が死んだ瞬間の記憶など、思い出したくない記憶だ。忘れてしまって良かっただろう。
だが、楓が殺されなかった理由。
大事な気がして仕方がない衝動を無理やり抑え込み、楓はコンクリートへ足を踏み込む。
アイボーンを見てみると、マーキングが近くなったからか、その人間の詳細が表されていた。
女性、中学3年生
名前は古田 千恵
便利だなぁと、顔写真までついたそのプロフィールに目を通しながら、運動場に差し掛かったその時、
ーーーーーーーーーーーーえ・・・・・・?
目の前に一人の少女が立っていた。
「あなたがかたやまかえで、ですか?」
そう呟いた少女はとても可愛らしい女の子と言った感じで、中学生だろうか、しかし、制服は来ていない。演劇とかで貴族が着てそうなそんな服を身にまとい、楓の方を向いたまま首を傾げている。
そして、肩にかかるかかからないかぐらいの茶髪のショートカット。首にカメラをかけているのがよく目立つ。
そんな女の子に目の前で名前を呼ばれるだけでも、感激と感動で気持ちが溢れるはずなのだが、今は違う。
ーーーーーーーーーーーー話がちげえ・・・・・・
周りの人から楓の姿は見えない。そう、エフィルロは楓に言ったはずだ。
それに、ここに来る道ですれ違った人は挨拶をしているのにも関わらず、挨拶を返さなかったし、目すら合う事は無かった。
つまり本当に楓はこの世の生き物からは認識されていない。
その理屈から、この場で少女が楓に話しかけてくることなど有り得ない。
さらに、彼女は楓の名前を知っている。
ならば残された答えはひとつ。目の前の少女は、
あっちの世界の住人だ。
だとすると、この状況はかなり不味い。
もし、目の前の彼女が天使で、楓の事を人間だと認識したのであれば、この状況は彼女にとって見逃す事の出来ない状況であるはずだ。
「なんで俺の名前を知ってる?」
女子と話すスキルは、ローズベルクで習得済みだ。前までの女子と話す時オドオドしてしまう楓とは違う。
だからこんな美少女を前に、冷静に質問を投げかける事が出来たのだが。
それを聞き、クスッと笑った彼女の笑顔を見て、不覚にもドキッとしてしまい、彼女から目をそらす。
「エフィルロ・・・・・・何も伝えてないのですね 」
彼女の呆れた顔と言葉を目と耳で確認すると、大体の状況が掴めてきた楓は胸をなでおろし、彼女に状況の説明を求める。
「んー、とりあえず、私の名前はエルシオ。エフィルロに頼まれて、ここに居るのです。あ、こう見えても天使ですよ?」
そう名乗った天使エルシオはここに来ることになった経緯を語り出した。
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二十分後
「と、言うことで、エフィルロに無理やり、そしてこんな事になってしまったのです。
人間と2人なんて嫌なのです・・・・・・エフィルロめ。 天罰を与えてやるのです」
前半の話し方のトーンが妙に重くて傷つく楓だが、天使にも色々あるのだろうと、とりあえず納得。後半のそれ、天使だとリアルで結構怖いんだが。
「あ、あぁ、よく分かった」
ですですうるさい口調はさておき、
彼女、天使エルシオは天使エフィルロの仲間らしい。日本でいう上司と部下って感じだ。
エフィルロが上司でエルシオが部下。そんでもって、エルシオはエフィルロにこき使われているらしい。
今回、楓がこっちの世界に来ることがどうしても心配になったエフィルロは、自分で楓に仕事の仕方を教えるのは面倒だと感じ、部下のエルシオに楓の事を見守ってこいと頼んだのだ。
最初は断ったそうだが、上司の権限とやらを使われたらしく・・・・・・
「何でよりによってこんな男の・・・・・・さっさと終わらせるのです」
「おい」
いつの間にかイライラの矢先がエフィルロではなくなり、軽く楓が悪態をつかれている気がするが、まあそんな事はいいだろう。
楓は手を叩き、行こうかと合図する。
背を向けた楓の背負った壺を見たエルシオは、驚いたように楓に質問を投げかける。
「その壺、エフィルロがあなたに渡したのですか?」
質問の意図が分からず、ぱっとしないまま、そうだけど、と答える。
「まあ、それがないと仕事出来ませんもんね」
少し動揺しながら答えるエルシオに少し疑念を抱いたが、とりあえず気にしないことにする。
エルシオは、楓の隣をトコトコと頑張って歩幅を合わせて歩いている。なんて、天使とは可愛げのある生き物だと思っていたが、現実は違う。
エルシオは、楓が歩く後ろを着いてくる。が、少し後ろというわけでもなく、エルシオは楓の20mほど後ろだ。
校庭を突っ切って、校舎の入口に立つ。
後ろを振り返ると、急に止まった楓を見て、少しばかりつまづきそうになりながら、エルシオもピタッと止まる。
「おーい! なんでそんな後ろ着いてくるんだよ!」
「私は見守るのが仕事なので。 それに、あなたの隣歩いててカップルだと勘違いされるのだけは避けたいので」
ーーーーーーーーーーーーこの野郎・・・・・・誰にも見えねえだろうが!
その時、アイボーンにエフィルロからエルシオの事が今頃メールで送られてきたことなど気が付かず、楓は校舎に入っていく。
後ろの方でエルシオが、首から下げたカメラで校舎の入口の写真を撮っている。
「カメラなんて、天界にもあるんだな」
歩いて近づいていく楓から離れようとする素振りは見せたが、諦めたように問いに答える。
「か・・・・・・めら? これはカメラと言うのですか。 貰い物なので知らなかったのです・・・・・・」
そうかと頷き、楓は進んだ先にある階段を登ろうとする。その時、エルシオはゆっくりと口を開き、
「人間・・・・・・なんて」
そう、カメラを見つめ悲しそうにエルシオは発した。その声は楓には届かなかったが、辛辣な表情を見た楓には、その声が届かなくとも、大方エルシオの感情は理解出来た。
「なあ、人間嫌いか?」
「い、いえ。そんなことないのです」
会った当初から感じてはいたが、エルシオと楓の間に何か壁があるように楓は感じていた。
どこか、人間を避けているような気がするのだ。
適当に理由をつけてその場をしのいではいるが、楓と距離を置いているのは、もっとほかに理由があるのではないかと思うほどだ。
元々天使と人間なんて仲良くなれるとは思えないが、エフィルロとエルシオでは、人間に対する態度がまるで違っていた。
だが、楓は誰かに避けられたり嫌われたりするのは慣れっこであり、宿命でもあった。
そんな楓が感じた嫌悪感だ。間違いであるはずがない。
ーーーーーーーーーーーー嘘をつくのが下手なんだなあ、天使は。
そんな事を思いながら、楓は先に進む。
まだ出会ったばかりの、可愛い天使を後ろに引き連れながら。
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