10話 希望は一人の親友へ
10話です
「今日も仕事よー!!!!」
どこか楽しそうにそう叫んだエフィルロに続き、おー!と、掛け声をあげるエルシオとアレシア。
いつもと同じように、ゲートに飛び込んだ3人は仕事をコツコツとこなしていく。
「あとひとりね・・・・・・いくわよ!」
エフィルロの声を聞き、まだあるのかと弱音を吐きながらゆらゆらと歩くエルシオ。
その横で、まだ元気そうなアレシア。
「アレシア、何でそんなに元気なのですか? 今日はたくさん歩いて疲れたのです」
今日のターゲットは5人。1日に3人以上の人間に粉をかけることは珍しい事であり、疲れてしまうのも無理もない。
「いいじゃないの。不幸になった人間を幸せにしてあげられるのよ? これは、私たちにしかできない仕事なの」
そう、ポニーテールを揺らしながら語ったアレシアは、エフィルロに次のターゲットを聞くなり、その方向へグングンと進んでいく。
「エルシオ! 歩くの遅いわよ!?」
後ろの方を亀並みのスピードでダラダラと歩くエルシオを見てエフィルロは突っ込む。
「もう疲れたのです〜。でも、人間に幸せを配るためなんですよねっ。がんばるのです!」
張り切り腕をまくるエルシオを見て、アレシアは笑をこぼす。
「さあ、頑張りましょう!」
大きな壺を抱えながら振り返ること無く答えたエフィルロ。
「次はここね」
目的地を見つけ、目を輝かせたアレシアは、受け取っていた粉を持って中へ入っていく。
そこは古びた一軒家。瓦の屋根をした、比較的小さな家だ。
中には、膝を抱えて蹲る一人の少年がいた。
その前にある棚には、母親だろうか?一人の女性の写真が飾られている。
アレシアは、ターゲットの写真と屋内にいた少年とを交互に見て、よしと頷くと、少年に持っていた粉をかけていく。
かけながら、いつもと同じようにアレシアはこう呟いた。
「あなたに、幸福が訪れますように」
粉をかけられた少年は、全ての粉がかけられた後、下を向いていた顔を上げて目の前の写真を見つめる。
そして、どこか寂しげな表情を見せた後、何かを振り切ったように立ち上がった。
「幸せになってね」
アレシアは、その少年にそう言って微笑みかける。
「終わったのです! 帰ってご飯なのです!」
仕事が終わり、すっかり元気になったエルシオは、歓喜のあまり踊り出す。
「エルシオ! 嬉しい時はこれよ!」
手を挙げてエルシオを呼ぶアレシア。
「嬉しい時はアレですね!」
昔から、嬉しい時にハイタッチしていた記憶が蘇る。
パシンと達成感が溢れるいい音を響かせた二人の手のひらを、優しく見つめるエフィルロ。
「ふふっ。じゃあ、帰ろうか。」
エフィルロの合図とともにの現れたゲートに3人は入っていった。
天界に戻り、エフィルロとも別れたふたりは、歩いて自分達の家まで帰っていく。
帰り道、ふたりはいつものようにたわいのない会話をしていた。
「今日も武器を使う相手は現れなかったのです」
「そんなの滅多に現れないわよ」
そんなフラグを立てる中、目の前に黒い固まりが現れ、こちらに向かってくるのが見えた。
「あれは・・・・・・なんで、いくら何でもフラグ回収が早すぎ・・・・・・って、逃げるわよ! エルシオ!」
「え、あ、うん!!」
死神だ。結界が貼られているこの天界で、死神が現れることなど滅多にない。
結界が壊されたとしか考えられない。
ふたりは今まで歩いてきた道を全速力で走る中、途中で羽を生やし宙に浮く。
しかし、
「死神って飛べるのですね!」
「うそでしょ!?」
空を飛びながらひたすら逃げるふたり。
その後ろを、知能の低い死神が追ってくる。
段々と距離を縮めてくる死神。
ここまで来たら手段は一つだけ。
「アレシアは先に行くのです」
「い、いやちょっと待って・・・・・・!」
急ブレーキがかかったように、ピタリと止まり後ろを振り向くエルシオ。
スピードに乗っていたアレシアはなかなか止まることができない。
やっとの事で止まって振り向いたアレシアは、後ろを振り向く。
そこで見たのは、双剣を両手持った、一人の天使。
その姿はまるで、天界騎士。
次々と黒い物体は切り刻まれていく。
その周りを物凄いスピードで飛び回る天使。
そんな姿を見てアレシアは、まだ幼かった頃の記憶が蘇る。まだ、一人で歩くことも出来なかった頃の記憶だ。ぼんやりとだが、確かにその記憶はあった。
「お母・・・・・・さん・・・・・・」
目の前の天使と、自分の母親が重なる。
死神に殺された、母親の姿と。
「待って・・・・・・やめて! 死なないで! お願い! 私を一人にしないで。エルシオには死んで欲しくないの! 戦うのは、もうやめて!」
喉がはち切れそうになるほどそう叫んだ。
全身の力を込めて、涙を流しながら、エルシオに届くように。
遠くの方で、黒い物体が消滅していく姿が見える。
そのすぐ側にいた天使は、アレシアの方を振り向き、ニコッと微笑んだ後、真面目な顔でこう答える。
「見てたでしょ? アレシア。私は強くなったのです。そりゃあ、もっと強い死神にはまだまだ歯が立たないかもですけど・・・・・・
私は死なない! 絶対に! 生きて、生きて生きて生きて! おばあちゃんになるまで、アレシアと一緒にいるのです!
これからもっともっと強くなって、どんな死神も倒せるようになるのです! 天界騎士になって、みんなを守るのです!! だから、アレシアは心配しなくていいのです!」
そう言い放つエルシオの目は潤んでいていながらも、クシャッとした笑顔をアレシアに向けている。
エルシオのやりたい事を応援したい。そうは言ったものの、アレシアの本心は不安で満たされていたのだった。エルシオの事が心配で心配で仕方なかった。
自分の両親と同じ道を辿ってしまうのではないか、
大好きなエルシオが、自分の元から姿を消していまうのではないか、と。
そんな事をエルシオに知られたら、エルシオのやりたい事を妨げてしまうかもしれないと、これまで隠していたのだが、エルシオにはお見通しだった。
「全部知ってたんだね・・・・・・ごめんね」
ゆっくりとアレシアに近づいたエルシオは、アレシアの手を握るとこう答える。
「アレシアが謝ることないのです! 心配されて嫌になることなんてないので。でも、私、天界騎士になりたいのです! それで、みんなを守りたいのです!」
今までずっと一緒だったアレシアには、エルシオがどれだけ本気か、悩んだか、努力したかが伝わってくる。
胸に刻んだ決意を聞いたアレシアの、出した答えは一つだけ。
「わかった。でも約束。私の側から、離れないでね」
「アレシア〜!!!」
目の前のエルシオと同じような笑顔でそう告げたアレシア。
そんなアレシアに抱きつく事で返事をしたエルシオは、自分の手を顔の横に持ってくる。
「ハイタッチ! 早く!」
「そうね!」
「嬉しいことがあった時は・・・・・・」
その直後、重ねられたふたつの手のひらは綺麗な音をたて、その音は、大空に響き渡った。
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それから暫くしてエルシオは、天界騎士団に誘われた。
地上から死神とエルシオの空中戦を見ていた天使の中に、天界騎士団の一員がいた事が一番の理由だろう。
それ以外にも、エルシオの戦闘能力が親譲りで元々高かったという事。
二刀流という、特別な戦い方をするという事。
それらの理由と共に、エルシオの努力が実った事により、エルシオは天界騎士団に所属する事になった。
それから、エルシオとアレシアの生活はガラッと変わった。
エフィルロの手伝いをする仕事は、アレシアひとりでの仕事になった。
その間、エルシオは、破られた結界を張り直し、その後、天界に入ってきた死神たちを駆除する仕事をしていた。
一緒にいることは少なくなったものの、ふたりで住んでいることには変わりなく、幸せに暮らしていた。
だが、エフィルロとの三人で人間界に行き仕事をする事は、二度と無かった。
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エルシオが天界騎士団に入ってからかれこれ一年経った頃。
結界の修復作業も無事終わり、天界に入ってきた死神もほとんど駆除する事が出来ていた。肝心の結界を破った知能の高い死神が現れることは無く、まだ倒すことが出来ていないのだが。
アレシアは今までと同じように、エフィルロの手伝いや、家での家事をしていた。
「ただいまなのです!」
「おかえりエルシオー! ご飯出来てるよ」
エルシオが帰ってきてふたりが揃ったら、いただきますとふたりで揃って言って食べるご飯はいつも通りのこと。たった一年のこんな生活だが、慣れるのにあまり時間は必要としなかった。
「今日ね、エフィルロと一緒に仕事してたら、すごく綺麗な花を見つけたの」
そう言いながら、食事中にも関わらずカメラをエルシオに見せつけるアレシア。
「綺麗な花なのです〜」
カメラに映されたその紫色や、ピンク色の綺麗な花。
そんな花を興味深々な態度で見つめるエルシオに向かって、アレシアは、
「今度は・・・・・・エルシオも一緒に見に行こうね!」
うん!と元気よく返事をした後、急に黙り込んだエルシオを見て、アレシアはどうしたのか尋ねる。
「私は、ずっと仕事はめんどくさいと思っていたのです。人間界に三人で行くのは、すごく楽しかったけど、人間に粉をかけるなんて全く楽しくなかった・・・・・・。
でも、今ならわかるのです。確かに楽しくは無かったけど、人間を幸せにいていくことで、少しだけど、自分も幸せになれてたんだって」
思いを語るエルシオ。それを聞きながら、何も言わず、ただ頷くアレシア。俯いていた顔をあげ、アレシアを見るとエルシオはこう続ける。
「人間の幸せを、自分の幸せのように感じている自分が、心のどこかにいて、これは変なことなのですかね?」
ふふっと笑いながら、首を横に振ったアレシアは、まだ温かいご飯の上を通った手で、エルシオの頬に触れる。
「変なのかもね。でも、私もそう思うから。やっぱりそれは、人間が好きだからだと思うの。
好きな天使の幸せって、自分の幸せのように感じるでしょ?」
「確かに・・・・・・そうなのかもしれないのです」
「でしょ! エルシオの幸せは、私の幸せでもあるから」
「そんなこと言われると・・・・・・照れるのです」
頬に触れていた手をアレシアが元あった場所に戻すと、照れたようにクスッと笑う。真っ赤に染まった頬をエルシオが両手で隠すと、その後、ふたりは同時に笑い出す。
幸せな毎日を笑いながら過ごせる時間が、とても愛おしくて。
幸せを共有できるふたりは、目の前のご飯のように暖かい。
もはや家族なのだろう。ずっとふたりで暮らし、共に楽しみ、共に泣き、共に生きる。例え血が繋がっていなくても、家族と同じ、いや、家族以上の繋がりがあると言っても、過言ではない。
そんなふたりは、目の前のご飯をぺろりと平らげた。
そのあと、共に見ようと約束した花の写真を思い出し、布団の中でにやけるエルシオは、隣で寝ているアレシアの寝息を聴き、一緒にいられる幸せを噛み締めながら、安心したように眠ったのだった。
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「やはり都心を狙うのが手っ取り早いかと」
暗闇の中でニヤリと笑い、鋭く尖った歯が見える。
「いいやぁ、何やら新しい天界騎士が増えたようでねぇえ。そこ、狙っちゃおうかなぁあ!!」
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いつも通り、天界騎士団の仕事へ向かったエルシオ。
今日はアレシアは仕事が休みのため、家で穏やかにゴロゴロする日であった。
奴らが来るまでは
「あ、あなた達は誰?」
突然部屋の中に現れたゲートから現れたふたり。
「あれぇ、二刀流の天使はどこぉお」
「死神・・・・・・いやでも、体が」
目の前のふたりは、人間のように両手両足が揃っており、今まで見てきた死神とは訳が違う。
「体・・・・・・あぁ、俺達は少しばかり頭がいい死神なんだよ。そうですよね?」
あぁと応えるもう一人の死神。
見たところ、はじめに話し始めた話し方が異常な奴の方が立場が上で間違いないだろう。
二人で話す時の言葉遣いでもわかるが、それ以上に・・・・・・
圧倒的風格。黒い。とにかく黒い。今まで見てきた知能の低い死神は、ただ黒い塊のようで、目の前の立場の低い死神は、人間のようだ。
だが、こいつは違う。黒い。そんな一言では表せないほどのどす黒い負のオーラを、服とは別に身にまとっているよう。それに身長も高く、目つきが悪い。
一目見ただけでわかるのだ。
死神だと。
恐怖。恐怖。恐怖。ひとつの感情しか生まれない。逃げなければならない。勝てるはずがない。殺される。殺意が完全にこちらを向いている。
「それでぇえ。 二刀流の天使はどこぉお?」
そんな死神が放ったその声。背筋がゾッとする。殺される。そんな恐怖だけがアレシアを襲う。
だが、アレシアは死神を睨んだまま無言をやめようとしない。答えたくない。エルシオの事を易々と話す訳にはいかない。そんなのは当たり前だ。だが、無言の理由はそれだけではない。
口が開かない。やっとの事で開いた口だが、喉から声が出ない。苦しい。目の前にいるだけなのに、まるで四方八方から何かで押さえつけられているかのように体がかたまり、何か重りを付けられているかのように体が重い。
「ねぇえ。教えてくれないのぉお?」
「ゔぅ・・・・・・」
アレシアの髪を掴み、高い身長を生かし上に引く黒い死神。
その大きな手で、次は頭を掴んで上に持ち上げる。
苦しみつつも死神を睨む事とうめき声をあげる事しかできないアレシアに、眉を寄せる黒い死神。
鈍い音と共に、アレシアの腹部あたりに何かが刺さる。
「うぐっ・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・」
「これでも何も言いませんかね?」
剣を刺した死神は、驚いたように目を丸くして黒い死神の方を見る。
「馬鹿なんですかねぇえ。 居場所を言えば楽に死ねるのにぃい!?」
完全に怒り口調になっている黒い死神は、頭を掴む右手とは逆の、左手で何やら合図をする。すると、その左手に一本の剣が握られた。
その後アレシアの耳元で、今までとは変わった低い声が呟かれる。
「もう一度だけ問う。二刀流の天使はどこだ」
今までがおふざけだったのか。それとも、今怒りが最高潮に達しているのか。
どちらにしても、これまでの恐怖とは一変している。
奇怪的な恐怖から、脅威的な恐怖に変わる。
口から吐いた血で、床が赤に染まる。
それを見たアレシアはそこで、終わりを迎えると感じた。
助けて欲しい。そんな考えは浮かんでこない。
苦しい。死にたくない。まだやりたい事が沢山ある。死ねない。まだ約束がある。
花を一緒に見るんだ。
ご飯も作らなきゃ・・・・・・エルシオが帰ってくるから。
エルシオが・・・・・・
頭の中で映るエルシオとの思い出。これが走馬灯なのだろうか。
楽しかった。辛かった。泣いた。怒った。嫌いになった。好きになった。一緒に泣いた。一緒に喜びを分かち合った。
ふたりで、
もう、会えない・・・・・・
ふと、あの時を思い出す。
『これから、もっともっと強くなって・・・・・・どんな死神でも倒せるようになるから!!』
全身から力が抜ける。強ばっていた頬からも力が抜け、少しばかり微笑む。
喉が緊張から解き放たれる。声が出る。
痛みなんかとうの昔に忘れてしまった。
腹部に刺さった剣など今はどうでもいい。
痛いのは心だけ。
「ま・・・・・・待ってなさい・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーごめんね。おばあちゃんになるまで、一緒に居られないや。
「あ?」
部屋の壁に叩きつけられ、何かが折れる音がする。
それが家の柱だとしても、体の一部だとしても、もうアレシアには関係のないことだ。
最後には、言いたいことを、言えるだけ。
口に溜まった血を地面に吐き、目の前のふたりの死神を睨んだ後、喉が潰れる事を実感しながら叫ぶ。
「待ってなさい・・・・・・あなた達なんて」
ーーーーーーーーーーーーごめんね。仕事も、もう一緒に出来なくなっちゃった。
「私の・・・・・・自慢の親友がぁ、これから、お前達死神を、ひとり残らず殺せるような・・・・・・一番の天界騎士になるわ」
うまく声が出ない。
目の前の死神たちが笑っているのが目に映る。
馬鹿にしているのだろう。
関係ない。今に見てろ。
右手を振りあげようとするが、骨が折れているのか上手く上がらない。
左手を代わりにあげたアレシア。
「何ですかぁ? 手なんてあげてぇ?」
最後の力を振り絞り、魔法を唱えた。
ーーーーーーーーーーーー最後なんだから、大事にパシンと決めなさいよ?
物置で光り輝く何かに気が付かない死神たちは、その魔法の詠唱を聞き警戒する。
「大口叩いたと思えばぁ、あなたの唱えられる魔法になんて限界があるでしょうにぃ。そしてそんな呪文ら今更なんにぃ? ・・・・・・まぁいいやぁ。教えてくれないならぁあ。それでいいよぉ」
黒い死神は、手に持った剣を掴んでいた天使に向かって振り下ろす。
ーーーーーーーーーーーー今までありがとね、エルシオ。
心の中でそう呟くと、心臓は鼓動を打つのをやめ、肺は呼吸を失った。
たったひとりの親友に、全ての希望を託して。
久しぶりの投稿になってしまいました……
すみませんm(__)m




