表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翼のない俺達に幸せの粉を!!  作者: まろ爺
3章 あなたがいる理由
19/19

18話 まだある時間




そこは、星域にある巨木の上に建てられた、1軒のツリーハウス。


「って事は……、この世界の『王』が俺の記憶を消して、ポイントを0にしたってことか……?」


じっちゃんからの返事はなく、エルシオも黙ったままだ。

もし、楓の話した通りだとしたら、全くもって動機が見当たらない。

何のために、楓にそんな事をする必要があったのか。



ーーーーーーわかんねえよ……






しばらく間が空いた後、じっちゃんは真剣な眼差しを楓に向けながら話し始める。


「その可能性は十分にあるで。わしも本当に残っている純天使が今の『王』だけなのかは分からぬ。じゃが、一つだけ言えることがある」


じっちゃんと変わらない、真剣な眼差しを向ける楓は、話の続きを求めるように頷く。


「お前さんが今やらねばならぬ事は、生まれ変わるためにポイントを貯めることじゃ。どうやって貯めるかは分からんが……ん? お前さん達、いったい今どこに住んどるんや?天界で普通に暮らしてたら、人間1人ぐらいすぐ見つかるじゃろ」


「あぁ……俺達はロ……ぶっ!」


「私たちはハクシュウ村に住んでいるんですよ!! 全然見つかりませんよ? ねー!?」


楓の口を強引に左手で塞ぎながら、エルシオは、嘘をつき同意を求めてくる。


楓はエルシオの耳元に小声で、


「……何言ってんだよっ。 なんでそんな嘘を……」


「なに言ってんだよっ。はこっちのセリフなのですっ! 無闇にローズベルクの事を話してはいけません! 私達は今、楓くんがほかの天使達からバレないようにするためにローズベルクに住んでいるのです。楓くんは、天界にいることがバレたらまずい状況なんですよ?」


「いや、でも、もし本当に『王』が俺をここに残したんなら、バレてもいいんじゃ……」


「もし、『王』の仕業じゃ無かったら、どうするもりなのですかぁ??」


顔をぐんと近づけながらのエルシオの気迫に楓は足が竦む。

そうだな。と目をそらしながら告げると、エルシオは満足したように楓の口から手を離し、ニコリと笑顔をじっちゃんに向ける。


「と、とにかく! じっちゃんの言う通り、俺はこれからポイントを貯める。そんでもって、『王』って奴に会って話をする」


「確かに、ポイントを使って生まれ変わる時、王と1度顔を合わせる筈や。話が出来るのはその時になるかもしれんのお」


おう。と答える楓に、じっちゃんは口元を緩ませながら、頑張れよ。と一声掛けた。


その目は暖かく朗らかで、自分のおじいちゃんと話しているようだった。


「この本たち、写真撮っても良いですか!?」


「ええでえ。まあ、古い本ばかりじゃ。撮ったとしてもつまらんじゃろ」


ありがとう。とお辞儀をしたエルシオは大事そうに星刻機を抱え、椅子から立ち上がった。

星刻機を構え、本を撮っているエルシオの姿を見て、星刻機はやはり人間界のカメラとは違うと感じる。

エルシオから聞いた話だが、星刻機は使う天使が目に移したものをその天使が魔力を星刻機に送ることで保存できるというものらしい。

レンズがないのも、そのためだろう。

つまり、楓には星刻機は使えない。

楓が魔法を唱え、星域で星刻機の本来の力を発揮できたのは、星刻機本体からの魔法であって、楓の魔法ではないからという理由らしい。

魔力が無いという事は欠点としか思えないが、戦いが有利になると聞いたことを思い出し、少しはほっとした楓だったが、周りに並置かれた本棚を見るなり、その優越感は消え去った。


「なんだこれ……。なんも読めねえじゃねえか!」


本棚に並ぶ本はすべて、見たことも無い文字で書かれていた。

古代文字でも、ハングル文字でもない、ウネウネとした謎の文字。


「まあ、人間には読めんやろなあ。この文字は純天使が使っていた暗号みたいなもんじゃ」


撮影に夢中になっているエルシオは置いておき、楓は本棚から本を一冊手に取りペラペラと捲っていく。

見れば見るほどよく分からないその文字を見て、楓は眉を寄せる。


「じっちゃんはこれが読めんのか?」


「あぁ。読めるとも」


自慢げに答えるじっちゃんは、楓に一冊の本を渡した。

妙に分厚いその本の表紙は黒く、題名などの記載は無い。


「なんの本だ? これ」


先程と同じようにペラペラと捲っていくと、

眉は寄らず、代わりに、驚きで目を見開いた。


「これ、日本語じゃねーか!」


その本の内容は、純天使の古代文字を、日本語に訳せるものだった。

きっと、初めてローズベルクに来た時に見たあの紙の日本語は、この本を見て書いたものなのだろう。


「それはお前さんにやるよ。 わしはもう使わんしからのお」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ツリーハウスまで登るためには、はしごを使わなければならない。

木の枝から地面スレスレまで吊るされたはしごに足をかけ、慎重に降りていく。


「おい、絶対手滑らせて落ちてきたりするなよ? 俺はお前を支えられるほど腕力に自身はないからな」


「ふりですか?」


じっちゃんに別れを告げ、ツリーハウスから出た楓達。


「ふぅ。なんとか降りれたな。ってか、結局ゲートでローズベルクに戻るんなら、別に上でも良かったんじゃ…」


「ゲートを開くには十分に場所を確保する必要があるのです。木の上でなんてゲートは開けませんよ」


納得し、そうかと返答する楓。

ローズベルクに帰るため、エルシオはゲートを開く。



星域のじっちゃんと話していて、楓が疑問に思った点は山ほどある。

その中でも、特に気になる点をまとめると、とりあえず生まれてくる疑問は、


ーーーーーー『王』は何故楓の記憶を消したのか。そして、ポイントを0にしたのか。


それをしたのが『王』と決めつけるのはまだ早い。

だが、じっちゃんの言う『純天使』は、既に殆どが生きておらず、生き残りも少ないと言う。

ならば、数は極めて少なく、楓の記憶を消した犯人も、探せばすぐに見つかるはずだ。


「はぁ〜。 俺、父さんの記憶取り戻せんのかな」


エルシオの人間嫌いの克服の事で頭がいっぱいになっていた楓は、自分のための目標をいつの間にか忘れていた。

自分の父親の記憶を取り戻す。それが、楓の目標であり、この世界に残る意味でもある。


「取り戻せるはずなのです! 記憶を奪った純天使とやらを見つければ、何とかなりますよ!」


楓のくらい雰囲気を読み取ったのか、明るく返答するエルシオ。

そんな健気な姿に心を温められた楓は、現れたゲートにエルシオと共に飛び込んだ。


ゲートは、潜ったらすぐに目的地へ到着というものではなく、中に入ってから真っ暗闇の中をグングンと進んでいく感覚に囚われながら、少し時間が経ってから、目的地に到着するものである。

どちらにせよ便利な事に変わりはないが、後者の場合、このまま暗闇から出られないのではないかと不安が生まれてくる。

無音のその空間で、まるでジェットコースターに乗っているかのような感覚に浸りながら、スピードを上げて暗闇の中を進んでいく。



ーーーーーーそういえば……



星域のじっちゃんの家にあった、ある本を思い出した。

その本は、家の隅にある机の上に置き去りにされていた。コソッと楓が開いてみても、その内容はよく分からない。

だが、その本はただの本ではなく、ペンがそばに置いてあり、ペラペラと捲ってみた時に少しインクが滲んでいる部分がある所を見て、じっちゃんが、自分で書いているものだと推測した。


案の定、その本はじっちゃんが書いたものであり、それは、じっちゃんの日記だった。

今までの出来事がビッシリと書き揃えてある中、一際目立つ濃く太い字で書かれたいくつもの文を見つけた。

その内容を問うと、じっちゃんは少し照れくさそうにこう答えてくれた。


やりたい事を、書き留めている。と。


その言葉を聞いた時、自分の母親を思い出したのだ。


楓の母親、片山椛も、じっちゃんと同じように、やりたい事リストを作り冷蔵庫にマグネットで貼っていた。

その内容を、楓はもう覚えていない。

自分のやりたい事にさえ興味がなかったのだ。母親のやりたい事に興味を持つはずもなかった。


ーーーーーー母さん、元気にしてるかな。


やりたい事を、しっかりとやってくれているだろうか。

健康的な毎日を過ごしてくれているだろうか。

自分の母親と、アレシアを亡くしたばかりのエルシオとが重なり、胸が苦しくなる。

消えてしまう側の気持ちは、楓は理解出来ている気でいる。

確かに、消えてしまう側は、もう会えない。もう話せない。もうここに来れない。などの、恐怖を感じるとともに、寂しく、悲しい気持ちになることに間違いはない。

それは、楓もこの世界に来た時に味わった感情であり、これからもずっと心の中から消えることは無い感情だ。


だが、残される側の気持ちは、いったいどんなものなのだろうか。

楓は、1度父親を亡くした時に、この気持ちを味わっていたはずなのだが、今は全く思い出せないでいる。

だから、分からないのだ。

エルシオのように、生きる希望を失ってしまうほど、心が壊れてしまうものなのだろうか。

自分の母親には、生きる希望はまだ残っているだろうか。

その答えは、もう分からない。

だが、一つだけ、消える側よりも残された側の方が辛い事がある。

それは、


まだ時間があること。


その時間の過ごし方は、残された側にとってとても辛いものになるのだ。

ずっと一緒だった、ずっと隣にいた筈だったのに、急に消えてしまったその時、自分をしっかりと持ち、今まで通りに自分の道を、ひとりで歩むことが出来るのだろうか。



ーーーーーー母さんは……






考える度に瞳が曇る。




だから、目を閉じ到着を待った。



明るくなった瞼の外の世界は、まだ目が慣れておらず、眩しくて仕方がなかった。


「楓くん、大丈夫なのですか? 少し顔色が悪いのです」


「大丈夫よぉ! きっと疲れてるのよねこの鍋、あと残り汁しかないけど飲んで! 美味しいわよ!」




ーーーーーー母さん。おれは元気だよ。そんでもって、幸せだよ。



本当はあるはずも無かったこの時間は、楓に友達を与えてくれた。

優しさを与えてくれた。

まだ時間がある事に感謝し、二人に向けて笑顔を向ける。


「ただいま」


眩しすぎるこの部屋の床に腰掛け、残り汁を少し飲むためお茶碗に口をつける。



ーーーーーーまだある時間を、幸せに過ごしててくれよ。



熱くて美味しいその汁を飲み干すと、エフィルロに向けて、




「なんで具がねえんだよぉおおおお!!!」




いつも通りのツッコミを、エフィルロに投げかけるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ