3話 天使の仕事
3話です。宜しくお願い致しますm(__)m
「」内最後の句点を消すため、編集しました。
「フィロ、それどっから持ってきたんだ俺にも見せろよ」
あれからどれぐらいの時間が経っただろうか。
先程まで真剣な話をしていたはずなのに、
天使エフィルロは呑気に床に寝転びながら、どこから持ってきたかも分からないあっちの世界でいうマンガのようなものを読んでゲラゲラ笑っている。
「いやよ、 これは私が図書館から借りてきた今キテル面白いヤツだもの!!」
今キテル面白いヤツがどんな内容なのか気になって仕方なかったが、タイトルが『私と天使と鳩』なのを見て興味が一切なくなる。いや、一周まわって読みたくなってきた。
以前、ほかの天使に見つかったらどうなるか分からないと言われたのを思い出し、俺も図書館行ってきていいか?と問うのは愚問だと察し諦める。
ーーーーーーーーーーーーん?
「なあ、フィロおまえ、この部屋からどうやって出たんだよ」
「ゲートを使ったのよ」
へーと、興味なさげに返事をする。天使や魔法の粉の話をされてからは、そんなもので出入りするのだろうと薄々感ずいていた楓は、もうそんなことでは驚かない。
彼女が部屋から出ていったことに気がついていないのは不自然に思ったが、
少しして俺が寝ている間に借りてきたのだと言われ納得。エフィルロから目を離しぼーっと横になりながら天井を見つめる。
「俺、もう丸一日はここに居るのか」
ポイントを貯めるためにはどうすればいいか、そんな事は今楓が自力で考えてどうにかなる問題ではなかった。考える事を放棄したのは、考え始めてから2、3分と言ったところか。集中力など生きている頃から皆無だった楓にとって、難しいことを考えることは苦痛でしかなかった。
「はあ~、まあ何にせよ、学校行かなくていいってのは、幸せだなあ・・・・・・」
楓が事故にあったのは朝8時ぐらいだったはずだ。それからすぐにここに連れてこられたのだとしたら、楓は昨日、朝から夕方までフィロとたわいのない話からとてつもなく重要な話をした後、疲れきって床に横になり眠ってしまったのだ。
この時間に疲労に耐えられず眠ってしまうと、大体楓は朝まで起きることは無かった。
つまり、楓はこの謎の部屋で1晩過ごしてしまったのだ。
起きた時に枕に頭が乗せられ、身体に毛布をかけてもらっていた楓は、彼女の優しさを感じつつ、俺にも漫画を貸してくれればと、妬みをぐっと堪えて今に至る。
「なぁ、フィロは俺以外の死んだ生き物の面接はしなくていいのか?」
「楓がここに居るのにやれる訳ないでしょ? 私は天使よ。楓が生まれ変われるまではここにいるわ」
俺のせいかよと、突っ込みながら、あることに気がつく。
ここに来てから一切食欲がない。だからか、尿意も便意も感じない。
その事から、自分は死んだのだとより一層身にしみて感じる。
そんな中、ただ天井を見つめる事しかできない楓は天井のよくわからない模様をぼんやり眺めていると、
「私ね、考えたんだけどさ」
いつの間にか漫画を床に置き、楓の方を向き正座をしているエフィルロの口から、唐突に真面目な表情で声をかけられる。
なんだよと、事の重大さを悟った楓が返事を返すと、彼女はゆっくりと口を開き、
「天使のお手伝いをしてくれないかしら?」
「先程までマンガすら貸してくれなかった天使が手伝ってくれなんて図々しいにも程があ」
「そうすればポイントが貯まると思うの!」
「図々しくないですむしろ最高です」
「そうよねぇ・・・・・・ポイント貯めたいわよねぇ?」
エフィルロの手のひらの上で踊らされている感じがして嫌気がさすが、ポイントを貯めて生まれ変わるためにはそれしかない。
いや、生まれ変わらなくてもいいんじゃないのか?なんて考えは、天界法なんちゃらのせいでほとんど消えていた。
「別に、楓がここにずっとここに居ても少し邪魔なだけで嫌ではないけど・・・・・・」
何故か言葉のジャブをくらわされた楓は、少しイラつきながらも続きを求める。
「さっき図書館で調べてきたら、 天使以外の生物が長時間、 まあ具体的には3年間、 天界にいると・・・・・・その生き物は消滅するって書いてあったわ。 どういうメカニズムかは知らないけど、 これに関しては間違いないわ」
それを聞いた楓の頭からここに残るという考えが綺麗さっぱり無くなった。
さらに、自分がどれだけ追い込まれているかを悟った。
もし、あと3年以内にポイントを貯められなかったら。
そんな事を考えているうちに、ある疑問が生じる。
「天使以外の生き物が3年間ここに居なきゃわからないような事、どうやって知り得たんだ?」
「それについても書いてあったけど、昔、死んだ人間を天界で監禁してたらしいわよ。昔の天使って怖いわね。消滅してしまったら・・・・・・まあとりあえず、 ここに留まるのはオススメしないわ」
「天使の手伝いって、一体何をすればいいんだ?」
思わずそう即答する。
当たり前だ。消滅なんてしてられるか。
ポイントを貯めてやる。そう決意した。
「簡単よ、天使の粉を使って生きている人間の幸せを調整するの」
ーーーーーーーーーーーーん?
「ちょっと聞こえなかった、もう1回」
「だーかーらー。かえでが、生きている人間達のところへ行って幸せの粉をかけるの! 私の仕事は二つ。死んだ人間の面接と、生きている人間への粉追加よ」
いまいち理解の出来ない楓に対して、少しキレ気味で話す彼女を見つめ、彼女言ったことを少しずつ理解していく。
数秒後完全に理解した。
「いや! 無理でしょ! 俺天使じゃないし!? 他人に謎の粉かける趣味とかないし!? そもそもフィロの仕事だろ!?」
「私だってそんな趣味持ってないわよ! それに、仕事といっても別に、 好きでやってる訳じゃないの・・・・・・でも、誰かがやらなきゃいけないの」
少し語尾が小さくなり寂しげな雰囲気を醸し出し俯くフィロだが、彼女はすぐに楓の方を見ると、だからお願いと、ウキウキしながら言ってきた。
情緒が不安定なのは置いておいて、本来天使のやるはずの仕事を俺がしても大丈夫なのか?そもそも俺は元の世界に行くことが出来るのか?などと、様々な疑問が生まれる中、彼女は今後の楓に課された仕事内容について、まだやるとも言ってないのに説明してきた。
「は、 はぁ・・・・・・」
とりあえず、楓は人間界に行き、人間に粉をかけていくらしい。
何故か鼻を高くして自分の仕事内容の説明を続けていくエフィルロ。
楓はエフィルロに指定された人間に粉をかけていき、1日1人から3人ぐらいのペースで行うのだという。
「んじゃカマキリにでもかけてみるか」
「カマキリ担当じゃないの、 私」
カマキリ担当もあるのかと、不覚ではあるが笑っていた楓を冷たい視線で黙らせ、次の説明に入る。
ローズベルクに居るフィロと、人間界にいる楓との間に通信機器などはあるのかと問うと、もちろんとエフィルロは答え、こう続ける。
「そんな事は心配ないわ、アイボーンがあるもの」
もういっそ丸パクリで良くないか、それだと目を掃除しそうなんだが、
「アイボーンは凄いのよ! 会話が出来るだけじゃないのよ?」
妙にテンションの高いエフィルロに合わせ、まじか!?と棒読みのオーバーリアクションをとると、エフィルロは満足気に続けた。
「この画面を見る事で、私の指名した人間の居場所がわかるの!」
見せつけてきたアイフォ、アイボーンの画面を見ると、そこには地図が映っていた。
なるほどと、楓は相槌を打つ。
「あとは~、あ! そう! それぞれの人間にかけられる量は決まってるから私の言う通りにかけてね。んーと、これ!」
そう言いながら見せてきたビールのジョッキぐらいの大きさのコップには、三本の線が書いてあり、その横には手書きですこし、ふつう、おおい!と書いてある。
なんかかわいい。
「私が少しって言ったらここまで、多いって言ったらここまで粉を入れて量ってから人間にかけるのよ?」
赤ちゃんのミルクを作る講習みたいになってるがきっとこれは重要な事なのだろう。
だいたいわかったと、エフィルロに告げると、じゃあ早速仕事にと言いたいところだが、一つだけ、エフィルロに聞いておきたいことがあった。
「一体なんのためにこんな事するんだよ。人は生まれ変わる時に幸せの粉を自分の分だけ掛けてもらえるんじゃないのか? それなら、後から粉を追加するなんてずるいんじゃないか?」
ふむ、確かにそうね、と彼女は頷き、少し考え込むような態度をとってから、楓の質問に答える。
「私たち、天使の仕事はそれぞれの生き物に見合った幸せを提供する事なの」
それと同じような話を前にも聞いたことがある。人には生涯集めた自分のポイントと言うのがあり、それによって、何に生まれ変わるかどれだけの幸せを振りかけてやるのかが決まる。
しかし、何故追加する必要があるのか、肝心なところが理解できない楓は、彼女の話の続きを求める。
「でもね、例えば、その人間にとって幸せでも、ほかの人間にとっての不幸に繋がってしまうってこと、あるでしょ? そんな、他人の幸福の犠牲になり、不幸になってしまった人間、つまり、幸せになれるのに、他人の幸せに邪魔されてしまった人間に追加で幸せの粉を振りかけなきゃいけないのよ」
複雑で分かりにくいようで、実はわかり易いその内容を聞き、なるほどと、手を叩く事で、理解をした事を彼女に伝える。
例えその人間に幸せな事だとしても。
ほかの人間にとっては不幸に繋がってしまう
どんな勝負も、勝者がいれば敗者がいる。
トラックに轢かれそうになり危機一髪助けられた子が幸せを感じたとしても。
代わりに死んでしまった人間は不幸なのだから。
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その後、様々な天使の仕事についての説明を受けた。
天使の仕事は主に二つ。
死者の面接と、幸せの粉をかけること。
それらの仕事をして得られる給料は、前にも話したコハクリアという街にある城の、お偉いさんから頂けるらしい。
天使らしい仕事は、前述した二つだが、それ以外にも街で商人などの仕事をして、家族を持ち、幸せに暮らす天使もいるらしい。
面接や粉などといった仕事は、人間界で言う公務員のようなものなのだろう。
仕事の話を受けてから、どれくらい時間が経っただろうか。
時計がないから分からないが、1度眠りについたことから恐らく半日ほど経った頃、ついにその時がきた。
「大丈夫? どうしてもここに帰りたくなってきたり、任せた仕事が終わったら、アイボーンのこのボタンを押してね。一瞬でここに転送されるから。多分」
最後に付け加えられた不安要素はさておき、
心配そうな顔で心配そうに見つめるエフィルロを背に楓は今から日本に戻ろうとしている。
日本に戻っても、周りから楓のことは見えず、楓はあっちの世界の人間には触れる事も、話すことも出来ない。
触れることができないと言うと語弊がある。詳しくいえば、動かそうとしても動かないのだと言う。あっちの世界の生き物でなければ、あっちの世界の物を動かすことは出来ないのだ。
そんな説明をフィロから受けてから少しばかり・・・・・・いや、かなり不安ではあったが、ポイントを貯めるためだ。やるしかない。
「どうやって人間界に行くんだよ」
「そんなの、ゲートを使えば行けるわよ。なるべくターゲットに近いところに飛ばしてあげるわよ。あと、その制服動きにくいでしょ? これに着替えて」
そう言ってたされた服装は、勇者が旅立ち始めた当初のような軽い服装だった。
「俺は見習い勇者かよってんだ」
そして肝心のゲートだが、
もっとこう、禁断の扉とか、七色に煌めく湖だとか、それっぽいゲートがあると思っていたのだが。
ふつうに部屋に出てきた。
フィロの少しの動作と同時に、急に出てきた空間を切り裂いたような穴。
そんな穴にこれから飛び込もうとしている。
「これ! 受け取って」
エフィルロの手には重そうな壺とアイボーン。
貸してもらった服に着替え、アイボーンをそのポケットに突っ込む。
背中に背負えるように施された粉の入った壺を背に負う。その中にはエフィルロの手作りコップも入っている。相変わらず可愛い。
受け取った壺は思ったよりも軽い。と言うかとても軽い。見た目と量に見合っていない粉の入った壺。そんな壺を見つめるエフィルロの目は、どこか寂しげで、この壺はエフィルロにとって大事なものなのだろうと感じる。その目を見た後は、軽かったはずの壺が重くなったような気がした。
出発の準備は完了した。脱ぎ捨てられた制服を拾い上げたエフィルロはこちらを向く。
「これ、洗っとくから。パジャマにしなさい!」
「制服がパジャマって・・・・・・まあ、ありがとな。じゃ、行ってくるよ」
「うん。気をつけてね」
そんなたわいのない挨拶が、何故か心にぐっとくる。
エフィルロの姿はもう会うことの出来ないだろう母の姿と重なってしまう。
「私がいなくて寂しくなってチビるんじゃないわよ?」
「んな事ねえよ」
「ほかの天使に見つかりそうになったら逃げるのよ? こんな事、ほかの天使が知ったら何されるか分かったもんじゃないわ」
「それは・・・・・・ま、まあ大丈夫だ」
お互い笑い合い、互いの顔を見合わせて一息つく。そして、もう行くよと、彼女に告げる。
やっぱりフィロだ。と楓は心の中で呟く。
彼女は楓の友達。楓の大好きな1人の天使となっていた。
今まで何日かここで過ごして、最初は戸惑ってはいたものの、とても居心地がよく、エフィルロと過ごす日々が楽しくて仕方なかった。
そんな彼女との日々は、楓のポイントが増えていくにつれて、最後に近づいていく。
内心に複雑な感情を抱えつつ、手を振るエフィルロを背に俺はゲートへ飛び込んだ。
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「もうすぐ楓が着くと思うから! 後はよろしくね!」
アイボーンを片手に、誰かと電話しているエフィルロ。
『はいなのです。ふー、なんで私がこんなこと・・・・・・』
電話の相手は、いやいや返事をした後、電話を切った。
「私は、人間が嫌いなのに」
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